1. TOP
  2. Weps うち明け話

Weps うち明け話 #1087

個人の成長がチームに影響を(その2)汰木康也(2021年6月4日)

 

 個人の変化がチームに好影響を与えていると僕が思う3選手の2人目は汰木康也だ。

 

 

関われなかった4月の3連勝

 

 今季の汰木は、開幕当初はリーグ戦先発に定着しており、3月10日(水)のリーグ戦第3節横浜FC戦で前半終了間際にPKを得て2-0の勝利に貢献した。

 その後、チームは勝てず、4月3日(土)の第7節鹿島アントラーズ戦で今季初めてリーグ戦の先発を外れ、そこからチームは3連勝した。汰木は第8節の清水戦で途中出場したが、ゴールへの直接の絡みはなかった。その時期の話になると、

「自分が試合に出なくなってから勝ち始めましたね」と苦笑する。

 

 

記録に残りにくい「つなぎ」での活躍

 

 先発に復帰したのは、4月21日(水)のルヴァンカップ横浜FC戦だ。僕が汰木の動きに注目したのもその試合だった。

 2-1で勝利したこの試合、公式記録に「24」が記されているのは1個所だけ。後半12分、福島にパスを出し、福島のクロスが逆サイドの達也に渡り、そのダイレクトの折り返しに杉本が頭で合わせて勝ち越しゴールとなった。汰木から2人を挟んでのゴールで、もしかすると公式記録に省かれてもおかしくなかった。

 しかし汰木のプレーは、このゴールのキモだったと思う。それまでゆっくりと後ろで回していた工藤からの縦パスを、相手DF2人を引き付けておいてダイレクトで左サイドのスペースに送った。相手DFは完全に出遅れ、すでに走っていた福島が追い付いてフリーでクロスを上げることができた。

 実は汰木がこの試合でルーキーの福島をバックアップしたのは、これが初めてではなかった。0-1で迎えた前半終了間際、右サイドバックの宇賀神が大きく蹴る体勢に入ったとき、ほぼ中央からゴールに向かって走り出し、相手DFを食いつかせていた。宇賀神のキックはゴール前ではなく左サイドへ渡り、福島がフリーでクロス。杉本の同点ヘッドが生まれた。

 

 直接のアシストではないが、ビルドアップでのつなぎのプレーはリカルド監督のサッカーに欠かせない動きだ。

 横浜FC戦から4日後のリーグ戦第11節大分トリニータ戦。途中出場した汰木は後半32分、左サイドで槙野からパスを受けると身体で相手をブロックしながらタッチラインと平行に縦パス。これに明本が追い付き、左クロスから最後は達也の決勝ゴールになった。公式記録に「24」は出てこないが、勝利を演出したプレーだった。汰木は語る。

「攻撃のときに後ろと前をつなぐ役割だとか、自分がフリーランニングをすることによって他の選手のスペースを空けたりすることは、得意としてきたプレーなので、特別変わったことだとは思いませんが、プレーの幅は広がったかな、とは思います。今季の戦術がそういうものだということもあります」

 ただパスをつなぐだけでなく、よりチャンスを広げながらゴールに近付くプレーが、汰木から生まれていた。

 

 

埼スタでの初ゴールにどよめき

 

 そして5月5日(水)、ルヴァンカップ柏レイソル戦では、開始9分にレッズ初出場のユンカーのゴールをアシスト。またルヴァンカップグループステージ最終節の5月19日(水)横浜FC戦でも前半3分に、左サイドからゴール前に進入する小泉にスルーパスを送り、関根の先制点に絡んだ。そして後半16分には相手ゴール左でボールを受けると助走なしにシュートを放ち、今季初ゴール。ボールがゴール右上スミに収まったとき、スタンドからはマスク越しに歓声というよりもどよめきが起こった。ドリブルから、味方のクロスから、そしてカットインから、これまで何度もチャレンジしてきたが、見られなかった埼スタでのゴール。それが、前ぶれがほとんどない意外な形で決まったことへの驚きを隠さない歓喜だっただろう。僕も記者席で思わず「おおっ!」と声を発してしまい、周りを気にした。

 

 汰木に好調の要因を聞くと、

「自分の中では変化とは思っていないんですが、開幕した後で、出られないことが何試合か続いて納得できないものが多くありましたし、それはピッチで見せないといけないし、見返したいという強い気持ちで出たときに毎試合臨んで来ました。それが結果となって表われたのは横浜FC戦のゴールだったと思いますし、あそこで一つゴールが取れたことで、大きな変化はないですけど、一つ力が抜けたような自然体のプレーができているのではないかと思います」

 と語る。

 たしかに5月19日の後も、22日(土)のリーグ戦第15節ヴィッセル神戸戦では達也のヘディングシュートをアシスト。26日(水)の第16節サンフレッチェ広島戦でもユンカーの先制点をアシストしている。

 僕が感じた汰木のゴールに絡むプレーは、神戸戦の前からなのだが、本人にとってそれは普通のことなのだろう。

 

 

 

出られなかった時期がモチベーションに

 

 チームが好調な要因の一つに競争がある。先述したように、最初の3連勝に関わっていないことで悔しい思いをしたことも汰木のモチベーションになっているようだ。

「でも、自分が出られないときに、チームとして良い競争ができているな、という気持ちになることはないですよ。そのときは納得できないし、悔しいです」

 そこまで自分の状況を客観視できる人間はあまりいないだろう。だが、その悔しい思いからどう自分を表現するか。そこでプロとしての資質が問われる。汰木は久しぶりに出場したとき、それまで以上に背伸びをして目立とうとするのではなく、自分がこれまでやってきたプレーを確実にやることで、チームに貢献してきた。それが今季のサッカーに合致することでもあった。そういう成果が積み重なって、直接のアシストや自身のゴールが生まれてきたのではないか、と思っている。結果には変化が表われてきたが、自身の気持ちに変化がないのなら、それを忘れずにいて欲しい。

 

 たとえば広島戦の後半立ち上がり、ユンカーからパスを受けドリブルでゴールに向かったが相手DFに阻まれ、シュートを打てなかったシーンがあった。

「キャスパーとワンツーで抜け出した場面は、やり切りたかったですね。思ったより相手が最後までついてきたので、シュートを打ちきれませんでした。立ち上がりに、守備からああいう場面を作れたのは良かったと思っていますから、あれをゴールに結びつけるところまでいきたいと思っています」

 スピードに乗っている場面では難しいだろうが、相手の前に出ることができないと判断した時点でパスの出しどころを探るか、CKを取ることにプレーを切り替えても良かったのではないか。ドリブルしているときに、自身がゴールを狙う姿勢を見せながら他の選択ができるようになれば、汰木のゴールへの絡みはもっと増えると思う。

 

 

今季のサッカーでさらに成長してほしい

 

 リカルド監督のサッカーがさらに成熟していくことで、汰木のプレーの幅が広がるだろうし、汰木がさらに変化していくことでレッズの成績も良くなっていくだろう。それも今後の汰木次第だ。

「これだけ誰が出ても良いサッカーができて、勝点が積み上がっていく、良いサイクルになっている状況は最近経験したことがないので、やりがいはすごく感じています」

 

 その、やりがいが大きくなっていくことに期待して、汰木を今季大きな変化を見せている3人の1人に挙げたい。


(文:清尾 淳)