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Weps うち明け話 #1080

「こちら」(2021年4月23日)

 

 最初は、何の違和感もなかった。

 

 次に思ったのは、違和感がないことが面白いな、ということだ。

 

 4月21日(水)、YBCルヴァンカップ横浜FC対浦和レッズ、試合後のオンライン記者会見。横浜FCの早川監督と選手2人に対して質問したのは、サッカー専門紙の横浜FC担当らしき方と、神奈川県の地元紙の記者だった。

 

 録音がないので定かではないのだが、お二人とも横浜FCのことを指して「こちら」と言っていたようなのだ。

 

 僕もレッズのことを「こっち」とか「こちら」と呼ぶことは珍しくない。

 多くは、たとえば他クラブのスタッフや、他クラブのオフィシャル系メディアの方と話すときだ。他サポと話したことはあまりないが、話す内容によっては、そう言うかもしれない。

 

 だが記者会見でそう呼んだことは、おそらくない。

 あったとしたら、だいぶ身内に近いメディアのスタッフしか参加していないような囲み取材のときだろう。両方の担当記者、あるいは中立的な立場の記者が大勢参加しているオンライン記者会見で、大槻毅監督やリカルド監督に質問するときに、レッズを「こちら」と呼ぶことはない。そもそも試合後のオンライン記者会見で質問できるのはごくわずかな人だけなので、基本的に僕は質問しないのだけど。

 

 もちろん僕にとってレッズは「こっち」であり、相手チームは「あっち」だ。常にそういう意識だから、最初に「こちら」という言葉を聞いても違和感を覚えなかったのだろう。

 しかし、2度目には「あれ? この人、オフィシャルというわけでもないんだよな」と気が付いた。本来「こちら」と呼ぶのはふさわしくないかもしれない場で、担当記者が横浜FCを「こちら」と違和感なく呼んでいることを「いいなあ」と思ったのだ。

 

 彼と彼女はそれだけの思い入れを持って横浜FCと付き合っているのだろう。同化していると言っていいのかもしれない。

 それでいいと思う。

 クラブに対して厳正に中立なメディアがいて、今は担当だからそのクラブを主語にして書くというメディアの記者がいて、良くも悪くも常にそのクラブが主人公の記者がオフィシャル以外にいる。それがJリーグを面白くする。

 

 かつてMDPが紙で発行されていたとき、「VISITORS」という相手チームを紹介するページがあり、あるときからそこを書いていただくライターさんを選ぶのに、なるべく各クラブで僕のような立場の人を探して依頼したものだった。

 どうか思い入れタップリに書いてほしい。もちろん他のページはレッズへの思い入れ満載だ。それでMDPがより面白くなるはずだから、と。

 

 ところで、身内同士で話すときは「こっち」も使うけど「うち」が多いよね。

 

(文:清尾 淳)