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Weps うち明け話 #1104

ファイナリストではないからこそ(2021年10月25日)

 

 今季のYBCルヴァンカップのニューヒーロー賞を浦和レッズの鈴木彩艶が受賞し、本日記者会見が行われた。

 記者投票に参加して、彼の名前を書いた者として、そしてもちろん浦和レッズの仕事をしている者として、うれしい限りだ。

 

 2002年の坪井慶介を皮切りに、03年の田中達也、04年の長谷部誠、そして11年の原口元気と、レッズでの受賞者は過去4人いる(阿部勇樹はジェフ時代の受賞)。

 この先輩たちと彩艶との違い。

 フィールドプレーヤーかGKかということ(GKは彩艶が歴代2人目らしい)のほかに大きな違いがある。

 

 それは過去の4人が選ばれた大会ではレッズが決勝に進んでいるが、今季は準決勝で敗退してしまったということ。ファイナリストになっていないときにニューヒーロー賞を受賞したのは、レッズでは彩艶が初めて、ということになる。

 

 今季、ルヴァンカップの9試合だけでなく、リーグ戦6試合に出場し、“完全”トップ登録1年目のGKとしては、大きな経験を積んだ彩艶だが、もちろんこれは始まりに過ぎない。これからさらにレッズのレギュラーとして、日本代表としてはばたいていくに違いない彩艶にとって、ニューヒーロー賞の受賞も一つの自信になったと思う。

 そして、GKというポジションの選手に大事な要素としては、身体能力やシュートストップの技術、攻撃の起点となる正確なキックと広い視野など、いろいろ思いつくが、それとは違う次元で「失敗体験」もそうなのではないかと思っている。

 

 練習では起こりえない事象が、試合では起こる。それによる失点、あるいは失点の危機をどれだけ経験しているかが、良いGKになっていく要素の一つなのではないか、と想像しているのだが、どうだろう。

 攻撃的な選手なら、失敗の体験も生かせるだろうが、成功体験=ゴールを挙げたとかアシストしたという経験を積み重ねていくことがより大事なのではないかと思うが、GKはこれをしたから失点した、あれをしなかったから失点したというときに、しっかりした分析を経て身に付けていくことで、同じ失敗をしないGKになっていくのではないかと思うのだ。

 

 しかも彩艶の場合、準決勝敗退という負のインパクトを味わっている。ニューヒーロー賞受賞という栄誉をかみしめるとき、必ず第1戦、第2戦での失点を思い出すことだろう。本人も「防げた失点だった」と語っている。悔しさが少しにじむうれしさ、と言えばいいのか。

 

 もちろんファイナリストになって受賞したならそれが一番良かったが、準決勝敗退でもらうニューヒーロー賞も、特にGKの場合は意義があるように思った。

 近い将来、彩艶が素晴らしいGKとして浦和レッズで、日本代表として活躍する日が来たとき、あの2021年のルヴァンカップ準決勝が生きているな、と言えるのを楽しみにしている。

 

(文:清尾 淳)