1. TOP
  2. Weps うち明け話

Weps うち明け話 #1063

野心と伸びしろ、そして備え(2021年1月28日)

 

 

 先週、今季の公式戦日程が発表された。

 スマホとパソコンに1試合1試合、書き(?)写しながら、去年も今ごろこうやったけど6月に全部書き直したっけ、と嫌なことを思い出した。

 今季は絶対に、この日程を貫徹させるぞ、と意気込んでも、そのために自分にできることは、感染しないこと、万一知らないうちに感染してしまっていても周りに感染させないこと、を徹底するしかないんだけど。

 

 ずっと見ていって、第35節、第36節…。

 一瞬、違和感があった。そうか今季はJリーグだけで38試合あるんだった。20チームというのはイングランド・プレミアリーグやイタリア・セリエAと同じだなとも思ったが、同時に今季は4チームが降格するんだという危機感も覚えた。

「開幕前から降格のこと言ってて、どうすんだよ!」

 そう。10年前なら考えもしなかっただろう。

 だが躍進への期待と並行して、思惑が外れたときの備えも絶対に必要だというのが、浦和レッズをずっと見てきて身に染みている教訓だ。「備え」をするのはクラブだから、僕は「それを忘れるな」と言い続けることしかできない。ゴミ出しのルールにうるさい近所のジイサン、みたいだけど。

 

 1月17日・18日の、監督および新加入選手のオンライン記者会見で感じたことを短い言葉で表現すれば、「野心と伸びしろ」だ。

 2つとも悪い意味ではないが、いずれも「将来」「今後」という背景とセットになった言葉で、「実績」と同義語ではない。

 

 ロドリゲス監督が徳島を4シーズンでJ2優勝に導いたという実績はあるが、だからといってそれを、J1で一昨年14位・昨季10位だったチームを今季3位以上に引き上げることと同じ意味にとらえるのは、まだ早いだろう。

 また新加入選手の顔ぶれもそうだ。

 対戦相手として嫌だった選手ほど、味方になれば活躍してくれることが多いものだが、最近で言うと特に2013年(那須大亮、関口訓充、興梠慎三、森脇良太が加入)とか2014年(西川周作、青木拓矢、李忠成が加入)は、相手として嫌な選手だらけだった。だが、今季新加入した選手の中で、そういう印象が強くあるのは西大伍ぐらいで、他の選手がどういう活躍をしてくれるのか、まだ予測がつかない。

 外国籍選手を含め実績のある選手が何人もチームを離れた後で、「前途洋々たる若い選手が何人も入ってくれたからレッズの未来も明るい」と、結婚式で新郎を褒める会社の先輩みたいなことは言えないのだ。

 

 清尾にしてはシーズン前にネガティブな話をしているな、と自分でも思う。

 もちろんこれが今感じていることの全てではない。

 

 まず昨季、ロドリゲス監督の就任が噂の段階で早めに流れたことは、正直言って終盤の成績に悪影響を及ぼしたのではないかと思われるが、昨季から在籍している18人(やっぱり減ったなあ)にとって、その監督がどんなサッカーをするのかという研究や調査をする時間は、今季の始動までに十分あっただろう。シーズン末に強化担当者と面談をした際にも、そのことははっきりとうち出されたはずだ。

 当然、新加入の選手に移籍交渉をする際にも「来季のレッズはロドリゲス監督の下でこういうサッカーを目指す」ことが話されただろう。さらにJ2で徳島と対戦した選手は、そのサッカーを体感している。

 そういう点では日本で4年間の指揮を執ってきた監督だから「予習」がしやすい。僕もそうだったが、昨季末のJ2リーグや天皇杯をしっかり見たサポーターも少なくないだろう。

 

 18日からチームの練習が開始され、今週から沖縄でキャンプが始まった。

 開幕までの1か月で、どこまでロドリゲス監督のサッカーがレッズに浸透するのか、というのがまずは懸念されるところだが、そこに関しては大丈夫だろうと思っている。

 上で言ったように、多くの選手が監督のサッカーをどういうものかある程度は理解して練習に入っているはずで、今はそれぞれの選手がどういう動きをしてそれを表現するのか、という部分に力を入れているだろう。

 

 かつて、2009年にフォルカー・フィンケ監督が就任して「ポゼッション率で相手を上回り、パスをつなぐことを重視する」サッカーに舵を切ったとき、チームがそれを身につけるのにあまり長い時間はかからなかった。

 あの年は、開幕戦こそ鹿島に負けたが、その後9試合を7勝2分けの負けなしだった。連続無敗は9試合で止まったもののその後も白星先行で、リーグ前半戦は10勝4分け3敗と、新生チームとしてはまずまず以上の成績を収めていた。夏以降の後半戦は逆に6勝11敗と散々だったから、チームとして「成熟」するところまではいかなくても、形を身につけるのは早かったと言っていいと思う。

 

 自分たちが主導権を握り、仲間と連動してパスをつないでゴールを奪う、ということに喜びを感じない選手はいないだろう。楽しいことに取り組めば習熟も早い、ということではないだろうか。

 ロドリゲス監督も「徳島で初めて指揮をした1試合目では、やりたいサッカーはある程度みんなに見せることができたと思っている」と語っている。開幕まで、新しいレッズのサッカーが多くの人に見られる機会は少ないかもしれないが、FC東京戦では「リカレッズ」を見ることができるに違いない。

 

 だが、それと結果は別だ。

 相手チームも、レッズがどんなサッカーをするのか想像がつきやすい訳で、対策を取らないはずがない。新しい形はできたが、ゴールが決まらない、あるいは勝点3が取れないということも考えられる。そうならないように、形ができたところから一歩、二歩と前に進めるかどうかは、監督の引き出しの多さや選手のクオリティと向上心にかかっている。そこからが「野心と伸びしろ」の出番だ。

 そして思うように進まなかったときが、クラブの「備え」を発動させるときだ。


EXTRA

「リカ、と呼んでくれれば」とロドリゲス監督は言う。

 理科。おれ、文系なんだけど…。

 立夏。今年は5月5日で、ルヴァンの柏戦だな。

 李下。そこでは冠を正さず、ってか。

 こんな冗談、言えるくらい余裕が出るといいなあ。

 

(文:清尾 淳)