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Weps うち明け話 #1093

見せた「違い」(2021年6月29日)

 

 3点目が欲しかった、と言ってもそれほど強欲ではないだろう。

 2-0では第12節のアウェイ戦と合わせて得失点差ゼロだ。勝ち越したい。

 そう思っていたサポーターは多いのではないか。

 もちろん3点にとどまらず、4点、5点ならもっと良かったし、それが取れるチャンスはあった。キャスパーのPKをはじめ、関根が左に外したシュート、後半31分の汰木のシュート…、これはCKになって明本のゴールになったからともかく、珍しく槙野が高い位置まで上がって打ったシュートなど、後半だけでもビッグチャンスがかなりあった。

 

 6月27日(日)、アビスパ福岡戦。リカルド監督はウェブMDPで「その1点、2点で最終順位が変わってしまうこともあるので、これは引き続き改善していかなければならない課題です」と語っている。「その1点、2点」とは、23日(水)の柏レイソル戦でビッグチャンスに決められなかったことを指している。

 福岡戦も同様にビッグチャンスはいくつかあった。このところ2点取れている試合が多いが、湘南戦は3点目が取れずに負けた。チャンスを全部得点にするのは難しくても、1試合にあと1点か2点ずつでもゴールを増やしていかないと、ようやく5位にまで順位を上げたのに得失点差が+4というのは順位が近いチームと比べてかなり少ない。

 福岡との背くらべはともかくとして、最後に得失点差で涙を飲みたくはない。それに冒頭に挙げたチャンスで決まっていれば、絶好の崩しからのゴールということで、気持ち良さも格別だったはずだ。

 

 だが、必須の課題である勝利はしっかりと手にした。

 

 GKの先発は周作だった。

 キックオフ直前、フィールドプレーヤーたちが軽くボール回しをしている間、西川周作は大きく股を割り、入念に身体をほぐしていた。

 リーグ戦連続出場。特にこの試合は出たかっただろう。第12節の福岡戦では前半8分、相手のロングボールをキャッチしようとして、ヘディングにいった明本と交錯。ボールをこぼしたところを相手のブルーノ・メンデスに決められた。

 そして第13節のベガルタ仙台戦から先発の座を鈴木彩艶に譲っていた。周作はルヴァンカップ、天皇杯でゴールを守り、どちらも次のステージに進むことに貢献したが、リーグ戦では第18節の湘南ベルマーレ戦までベンチを温めていた。

 

 第19節の柏レイソル戦は、選手登録上の不手際で彩艶が出場できず、周作が出場したが、この福岡戦はリカルド監督がどういうチョイスをするか注目された。

 背番号1の先発起用は、「勝っているときはメンバーをあまりいじらない」というセオリーに則ったものなのか、それともアウェイ福岡戦の雪辱を期する周作の胸の内を読み取りそれに期待したのか、あるいはその両方なのか。

 いずれにしても、リーグ後半戦のスタートであり、前回アウェイで負けた相手。チームとしても周作個人としても絶対に勝ちたい試合に先発し、きっちり無失点で2か月前の借りを返した。

 

 福岡へのリベンジに燃えていたのは周作一人ではなかった。

 この日のDF西、岩波、槙野、明本、ボランチ柴戸、敦樹。中盤から後ろの7人は全員アウェイの福岡戦でも先発していたのだ。

 

 福岡の攻撃に対して守備陣の戻りが非常に早く、相手のストロングポイントの1つ、クロスをゴール前ではね返していた。絶対にゴールは割らせない、という迫力を感じた。

 また自陣からのビルドアップに対して福岡が前線からプレスを掛けてきた。そこは周作がロングボールで現実的に対応する場面もあったが、そっちがそう来るならこっちはギアを上げるよ、とばかりビルドアップの際の球離れを早くし、相手のプレスをかわすようになってきた。福岡の選手たちは、2か月前はこのプレスが利いたのに、と戸惑ったかもしれない。

 

 先制ゴールは、アウェイ福岡戦に左サイドハーフで先発していた小泉だった。思わず「おっ!」と声が出てしまうほど、見事なシュートだった。湘南ベルマーレ戦のMDPで「ゴールが取れない選手と思われるのは嫌なので点を取りたい」と宣言したことを実践した。

 そして勝利をほぼ決定づけた2点目は、アウェイ福岡戦で失点に絡んだ明本だった。この日のMDPで「今度は自分の力でチームを勝利に近づけたいという思いが強いです」と語っていたが、そのとおりの結果になった。

 

 もちろん前回の福岡戦でも先発した8人だけが頑張ったわけではない。18人が、いや今回メンバーに入らなかった選手も含めてチームが「同じ相手に2度は負けない」という気持ちで試合の準備を進めてきたのだろう。

 そしてなんと言っても、監督も選手たちも実感している「2か月前の自分たちではない」という自信が、過信や慢心ではなく現実のものになっている。それは先述したビルドアップの際のスピードや、相手エリア内への進入頻度の多さ、自陣ゴール前での堅さなどに表われていた。

 

 前回の対戦時とは違った浦和レッズを見せる。

 それが27日の福岡戦に臨む合言葉だった。

 だが、これは7月の仙台戦、大分トリニータ戦でも言えることだ。この2チームには前半戦で勝っているが、前回よりもさらに強くなった浦和レッズを見せて、アウェイで勝ってきて欲しい。


(文:清尾 淳)