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Weps うち明け話 #1085

また異次元の世界へ(2021年6月1日)

 

 先日、友人に頼まれて、ここ30年くらいのMDPの製作における情報伝達手段の変化について、思い出話を書いた。

 平たく言えば、ネットを始めとする技術革新でずいぶん仕事のやり方が変わった、ということだ。もっと平たく言えば、楽になった、とひと言で終わってしまいそうな話で、MDPの仕事をし始めた1992年以降の約30年間のことを書いたのだが、そのころは原稿を書くときにワープロ(パソコンではない!)を使っていた。

 

 その数年前まではみんな原稿用紙を使っていた。市販されている20字×20行=400字詰めの原稿用紙ではなく、埼玉新聞社が自作した15字詰め(のちに13字詰め)×10行のものだった。字が見やすいように、マス目が大きかった。

 僕が入社したころは、新聞用紙の余りを利用して原稿用紙を作っていたので、紙の質はあまり良くなかったのだが、会社から支給されるのが太字の水性ボールペンだったので、インクを良く吸い込んで書きやすかった。後に紙の質が良くなったので、同じ水性ボールペンだと乾きが遅く、書いていると右手の小指側が真っ黒になり閉口した。

 

 原稿用紙時代からワープロになって、最も大きな変化は書き直しが簡単にできるようになったことだろう。もちろん原稿用紙でも書き直しはできるが、頻度に限界がある。真っ黒になって読めず、丸めてゴミ箱へ、ということも普通だった。それがワープロだと何度も書き直せるようになり、特にパラグラフをまとめて前後入れ替える、など文章全体の構成を途中で変えることも簡単にできた。

 原稿用紙の時代には、書き始める前に頭の中で構成を、たとえば起承転結の流れなどを組み立てていたが、ワープロに慣れると、いきなり書きたいことから書き出して、後から導入部分を加える、などということもあった。

 今でも、ふと思いついたことをバラバラに書き留めてパソコンに保存しておき、それを表に出すのにふさわしい状況になったときに、1本のコラムにまとめる、ということもある。昔だったらノートにメモで残しておいたのだろうが。

 

 便利になり、言い換えれば楽をしていた僕に、それでは済まない仕事が舞い込んできた。

 2008年9月。

 NHKさいたま放送局から、サッカー専門のラジオ番組を作るので協力して欲しいという話があり、聞いてみると毎週スタジアムで生出演するという仕事だった。

 僕が担当するのは浦和レッズの部分であり、Jリーグ全般や他のサッカーについてはコメントぐらいということだったし、できるだろうと引き受けたのだが、自分が発した言葉がそのまま電波に乗って聴取者に届くというのは、印刷媒体で育ってきた僕にとってテーマは同じ浦和レッズでも、まるで異次元の世界だった。

 

 事前に、こんなことを聞きます、という台本のようなものをもらえるので準備はしておけるのだが、あまりしっかりした原稿を用意しておくと、いかにも読んでます、という調子になってしまい、ラジオ的によろしくない。それでメモ程度にしておくのだが、話す段になってあれこれ付け加えるときに、(さっき言ったことと矛盾はないよな、てにをは間違ってないよな、敬称に問題はないよな…)と頭がフル回転する。

 さらに担当アナウンサーが野地俊二さんだった時代は大変だった。

 野地さんは時間の経過以外、あらかじめ書かれた台本を一切見ない(に違いない)。「こんなことを聞きます」とあるので準備しておいたことは聞いてこないし、何も用意していないテーマについて、いきなり振ってくるのだ。しばらくはメモを用意しておいた僕も、それが役に立たないとわかって、取材ノート以外スタジオに持ち込まないことにした。そしてなるべくリラックスして本番に臨むことにしたのだった。頭の中がフル回転どころではない。サッカーでいうとダイレクトパスしか許されないようなものだ。でも慣れた。

 

 このコラムでも以前に書いたことがあるが、本当に良い経験をさせてもらった。

 最初の番組「週刊☆サッカー王国」は途中から「日刊!さいたま~ず・金曜版」に替わったが、毎週(最後は隔週)金曜日に浦和レッズのことを生で話すという仕事は12年半続き、今年の3月をもって終了した。

 日常的に接している浦和レッズのことを毎週一度、あまりマニアックでなく短い時間でわかりやすく言葉にするという仕事が、具体的にどう影響したのかは自分ではわからない(清尾はこう変わった、と感じた人がいるなら教えて欲しい)。だが週に一度、異次元の世界に浸れる時間は間違いなく刺激的だったし、面白かった。

 2012年にはNHK関東甲信越地域放送文化賞までいただいてしまった。

 2008年に番組を立ち上げてくれた、当時の北出幸一放送部長と渡邊裕之アナ、工藤むつみキャスターを始め、番組制作に関わった方々すべてに感謝したい。

 

 すぐここでお礼と総括の原稿を書くつもりだったのだが、4月に入ってレッズが好調になったこともあって、タイミングを逸してしまった。

 それが、このたび同局から出演依頼をいただき、これは出る前にケジメをつけておかなければ、と思って今回書かせてもらった。

 番組が終わって2か月しか経っていないが、もうだいぶ前のような感じがするので、かなりフレッシュな感覚であの異次元の世界に入っていくことができるに違いない。楽しみだ。

 みなさん、久しぶりにお耳に掛かります。

 

EXTRA

 出演させていただくのは下記のとおりです。

 6月4日(金)午前11時~ NHKさいたま(FM85.1㎒) 

 「ひるどき!さいたま~ず」

  https://www.nhk.or.jp/saitama/program/nikkan/saitama-zu/

 

(文:清尾 淳)