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Weps うち明け話 #1088

個人の成長がチームに影響を(その3)柴戸海(2021年6月4日)

 

 個人の変化がチームに好影響を与えていると僕が思う3選手のラストは柴戸海だ。

 

 

課題だった攻撃面での貢献

 

 柴戸は2018年のレッズ加入以来、危機察知能力が高く、危険な場面に顔を出し、相手に強く当たりボールを奪う。相手の攻撃の芽を摘む、というプレーに長けた選手として定評があった。

 

 2018年に加入した柴戸が、昨年、一昨年の開幕前にシーズンの個人目標として挙げてきたのが「チームの中心選手になる」ことだった。

 大卒新人選手が「ルーキー」という目で見てもらえるのは最初のシーズンだけ。「ルーキー」という防護服がなくなっても先発で出場し、チームになくてはならない存在になるという目標を自分に課してきたのだが、リーグ戦出場数は1年目9試合、2年目20試合、3年目25試合と増えてきたものの、攻撃面でなかなか存在感を高めることができなかった。

 昨季はチャンスに相手ゴール前まで入って行き、ゴールをアシストしたり、自らゴールを決めたりする場面もあったが、起点になるパスを出すこと、攻撃のスイッチを入れることは、まだ不十分だった。「攻守の要」と言われるボランチに求められる「攻」の部分でまだ中心選手にはなっていなかったのだ。

 

 

自分に食いつかせて味方をフリーに

 

 それが今季。

 キーパーやセンターバックからボールを受けたときに、相手のFWがプレスを掛けてくる。すると、相手に寄られる前にボールをリターンすることもあれば、そこで激しく当たられ、ボールを奪われてピンチを招いたことがあった。開幕当初の柴戸はそんな感じだった。

 しかし今の柴戸は、相手のプレスをボールさばきやフェイントでかわすようになった。かわすだけでなく、空いたコースを使って前線にパスを通すようになった。

 試合中に、スタンドがマスク越しにどよめくことが何度かあったから、多くのみなさんも感じているのだろう。

 柴戸は言う。

「攻撃のときは相手をできるだけ引き付けて、味方をフリーにするというのがあります」

 自分が保持しているボールを取られない自信がなければできないことだ。

 

 

実践に活かしたベンチの時間

 

 今季の柴戸は3月2日(火)のルヴァンカップ湘南ベルマーレ戦で初先発したが、リーグ戦でスタートから出場したのは4月3日(土)の第7節鹿島アントラーズ戦が初めてだ。それまでは2試合に途中出場しただけだった。

「最初は試合に出られなくて、外から見ていて、どうやって試合に出られるかということを考えていたのは良い時期になりました。

 中でやっているのと外から見るのとでは全く違うので、外から見ている時間も役に立ちました。

 ポジショニングとか受けるタイミングなどはプロになってからずっと意識していたことですが、それが今年ようやく今年自分のものになったというか、タイミングの良さや良い位置取りができるようになりました」

 もちろん、出られない悔しさは抱えていただろうが、その間に「実践的に見る」トレーニングを積み、ビルドアップのシミュレーションをしていたに違いない。

 

 

まだ成長段階、どこまで伸びるか

 

「あのポジションは取られてはいけないポジションで、特に自陣で回しているときは絶対に失ってはいけません。

 前があいているときは、引き付けるなどしなくてもシンプルに縦に入れることが一番だと思います。ゴールから逆算して、一番チャンスになるプレーを選択したいと思っていますが、まだまだです」

 攻撃のスイッチを入れる役割の選手には、相手も強いプレスを掛けてくる。柴戸も、ときには度を越したフィジカルコンタクトで痛めつけられ、メンバーから外れることになった試合もある。そこを乗り越える必要もあるし、最終的にゴールにつながるパスも今後はどんどん出して行って欲しい。

また、相手ゴール前まで入って行くことはなくなったが、相手を押し込んでからの選択肢の一つにミドルシュートもある。まだ柴戸がそれを放つ回数は少ないがチャレンジはしている。

 

 柴戸の変化はまだ途中の段階だろう。逆に言えば、伸びしろたっぷりだとも言える。

 小泉が、動き回っていろいろな場所から攻撃の起点となる役割をするなら、常にピッチの中央にいて仲間が安心してボールを任せられ、すぐに攻撃に転じられる基地があってもいい。柴戸がそういう存在になったとき、「レッズの中心選手になる」という目標は実現に近付くだろうし、チームは一段と成熟度を増すだろう。

 今後も注目していきたい。

 

(文:清尾 淳)