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Weps うち明け話 #1083

臨機応変(2021年5月24日)

 

 

 胸が震えたような気がした。

 5月22日(土)。Jリーグヴィッセル神戸戦の後半だ。

 勝っていたからではない。浦和レッズの変化にだ。

 

 この試合の立ち上がりは、神戸がほぼ試合をコントロールしていた。たまにレッズがボールを奪って攻撃に転じるがゴールは割れず、またボールを保持する神戸に押し込まれる展開だった。負けると思ったわけではないが、簡単に勝てる試合ではないと覚悟した。

 

 しかし前半の終盤はレッズが盛り返し、互角以上の展開でハーフタイムを迎えた。

 そして後半2分にコンビネーションで左サイドを崩し、汰木のクロスを田中達也が頭でたたき込んで先制した。

 そこからはレッズがポゼッションし、神戸がカウンターを狙うという、前半とは逆の関係になった。

 

 神戸がGKからビルドアップを試みるときは、前線からのプレスを怠らず、サイドに出たボールは複数で囲んで奪うか、下げさせた。焦れたGKがロングキックを放ったときにはボールがレッズ陣内に入った。何度かピンチもあったが失点はせず、後半40分にはユンカーがリーグ戦3試合連続となるゴールを決めた。

 

 試合後の記者会見で、神戸の三浦淳寛監督は「後半2分の失点はチームとしてはあり得ない。明らかに気持ちが緩い、アラートさがない状況での失点だった」と語った。語ったというより怒っていた。

 先制点は、アシストになった左サイドの崩しが良かったし、ユンカーにDFの意識が行っていて達也がフリーでヘディングを地面にたたきつけることができたから生まれたゴールだと思うが、三浦監督としては、そういう状況を招いたことが許せなかったのだろう。

 監督がそう言うのは理解できた。

 

 一方、記者からは「前半、(神戸の)内容が非常に良かったと思うが、前半が良かったがゆえに後半の入りが緩んでしまったのか」という質問が出たが、それはあり得ないと思う。

 たしかに飲水タイムぐらいまでは、神戸のペースだったが30分を過ぎたあたりからレッズが神戸陣内でポゼッションする時間が長くなってきたし、攻撃がカットされても即時奪回で二次攻撃に移る場面もあった。36分ぐらいにレッズサポーターから大きな拍手が起こったが、レッズが完全に試合の流れをつかんだように思ったから、みんなそれを表現したのだろう。

 

 前半を15分刻みに採点したなら神戸対浦和は10対7、10対9、9対10というふうに推移していたと思う。45分間トータルでは10対8ぐらいで神戸が優勢だったと言えるが、盛り返されているというのは神戸の選手たち自身が実感していたはずだ。この推移で前半を終わって、後半緩みが出るはずはない。三浦監督も、緩みの背景については具体的に何も答えなかった。

 

 前半と後半でまるで違う試合だったと言われたし、小泉がいるといないで全然違う、とも言う人が多い。それは否定しないが、この神戸戦は押されっぱなしに近い展開を、前半の間に修正して五分以上に押し返したことは間違いない。

 僕が、胸を震わせたのは、そのことに思い当たったからだ。

 

 順位が近い相手に勝ったことで、チーム力が上がってきたことは証明されたが、そのことと合わせて、相手のサッカーに順応して自分たちの組み立てを試合中に変えることができることがわかった。

 

 上位を相手にしたときは、臨機応変に対応することが必要になる。これからの楽しみがまた増えた。

 

(文:清尾 淳)