スタイルの構築と個の力（2021年3月26日）

 

　２月27日(土)にＪリーグが開幕してから、初めて週の半ばに試合がなかった。

　今週、大原の練習が公開されたのはオフ明けの３月23日(火)だけで、スタイル構築の練習も紅白戦も見られなかったが、リカルド監督は満を持して、連戦の間に出た課題を改善しようとしているだろうし、選手たちも真正面から取り組んでいるだろう。

　新しい監督と多くの新加入選手を迎えて新しいスタイルを身に付けようとしているレッズにとって、全体での練習時間がしっかり取れる今週と来週は貴重な機会だ。

 

　チームは、特に川崎戦のあと場内を一周した選手たちは、ファン・サポーターの多くが、嵐のような風雨の中、最後まで試合を見守って応援してくれ、試合が終わっても席を立たずに送ってくれた拍手を、どう受け止めたのだろうか。

　多くの人がひとこと言いたかったはずだ。

「前半は良かったぞ」かもしれないし、「どうして前半のサッカーが続けられないんだ」かもしれない。

「シュート決めろよ」と言いたい人は多いに違いないし、そこに選手個人の名前を加えることもあるだろう。

「失点何とかしろよ」と誰にも共通する思いをぶつける人もいて普通だ。

　

　だが制限がある中、声に代わるものが拍手しかなかった、ということだ。

　あの拍手が称賛だけを示していると思った選手はいないだろうが、そこに込められた叱咤激励、それも「叱咤」の方にだいぶ重心が傾いた気持ちを選手はしっかりくみ取り、次の試合に活かして欲しい。

 

　大久保智明は川崎戦を終えて「危機感が増した」と語っている。

　成長していることをポジティブに考えていくことは大事だし、レッズはまだ発展途上なのだから、長い目で見ていく必要があるのはわかるが、それで自分を甘やかしてはいない。

　大久保は自分の大学時代を振り返ってこう語った。

「自分が所属していた中央大学サッカー部の去年の状況に少し似ている気がしています。中大も去年は、１年生が出ているから仕方がない、まだチーム作りの途中だから仕方がない、と言っていましたが、気づいたら取り戻せない勝点になっていました。うまくいかないとかチームとして発展途上だとかはあっても、結果にこだわっていかないといけません。」

 

　発展途上であろうと関係なく大事なこと。

　それはフィニッシュの場面での個の力だと言う。

「そういう場面で決めきるというのはチームの戦術云々ではなく、個の部分ですよね。そこでは完成途中というのは関係ないと思っています。特に攻撃の選手においては、そこで決めていかないと自分の評価も上がらないし、チームの勝利にもつながらないと思っています。」

 

　そうなのだ。

　ゴールが多く決まっているからといって、チームのスタイルが完成に近付いているとは限らないが、スタイルがまだ完成を見ていないことが、得点チャンスを迎えたときに決められない理由にはならない。最も相手ゴールの近くにいる杉本が最多のシュートを放っているので「決めろよ」と言われてしまうことも多いが、他の攻撃的ポジションの選手ももっとシュートまでいくことにこだわらないといけないし、シュートを打てる位置に入り込まないといけない。そして決めないといけない。

 

　毎試合、良い形は作っている。

　これからもそれはチェックし、確認していく。チャンスの数が増えていけばポジティブに考えていいだろう。

　だが、それとは別に、そこから先がどうなっていくかもチェックされるようになる。

　チャンスからどうシュートに持って行くか。どうやってネットを揺らすか。それを厳しく見ていきたい。

 

「チャンスに決める努力をすると共にチャンスの数を増やすことが大事」とはよく言われることだ。

　だがチャンスの数が増えれば自然にゴールが増えるわけではないと思う。そこで決めきる、個の力が絶対に必要だ。

 

　乱暴に言えば、川崎戦後の拍手は、そこへの期待に集約されるといってもいいのではないか。　

 

　明日の柏戦でリーグ戦の勝点は得られないが、あの拍手への回答は出せる。

　誰でもいい。応えてくれ。

EXTRA

　本文とまったく関係ないが、本日3月26日(金)で、NHKさいたま放送局の「日刊！さいたま～ず　さいたマッスル」が終わる。

　僕は、2008年9月に始まった「週刊☆サッカー王国」から引き続いて番組に出演させていただき、レッズの情報発信に努めてきたつもりだ。事前に話す内容をまとめることで、試合やチームについての考えを整理することができた。何より生放送で話すという初めての経験を続けることで、こどものころから良くなかった滑舌が少しはマシになったと思うし、先に頭の中で順序立ててから話すクセがついた。いまYouTube「清尾淳のレッズ話」をほとんど撮り直しなしで毎週2回発信できているのも、そのおかげだと思う。

　番組と関係者に深く感謝します。

　最終回の今日はサッカー枠を長めに取ってあるそうなので、タイミングがある人はぜひ聴いてください。今夜18時から18時50分まで、FM85.1MHzです。

（文：清尾　淳）