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Weps うち明け話 #1103

大原に来た、いいやつ(2021年10月13日)

 

 

 10年前、と切り出すと、日本のほとんどの人は東日本大震災のことを言うのかと思うだろう。僕もそうだ。話す相手がレッズのサポーターでなければ。

 

 2011年は、レッズサポーターにとって、ある意味で非常に濃いシーズンだったと言える気がする。

 基本的にはリーグ戦で残留争いをした苦しい年だから、思い出したくない部分はある。しかし、たとえばマゾーラという、ものすごく速くて、ひょうきんな選手がときおり僕たちを楽しませてくれたシーズンでもある。リーグ戦の低迷とは裏腹にナビスコカップではどんどん勝ち進んで、決勝まで行った。また残留争いをしていたからこそ、横浜F・マリノス戦やアビスパ福岡戦の勝利が、何物にも代え難い喜びになったことも確かだ。ゼリコ・ペトロヴィッチという懐かしい友人が指揮を執ることになり、いつも以上に期待して臨んだシーズン前の思いと、成田空港に見送りに行ったときのあまり力になれず申し訳ない気持ちとの落差が、なかなか整理できなかった記憶もある。

 

挨拶に来た大原で、強化部スタッフの堀之内さんと

(撮影時だけマスクを外しています)

 そんなふうに、記憶の中で2011年のページをめくると、あまり輝けなかったが、印象に残っている選手が何人も思い浮かぶ。

 原一樹も、その一人だ。おっと、引退表明したから原一樹さん、か。いや、今季いっぱいは原一樹でいいか。

 

 原一樹がレッズに来ると聞いたときは「いいんじゃないの」と思った。僕がそう思うのは、たいてい試合でやられたことがある選手だ。原には2010年のナビスコ杯の予選リーグ第5節。埼スタで終了間際にヘディングシュートを決められ、0-1で清水エスパルスに負けた。結果的にその1敗が決勝トーナメント進出か予選リーグ敗退かの分かれ目になった。他にも、出てくると思いきりの良いプレーやスピード感のある動きなどでレッズ陣内をかき回された印象があった。

 主力にはならないかもしれないが、そんなタイプのFWもいたほうがいいし、もしかしたらレッズで化けるかもしれない。レッズに移籍してくる選手はみんな歓迎だが、その中でもかなり期待を持っての歓迎、という気持ちだった。

 

 残念ながらレッズではあまりチャンスをもらえず、リーグ戦は10試合の出場で無得点に終わった。だが天皇杯では初戦から3試合で4得点と爆発。準々決勝のFC東京戦でも期待したが、不発に終わりレッズも0-1で敗れた。

 試合の記憶はあまり多くないが、練習での元気の良さ、取材を受けるときの前向きな姿勢はよく覚えている。好感の持てる選手、平たく言えば「いいやつ」だった。

 

 そんな原の「引退表明」ニュースを見たのは9月の末だった。6月の天皇杯3回戦でサンフレッチェ広島を破った関西1部リーグの「おこしやす京都」。その洒落た名前のチームを検索したとき、そこに10番を付けて在籍していることを初めて知ったのだが、今年2回目に名前を見たのが、この引退表明ニュースだった。

 

 そして3回目に名前を見たのは、10月の大原。

 正確に言うと、先に本人を見てから、名刺で名前を見た、という順番だ。「おこしやす京都AC株式会社 選手/GM補佐」とあった。引退表明では「デュアルキャリアでやってきた」とあったから、スタッフとして活動することも多かったのだろう。

 引退するにあたり、在籍したクラブに挨拶に回っているという。セカンドキャリアにつながる可能性も考えてのことかもしれないが、原の誠実さにあらためて思い当たった。

 

 原一樹がJリーグで在籍したのは、清水、浦和、京都(サンガ)、北九州、讃岐、熊本…。あらためて調べてみたら、レッズ以外ではみんなリーグ戦で点を取っている!

 実は、原のことを思い出すたびに、レッズに在籍した1年が彼にとってどういう意味を持っていたのか。サッカー人生の中で回り道をさせたのではないか、という若干の申し訳なさを感じていたのも本音としてはあった。

 だがセカンドキャリアでサッカーに関した仕事をやっていくというなら、あの苦しかった1年も意味のあるものだったと思うし、当時のファン・サポーターの彼に対する印象も決して悪いものではなかったはずだ。彼の財産の一つとして2011年の浦和レッズが蓄積されているならうれしい。

 

 セカンドキャリアに挑む、原一樹さんの成功を祈ろう。

 

EXTRA

 現役選手で、2011年に原さんと共に在籍したのは宇賀神友弥だけだ。クラブスタッフで知っているクラブスタッフは少なくない。懐かしそうに談笑している中に、「俺のことは覚えてないだろうなあ」と思いながら顔を出すと、「あっ!」と気づいてくれた。こういうときに、特徴のある“ヘアー”スタイルは強い武器だ。

 

(文:清尾 淳)

2011J1リーグには10試合出場した

天皇杯2回戦・宮崎産業大学戦でレッズ公式戦初ゴール

天皇杯3回戦・東京V戦でゴールを決め、喜びのジャンプ

天皇杯東京V戦では2ゴールを挙げる活躍。

仲間に祝福される

天皇杯4回戦・愛媛FC戦で大会4点目を決め、

試合後サポーターと喜び合う