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Weps うち明け話 #1090

ガチ(2021年6月10日)

 

 うわ、ガチだな。

 そう思った人は多かっただろう。

 

 昨日(6月9日)の天皇杯2回戦、カターレ富山との試合。メンバー表を見ると、3日前に行われたYBCルヴァンカッププレーオフステージ第1戦でヴィッセル神戸と戦ったときと先発8人が替わっていた。いわゆるターンオーバーだが、「メンバーを落とした」わけではなかった。

 かと言って、6日(日)の神戸戦でサブメンバーを起用したわけでもない。つまり、それだけ今のレッズには先発候補が多い、ということだ。

 

 数えてみると今季公式戦で10試合以上先発を経験した選手は17人、登録してからまだ10試合を経験していないキャスパー・ユンカーを含めると18人になる。しかもここには興梠慎三が含まれていない(興梠は先発5試合+途中出場13試合)。

 そういう28人の中から先発11人がチョイスされる。選手を出場機会の少ない順にでもピックアップしない限り、「ガチ」と感じるメンバーになる。

 

 昨日は先発の中でも「ガチ」とは見られていないであろう、大久保智明に注目していた。

 大久保は、ここでも書いたように強化指定のころから期待していた選手だが、プロになってなかなか結果を出せなかった。初先発のルヴァンカップ第1節湘南ベルマーレ戦ではあまりボールに絡めないまま後半24分に交代。その後は公式戦3試合に途中出場したが、そこでもチームの勝利にはっきりと貢献したとは言い難く、4月21日(水)のルヴァンカップ第3節横浜FC戦を最後にメンバーには入っていなかった。

 

 もちろん、そういう状況でも大久保が気持ちを落とすことはなかった。居残りのシュート練習では利き足ではない右で打つなど工夫が見られた。

「監督から右サイドハーフも左サイドハーフもできた方がいいと言われていますし、実際左に入ることも多いです。その場合は、縦に突破して左足でクロスというのと、カットインして右足シュートという選択になることが多いので、右足をもっと練習しておいた方がいいと思っているんです」と、その意図について語ると、「うまくいかない試合で、ギアを一つ上げる選手になりたい」と、好調なチームをさらに底上げしていく意欲を語った。

 

 その大久保が左サイドハーフ。言ったとおり、カットインしての右足シュートもあり、クロスもあり、FKからの左足シュートもあり、とこれまでよりボールに絡む場面は格段に多かった。

 後半になっても大久保はピッチに居続け、今季最長プレー時間を更新した。だが、結果にはつながらずチームも点が取れない。

 昨日は18時開始の試合も多く、J1クラブがいくつか苦戦しているのは知っていたが、だんだん余所のことを気にしている場合ではなくなってきた。

 31分、興梠が途中出場すると、中盤や前線での収まりどころが増えた。その興梠からのパスを受けて大久保は左サイドでドリブルを開始。途中、相手にカットされかけたが、一瞬ルーズになったボールを落ち着いて拾うと何事もなかったかのように前へ進んだ。そして前線のユンカーにパスを送った。

 

 エリア内でボールを持ったら絶対の強さがあるFWの存在は、本当にありがたい。大久保のパスはアシストとは呼べないだろうが、あの位置のユンカーにパスを送るというのは、銃の弾倉に弾丸を込めるのと同じぐらいの貢献度がある。

 1-0で勝利した試合の1点に絡むという仕事をした大久保は、その直後に汰木と交代した。このタイミングについてはリカルド監督に聞いてみないとわからないが、昨日はいつもより良いプレーをしていたから、あそこまで出場できたのだろう。

 

 本人が望んだ「うまくいかない試合で、ギアを一つ上げる」プレーをしたと思うが、同時にそれは大久保が階段を一つ上がったということにもなるだろう。リカルド監督は結果を出した選手をそのまま放ってはおかない。次の出場機会はそう遠くない時期に来るはずだ。

 中断まで残り7試合の公式戦がある。7月半ばに更新するこのコラムで「個人の成長がチームに好影響を与えた選手」として大久保を挙げることができそうな気がしている。

 

 そして「大久保智明が先発に入っているからガチだな」と思われる選手になって欲しい。


(文:清尾 淳)