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Weps うち明け話 #1066

総監督という役職(2021年2月12日)

 

 

 2月9日(火)に浦和レッズレディースの2021シーズンに臨む新体制および新加入選手の記者会見が開催され、その後初練習が行われた。そして11日(木・祝)には公開練習と選手の記者会見が行われた。

 

 今秋のWEリーグ開幕に対応し、各クラブ、というより新規に参入するクラブが積極的に選手を集めまくり(新規だから当然だが)、女子サッカー界としては近年になく移籍情報が賑わっていた中で、レッズレディースは4選手が他クラブへ移籍あるいは引退するという報があっただけで獲得の話が聞こえて来ない。ユースから3人昇格というのはあったが、他はどうなっているのだろうと思っていた。

 9日の記者会見で新加入は昇格の3人だけ、ということがはっきりした。今後、海外でプレーする選手が「日本にプロリーグができたのなら」と戻ってくることは想像できるし、そういう時期に声を掛けることはあるだろうけど、それまではこの体制でいくということだ。

 

 もう一つの関心は、監督の問題だった。

 WEリーグは、当初6~10チームでスタートするとしていたのになでしこリーグ1部より多い11チームになったり(今の日本にプロに値する女子選手が11チーム分も存在するんか?)、奇数リーグは不合理なはずなのに「Jリーグも奇数リーグでやったシーズンがありました」と答えたり(過去の経験から奇数は良くないというのが定説になってるのに、誰も止めんかったんかい!)、とファジーすぎるのだが、「プロの指導はS級ライセンス保持者に限る」という部分は堅持するようで、移行期間すらも認めないようだ。

 それだけにA級ライセンスの森さんを総監督にして、S級ライセンスを持っている人を監督にするしかないんだろうな、とは思っていたが、総監督がレディースのトップチームだけでなく育成チームも統括するという位置付けを聞いて、よりポジティブな方法を採ったと思った。

 

 今季のレディースに登録された25人のうち、レディースユース出身者は15人(ジェフレディースから移籍してきた上野紗稀を含め)と6割を占めているし、昨季はメンバー18人、先発11人の半数がユース出身選手だった。トップ選手を自前で育てるという点では成功していると思う。そろそろ次の段階に進んではどうかと思っているところだ。

 それはトップチームとユースチームの両方でプレーする選手を育てていくこと。それもトップの試合でたまに途中出場するとかではなく、先発でプレーできる選手だ。もちろん、大先輩たちを押しのけて出場するにふさわしい力がなければ、トップチームの力を弱めるだけだ。その選手をトップで常に起用することが、本人の成長のためだけではなく、トップチームのためにも良いことでなければならない。

 またユースの練習にも参加し、ユースの試合にも出るわけだが、試合が連日になったり重なったりすることもある。そんなとき、どちらのチームで出場するか(あるいは連チャンになるか)を、状況により判断して決めなければならない。その選手がユースの試合に出なければ、ユースでは別の誰かが出場機会を得ることになるし、トップで試合を経験した選手がユースで練習したり、試合に出たりすることで、ユースのレベルアップにもつながる。

 そんな選手を育て、見極めるのは簡単ではない。トップからユース、ジュニアユースまでを1人の指導者が統括することは、その条件を整える一つなのではないかと思う。

 

 そういう方向性で進んでいたのだろうか。昨年末に行われた全日本U-15女子選手権決勝のスタンドでは当時の森監督と楠瀬ユース監督が並んで試合を見ていたし、年初の全日本U-18女子選手権には森監督が来ていた。まだ、今回の人事を知らなかったときだが、レッズの女子部門の関係を考えれば全く不思議ではなかった。

 

 話がそれた。

 レッズの女子部門全体を強化する役割を持つ総監督という役職を新設し、それに森さんが就任することは理にかなっていると思うし、後任監督として森さんとも親しい楠瀬さんがトップの指揮を執るというのもベストの選択だと思う。

 いろいろ難しいことも出てくるかもしれないが、今は楽しみの方が大きい。

 

 11日の練習後に行われた記者会見で塩越柚歩は、一昨年も昨年も皇后杯決勝で敗れて新年を迎えたが「リーグ戦でタイトルを獲り、自分も試合に多く起用されていただけに、昨年の敗戦の方が悔しかった」と語っていた。2冠を獲れるチャンスを逃したが、リーグ優勝の満足度より皇后杯準優勝の悔しさが今季のモチベーションになっているのが、残念な中にも前向きなものを見つけることができる。

 

 Jリーグがスタートしたとき、プレ大会のヤマザキナビスコカップ覇者や初代リーグ王者になったのはヴェルディだった。レッズはどちらかといえばスタートダッシュに失敗したクチだ(遠慮気味な言い方だな)。

 だがWEリーグ元年は浦和の時代にして欲しい。そしてまだ盤石とは言えなさそうなWEリーグだが、レッズレディースが成績だけでなく、いろいろな分野で成功例を作っていって欲しい。もちろんU-18やU-15年代でも。 

 

(文:清尾 淳)