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Weps うち明け話 #1084

リカルドの言葉(2021年5月31日)

 

 やはり世の中は思いどおりにばかりは転がらない。

 昨日(5月30日)の名古屋戦はスコアレスドローだった。もう少しで得点できた場面もあったが、失点する可能性もそれ以上にあった。

 26日の広島戦が、もったいない引き分けだったとすれば、名古屋戦は妥当な引き分け、というやつかもしれない。勝点3以外で満足はできないが、現実は受け入れないと前に進まない。

 

 勝ちはしなかったが、勝点1は積み上げた。順位も8位から7位になった。

 リカルド監督は、今の時期をリーグ戦の順位を少しずつ上げていくときと位置付けている。

 リーグ戦の初期3分の1は、チームのスタイルを確立していく時期で、もちろん勝ちながらそうするのがベストだが、勝つためにスタイルを崩すことは良しとしなかった。第何節までが初期とはっきり示すことはできないが、だいたい4月末から5月初旬ぐらいだったのではないか。リーグ戦3連勝を経験し、負けが少なくなってきたころだ。

 

 あえてはっきりと線を引くならば、キャスパー・ユンカーが加入する前、5月1日のJリーグ福岡戦までが初期で、加入後のルヴァンカップ柏戦(5月5日)から次の「中期」に入ったのではないか。

 5月1日までの公式戦16試合でレッズの得点は13だったが、5月5日以降は公式戦7試合で14得点している。1試合平均で比べるまでもない。

 失点数も同様に、以前は16試合19失点だが、以降は7試合5失点に抑えている。

 理想的なのは「1試合平均で2得点以上1失点未満」と言われるが、7試合14得点5失点という数字はその合格ラインに達している。

 当然勝敗も、以前は6勝4分け6敗と芳しくなかったが、5月5日以降は4勝3分けの負けなしとなっている。またルヴァンカップグループステージ突破という成果も得た。

 

 それまで、ビルドアップからチャンスは作っていても、それを得点につなげられなかったことで、スタイルの確立が完結しなかったが、キャスパーの加入が契機になり、最後の仕上げ=得点が増えていった。7試合14得点のうちユンカーが6得点というペースもすごいが、他の選手が8得点しているわけで、これも以前に比べて大きな前進だ。

 

 ここで言っておきたいが、レッズに足りなかった攻撃のフィニッシャーとしてキャスパー・ユンカーの加入は大きいが、「神様、仏様、ユン様」というのはどうか。自陣ゴール前からドリブルで何人も抜き、シュートまで決めてしまうなら、その呼称もふさわしいが、サッカーは11人の共同作業。GK一人で失点を防ぐわけではないように、ストライカーとは一人で点を取るわけではなく、味方が作ったチャンスを活かして最後の仕事をする選手だ。僕が生まれたころのプロ野球、稲尾和久投手の偉業から発生したあの賛辞を当てはめたくなるのはわかるが、まるでレッズファン・サポーターがそう言っているかのように誤解されたくない。

 ただし、ユンカーの加入がなければ、レッズの「中期」はまだ訪れていなかったかもしれないが。

 

 リーグ戦の勝点は「試合数×2」が上位のラインだが、5月5日以降のリーグ戦、仙台戦から名古屋戦までの5試合で得た勝点は11で、それも現在はクリアしている。

 得失点も勝点も、以前の「借金」があるから、今季全体ではまだ上位ラインに達していない。それを少しずつ埋めていくのがこの「中期」なのだろう。そして勝負を懸ける「終期」がやってくる。

 

 ちなみにリカルドは「シーズンの初めの3分の1はチームのスタイルを確立させる時期でした」とは言っているが、「中期」とも「終期」とも言っていない。便宜上、僕がここでそう呼んでいるだけだ。

 しかし「終期」の時期がいつごろかは語っている。

 昨日のウェブMDPの監督メッセージにこうある。

「そして10月には、我々がACL出場権を目指す、あるいは優勝を目指せるような位置にいたいと思います」

 https://www.urawa-reds.co.jp/entertainment/mdp/2021/mdp_611.php

 10月以降はリーグ戦8試合が予定されている。なんだ3分の1どころか、38試合の4分の1より少ないじゃないか。

 

 いや、突っ込むところはそこじゃない。

「あるいは」という接続詞をはさんでいるが「優勝」という言葉を使っている。

 これまでリカルドが今季の優勝を口にしたことがあっただろうか。僕は記憶にない。

 

 彼はリップサービスで我々に対して耳当たりの良いことを言う人間ではない。しかし自信があれば正直に発信する人でもある。

 シーズン開幕時はこのメッセージで「スタイルの確立を目指します」ということを第一に言っていたのが、ある日「今日は良いサッカーを見せるだけでなく、勝利もお届けしたいと思っています」と結んだ。

 いつだと思う?

 

 4月3日、鹿島戦のウェブMDPだ。

 そう今季初の3連勝した1勝目だ。

 当時、3月10日に横浜FCから今季初勝利を挙げたが、その後は公式戦1分け3敗だった。そのチームの監督が、それまで言わなかった「勝利」という言葉を使ったのだ。そして勝った。勝っただけでなく3連勝した。これ、すごくないか?

 試合であまり結果は出ていないが、選手の動きや試合前の練習で手ごたえを感じていたのだろう。だから「勝利もお届けしたい」と自然に口から出たに違いない。

 

 そんなリカルドが初めて「優勝」と言ったのだ。

 僕はあれっと思い、その後にゾクっとした。

 もちろん、果報は寝て待っていてもやって来ない。

 これから9月までのリーグ戦13試合を全力で戦ってどこまで到達しているかで、その言葉の現実味が変わってくる。

 

 世の中は思いどおりに転がるとは限らないが、思いどおりに転がそうとしなければ始まらないのだ。

 

(文:清尾 淳)