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Weps うち明け話 #1079

やっぱりね(2021年4月16日)

 

 2012年7月14日、Jリーグ第18節。万博記念競技場でガンバ大阪対横浜F・マリノスがあった。

 前半終了間際に横浜が先制、後半42分にG大阪が追い付くという展開だった。

 

 当時、リーグ戦前半の17試合を終えてG大阪は勝点13で17位にいた。まだ残留争いというには早い時期だったが、少しでも早く降格圏から抜け出したかったことは間違いなく、この18節で勝点3を取るか勝点1に終わるかは大きな違いだった。勝ち越し点を目指して最後まで攻めの姿勢を見せていた。しかしアディショナルタイムを過ぎた後半49分、横浜は松本怜のスルーパスから相手のDFラインをギリギリで抜け出した大黒将志がシュート。いったんはG大阪のGK藤ヶ谷陽介が弾いたが、齋藤学が詰めて押し込んだ。

 

 時間帯から言ってVゴールのような得点に横浜はベンチも含めて歓喜の渦だったが、その中で大黒だけは静かだった。

 大黒にとってG大阪は中学生時代からトップチームまで10年以上を過ごしたクラブ。トップ昇格後は同じく育成出身の二川孝広と共に攻撃の中心選手だった。

 その大黒が決勝点をアシスト、というより半分以上、大黒の得点のようなゴールだった。FWとしては最大の貢献をしたわけだから、通常はもっと大喜びするはず。しかし、相手は古巣。しかも降格の危機が言われている状況。そんなときに相手のサポーターが大勢いる前で喜ぶのは違う…。

 勝手に大黒の心境を想像してしまったが、大きくは外れていないだろう。

 

 2019年3月17日、Jリーグ第4節のセレッソ大阪対浦和レッズ。

 後半、先制されたレッズが興梠慎三のゴールで追い付き、37分にPKを得た。蹴ったのは新加入後ここまでゴールのなかった杉本健勇。試合前から「PKがあったら蹴りたい」と興梠に話していたそうだ。最高の緊張感の中、見事にゴールを決めた。移籍初ゴール、1-1からの勝ち越し点。当然、周りは大喜びだったが、健勇本人はこぶしを握り締めたぐらいで喜びの感情を表には出さなかった。相手が古巣のC大阪で、会場が長居だったからだ。

 

 それが正解とは言わない。

 古巣相手にゴールを決めたときに、どんな振る舞いをするかは人により違うし、喜びをストレートに表わしてもマナー違反などとは思わない。レッズ相手に埼スタで決勝ゴールを挙げて大喜びした元レッズ選手もいた。それで全然構わない。

 だが、大きく喜ぶのが当然の状況でも、選手、スタッフ、サポーターを含めた相手チームに配慮して、それを抑えることができるのは、僕は素晴らしいと思う。

 

 4月11日(日)、Jリーグ第9節のレッズ対徳島ヴォルティス。

 前半は徳島、後半はレッズ、という流れの中、後半15分に関根が先制点を挙げ、その後もハラハラする展開が続いた。5分のアディショナルタイムが過ぎようとするとき、僕は記者席からリカルド監督に注目していた。

 笛の瞬間、あまり喜んでいるようには見えなかった。スタッフとタッチは交わしていたが、派手なポーズはしていなかった。あとから映像で確認したが、地味な笑顔だけで。清水戦、鹿島戦の勝利の瞬間とはだいぶ違っていた。

 

 理由はわかっていたが、きょう監督のオンライン記者会見があったので、念のため「勝った瞬間の喜び方が少し地味だったのは相手の配慮だったのか」と質問してみた。

 

「そうかもしれないですね。得点が決まった瞬間は、狙っていた形の一つでもあったので、喜びを抑えられませんでしたが、徳島に対するリスペクト、愛情、選手やスタッフに対する気持ちがありますから、試合が終わった後は少し抑えたと思います。」

 

 言わずもがな。いや、聞かずもがな、だったな。

 4月18日(日)のセレッソ大阪戦。もう喜んでもいいし、まだ喜ばなくてもいい。とにかく健勇には点を取ってほしい。

 そしてリカルド監督には1週間前の分まで、いや現地に行けない僕やサポーターの分もハジけてもらいたいものだ。

 

(文:清尾 淳)