1. TOP
  2. Weps うち明け話

Weps うち明け話 #1098

2引き分け(2021年9月6日)

 

 試合が終わって、ずっと喉に引っかかっていた魚の小骨が取れたような気がした(大人になってからはほとんどないが、子どものころはよくやった)。

 

 Jリーグカップ決勝トーナメントにおいてアウェイゴールで負けた経験。

 2006年に初めてこの制度が導入されて、適用第1号となったのがその年の準々決勝・浦和-川崎戦だったことは、WebMDP617号のコラム「THE MDP」で述べた。

 第1戦ホーム駒場で4-3と激闘を制したものの、第2戦アウェイで1-2の負け、前年までならトータル5-5で延長になっていたのがアウェイゴール制によりレッズは準決勝に進めなかった。

 そのリベンジは7年後の2013年、Jリーグカップ準決勝できっちり果たした。第1戦アウェイの等々力では2-3と上回られた。第2戦ホームの埼スタでは、0-0でも良いという川崎の戦い方に終盤まで付き合わされたが後半34分、興梠が1点を挙げトータル3-3。アウェイゴールの差でレッズが決勝に進んだのだ。レッズがアウェイゴール制で「勝ち扱い」となったのは実はこれが初めてだった。

 

 今回のルヴァンカップ準々決勝。9月1日の第1戦ホーム駒場では川崎に1-1だった。

 先制したのだから1-0の方が良かったに決まっているが、1-1なら別の楽しみが第2戦に加わった。つまりホームでロースコアのドローなら、第2戦を2点以上のドローでレッズが勝ち抜けるという楽しみだ。

 

 別にアウェイゴール制の全バリエーションをコレクションしたいわけではない。

 この「2引き分け」で過去2回、苦杯を舐めたことがずっと頭の隅にあったからだ。

 1回目は2014年Jリーグカップ準々決勝。広島に対し第1戦アウェイで0-0。第2戦ホームで勝てば良いというわかりやすいミッションが残ったわけだが、前半1-1のあと後半3分に2点目を決められ焦りが生じた。26分に槙野が1点を返し、2-2に追い付いたが広島の必死の守りに勝ち越し点が奪えず、2試合ともに負けていないのに負けた気分で(実質的にそうなのだが)埼スタを後にした。

 2回目は2017年。ACLに出場(優勝)した年だから、準々決勝からの出場でルヴァンカップ連覇を目指した。C大阪との対戦で、8月30日の第1戦アウェイは0-0。嫌な思い出を頭から追い出して臨んだ第2戦ホームは前半0-2のビハインドで、それどころではなかった。後半3分に武藤、26分に興梠がゴールを挙げ、あと1点まで追い上げたが2-2のまま。3年前と全く同じスコアでベスト8敗退となった。この年、ホームで発揮した強さは全部ACLに持って行かれたようだ。

 

 そして昨日9月5日。初めてレッズが2試合ドローで勝ち上がるという経験をして、過去を清算できた気がした。

 対戦相手も違うし、スコアも違うが、それは逆に喜びを増幅させるものだった。

 相手はリーグ戦で首位を走る川崎。3月の対戦では0-5とレッズが大敗した。リーグ戦でやり返す機会もまだ残っているが、「4冠奪取」を標榜する相手から今季のタイトルの可能性を一つ奪ったのだ。

 スコアに関しても、後半32分に1-2と勝ち越されたときは、残り15分で1点取ればいい。できれば再び勝ち越されないようにアディショナルタイムに入ってからがいい、などと思っていたのだが、38分に1-3となったときはさすがに焦った。しかも同じCKでの失点が続いたことも嫌な気分だった。

 それを6分間で吹き飛ばしてくれた。

 キャスパーのゴールは、再開後初出場となった西の絶妙のクロスから生まれた。そのままシュートに行っていたらGKと激突してファウルになっていた可能性が高い。本人に聞いてみないとわからないが、初めからチョン・ソンリョンの弾きを狙っていたのではないか。そして槙野。ソンリョンがこぼしたボールをすかさず蹴り込んだ。それも相手に当たらないよう右足アウトで素早く。昨季のアウェイ札幌戦で見せた同点ゴールを思い出した。

 身体にぴったりのユニフォームはシュートほど素早く脱ぐことはできずあきらめたようだが、その方が喜びの写真が使いやすくてクラブとカメラマンは有り難かったはずだ。

 

 どういう試合にも、記録には残らない背景や経緯、そして感動があるものだが、特にホーム&アウェイ方式の試合は単純に何勝何敗何分け、では片付けられない。今回の1-1、3-3という「2分け」に刻まれている内容は、いつまでも忘れられないだろう。

 計4失点した経緯も、4得点すべての形とそれを生んだ気持ちも、すべて良い経験にして、次の試合に向かおう。


(文:清尾 淳)