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Weps うち明け話 #1074
拍手への返事(2021年3月22日)
ノートにメモを取るときは略語のオンパレードだ。
たとえば監督の話をメモるときによく出てくる「選手」「試合」はそれぞれ「P」「G」にしないと、とても追い付かない。
試合のときは、もともと横文字の言葉が多いから、「シュート」は「S」、「アディショナルタイム」は「AT」など比較的簡単に略せる。日本語はそのまま書くか、漢字の画数が多いときはひらがなにする。だが頻繁に出てくるときは自分で略語を作る。
今年になって、僕のノートに新たに登場した略語がある。
SDK
松竹歌劇団?
違う。それはSKD。
SDKは「SokujiDaKkai」=「即時奪回」の略。そのうち「SD」になるかもしれないが、ソーシャルディタンス、いやスポーツダイレクターと混同しそうだから、たぶん3文字のままだ。
「GP」=ゲーゲンプレスでもいいのかもしれないが、何となく四字熟語のまま略したかった。
即時奪回は、クラブが3年計画の中で、チームが身に付けるべき戦い方として柱に挙げた一つだ。
攻撃の際にパスやドリブルを相手にカットされても、当該選手または周りの選手がすぐに取り返す。相手にカウンター攻撃をやらせないだけでなく、相手がシフトを守備から攻撃に切り替えた瞬間にこちらが攻撃を再開すれば、ショートカウンターが成功しやすくなる。
得点の可能性を高めるために絶対に身に付けなければならないことだ。
21日(日)の川崎フロンターレ戦をメモしたノートを見返すと「SDK」があちこちにある。その時間を目安にビデオを見返すと、前半は何度も即時奪回ができていた。残念ながらそこからゴールを決められなかったのだが、この繰り返しが主導権を握る時間を長くし、その分相手の攻撃の時間を減らす、つまりは勝利に近付くことになる。
これまでの試合でもSDKの場面はあったが、川崎戦はやや多かったように思う。それだけレッズがボールを保持して攻撃していたということであり、シュートに行く前に攻撃が川崎にカットされたということでもあるが、SDKができていれば、逆にチャンスも増えたはずで、川崎戦の前半は完全なレッズペースだった。42分の失点の場面をのぞいては。
0-5のスコアは惨敗だが、前半の戦いは良かった。だから、その時間を長くしていけばいい。
と言うほど能天気ではない。
前半できたことが、なぜ後半できないのか。
あれだけ相手を押し込みながら失点してしまったことで気落ちするのはわかる。だが、すぐにハーフタイムになったのだから、あの1点でガタガタ崩れることはないはずだ。前半こんなはずじゃないと戸惑っていた川崎がいつもの戦い方を取り戻したにしても、レッズが前半の立ち上がりのように勇気を持って向かっていれば、あれだけ多くのゴールシーンを相手に与えることはなかったはずだ。
後半4分の失点は、前半できていたSDKができなかったところからやられた。それ以降は、前半とまったく別のチームになったかのようだった。 6分、8分と立て続けに点を取られ、近くにいた記者が「何点入るかわからないな」とつぶやいたとき、僕はふと気が付いてスタンドを見た。
以前なら、席を立つ人の姿が出てくる状況だ。
だが、僕が見落としたのだろうか、コンコースに消えていく人は見えなかった。
もはや、勝利を望んでいるファン・サポーターは皆無だっただろう。だが1点取ってほしい。埼スタでレッズが得点するところを見たい。それが、その場を動かなかった大きな理由に違いない。決して後半になって強くなった風雨が、帰ろうとする足を止めていたわけではないはずだ。
1点取れ!
後半だけを見ていたのなら、そんな気持ちも起こらなかったかもしれない。
前半のレッズを知っているから、そこに希望を持った。追い付くのは無理でも1点取る力はあるはずだ、と。
しかし、その期待には、ついに応えられなかった。
場内を一周するときに浴びた、少なくない拍手を、選手たちはどう受け止めたのか。
前半は何度も大きな拍手が起きた。それは、もちろん局面でレッズの選手たちが戦い、良いプレーをしていたからだ。
しかし、試合後の拍手は、前半の戦いへの称賛もあるかもしれないが、今後の成長への期待を込めたものだったと思う。前進は確認した。この調子でもっと成長してほしい。今日の相手を倒せるまでに強くなってくれ、と。
1日オフを挟んだ明日からの練習では、久しぶりに全員で通常のトレーニングができる。
そのときに、モチベーションにしてほしいのは、川崎に0-5で負けた悔しさと共に、あの試合後の拍手だ。
次のルヴァンカップ柏戦、その次のリーグ鹿島戦。2試合ホームゲームが続く。
川崎に借りを返す機会は11月までないが、あの拍手へ返事をする日はすぐにやって来る。
同じ場所、埼スタで良い返事をするために、練習してほしい。
(文:清尾 淳)