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Weps うち明け話 #1062

すっぴん(2021年1月15日)

 

 昨年はそれまでで一番多く自分の顔を見ただろう。

 毎朝、顔を洗うときに見る、鏡に写った顔ではない。他人から見た自分の顔だ。

 鏡で自分を見るときは左右が逆になるし、無意識に「見良く」なるように角度や表情を調整しているらしい。もちろんそれも自分の顔なのだが、ふだん周りの人が見ているものとは少し違うはずだ。他人から見た顔、しかも見られていることを意識しないときの顔が、本当の意味で「すっぴん」と呼んでいいのではないか。

 

 声も、骨を通して聴いている自分の声と、他人が聴く自分の声とは少し違う。

 初めてテープレコーダーで自分の本当の声を聴いたときは、びっくりしたのを覚えているが、今は仕事でインタビューなどの録音を書き起こすときに自分の質問も聞こえるから、自分の「本当の声」にはだいぶ慣れている。

 だが、顔は見るとしても写真が多いし、それはほとんどの場合、撮られることを意識した表情だから上に書いた「すっぴん」とは少し違う。

 

 昨年からコロナ禍でリモート取材やリモート記者会見が普通になった。相手の顔を見て取材ができるという点では電話よりも良いし、複数の人間が一度に参加できるという電話にはない利点もある。そのままパソコンに記録もできる。

 ただ、そのときは会話が中心なので自分の顔がどう映っているか、まったく気にしない。つまり不用心、無警戒、無防備の「すっぴん」なのである。「スピーカービュー」という、発言している人の顔だけが大きくなるモードにすることが多いのだが、それだと自分が話したときいきなり自分の素の顔がアップで目に飛び込んできて、びっくりする。

 つまり、ふだん周りの人が見ている自分の「すっぴん」が見えるのだ。

 すぐに無意識に格好を付けてしまっているかもしれないが、一瞬でもそれが見えたのは貴重な機会だと思う。

 自分の「すっぴん」を知ることで、鏡に写していないときでも、自分の顔を少しでも周りから見良くする努力ができるだろうから。

 

 浦和レッズのことを客観的に見ることは、僕にとって簡単ではない。

 試合は間違いなく肩入れして見ているし、他のことに関してもレッズ目線での見方になる。

 しかしシーズンオフになると、レッズを取材する機会は減るし、ネットの書き込みを含めた他の情報に接することが相対的に多くなる。2020シーズンの総括的な論評とか、移籍をめぐる報道とか、レッズの強化策についての評価とか。そろそろ「補強満足度」みたいなランキングや、順位予想が出てくるかもしれない。

 

 それらを目にしたとき、毎日のようにレッズの選手やスタッフと接しているシーズン中と、そうではないオフ中とでは受け止め方が若干違うような気がする。

 シーズンオフの期間は、レッズに対する批判、悪口、罵詈雑言を、比較的冷静に受け止めているかもしれない。全面的に肯定するとか鵜呑みにするとかではないが、「そういうこともあるかもしれない」「こう言われないように気を付けないといけない」と思うことが多くなるのだ。シーズン中は「ふざけんなよ」「何言ってんだ、こいつ」とかいう気持ちが先に立ってしまうのだが、オフのときはレッズの「すっぴん」の一部として受け止める余裕があるのだろうか。

 

 そう思ったのも束の間。

 Jリーグの開幕戦カードが告知され、レッズからは2021シーズンの指導体制と選手の背番号が発表された。17日(日)にはリカルド・ロドリゲス監督の記者会見が行われ、18日(月)には練習が開始される。同時に新加入選手の記者会見も実施される。

 徐々に自分がシーズンモードに変わっていくのが分かる。

 新型コロナウィルス感染者が、昨季のシーズン中より多くなっているなかでの開幕になりそうなのが残念だし、キャンプでのチーム作りもどこまで取材できるのか不明だが、それでも2021シーズンの始まりに近付いている。

 

 シーズンインに向かう自分の変化を感じながらも、今季はシーズン中もオフの時期に接したレッズの「すっぴん」を忘れないようにしようと思っている。

 たとえネガティブなことでも、それを意識することで長い目で見れば浦和レッズをより良くすることにつながるだろうから。


EXTRA

 昨年はYouTube「清尾淳のレッズ話」を始めたこともあって、週に最低2回は公開前のチェックで自分の「すっぴん」に近いものを見る。チェックと言っても顔の映りや着ているものが気に入らないからと撮り直すことはまずない。話し間違いがあったときにテロップを入れる場所を確認するくらいだ。先日など、部屋のブラインドに洗濯物を干すピンチハンガーが掛かったままで、恥ずかしいレベルのみっともなさだった(#42・#43)。それでもYouTubeは撮られていることを意識しているから、本当の「すっぴん」ではない。まだマシである。自分の顔を見て、太ったな、老けたな、と思っても想定の範囲内だ。それに少しでも見苦しくない容貌になろうという努力のきっかけにはなっている。その成否はともかく。

 容貌より大事なのはもちろん内容だが。

 

(文:清尾 淳)