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Weps うち明け話 #1107

プライズとプライド(2021年11月2日)

 

 奇数リーグでない限り、リーグ優勝が決まるときは必ず試合の相手がいる。

 これまでJリーグでレッズが負けて、その相手が優勝したことは一度や二度ではない。ステージ優勝を含めて、これまでに5回ある。

 

 J1では、1993年から2020年まで、ステージ優勝が13シーズン×2=26回と、リーグ優勝が15回あった(チャンピオンシップは含まず)。合わせて41回で、レッズ自身の優勝3回を除いた38回の優勝機会のうち、レッズが5回立ち会っているというのはJクラブの数を考えれば少ない数ではない。

 

 なぜそんなに多いのか。

 当該試合で負けたからだ。

 

 たとえば2003年の2ndステージ最終節も、相手の鹿島に優勝の可能性があり、実際に他会場の経過と埼スタでの試合の展開は、それに傾いていた。しかしレッズは前半0-2のビハインドから、後半2点を返してドローに持ち込み、2ndステージ優勝は横浜FMに転がり込んだ。最後の2点目はアディショナルタイムぎりぎりに決まった。

 もし、このとき負けていたら冒頭の数字は「6回」になっていたわけで、このときは「目前優勝」を阻止した、という言い方ができる。

 

 同様に2009年優勝の鹿島と2011年優勝の柏。いずれも最終節、埼スタでレッズと対戦したのだが、レッズが負けていなければ(引き分けでも)、両チームとも優勝はなかった。2009年は川崎、2011年は名古屋と対戦したチームに「目前優勝」を押しつけることができたはずなのだ。

 しかし負けたから、そして最終節だったから、埼スタで相手の表彰式に立ち合い、その後自分たちの最終節セレモニーを行うというハメになったのだ。

 

 なぜ負けたのか。

 弱かったから。

 

 それだけで済ませたくはない。実は、この「目前優勝」の5試合に共通していることがある。

 それは、この試合にレッズは何も懸かっていなかったということだ。

 優勝の可能性はだいぶ前に消え去り、降格の危険もない(2011年はこの前節に実質残留を決めた)。言わば完全な消化試合だった。

 ファン・サポーターが一緒に闘っている限り消化試合なんてない、と言いたいし、選手にもそういう気持ちはあるはずだが、残念ながら相手との力の差を埋めるだけのものにはならなかったようだ。

 2003年の最終節は、ナビスコ杯を制して一時はステージ優勝に手が届く位置まで行った年だったから、チームに力と自信が備わっていたはずで、試合の前半は、前節で優勝の可能性がなくなったショックをまだ引きずっていたのかもしれないが、後半は本来の力とゴールへの執着心(そして鹿島への敵がい心)を取り戻したのだろう。

 

 明日の川崎戦。レッズが勝つことで得るものは大きい。

 まず本来レッズがそこで戦うべき場所、ACL。これからのリーグ戦5試合はそこへ続く階段であり、明日はシーズンの最後を6連勝で締めるための大事な一戦だ。

 

 もう一つ。ACL出場権はJリーグ3位以上に与えられるPRIZE=賞だが、川崎に勝つことは今季のPRIDEを示すことになる。

 宇賀神友弥は川崎戦を前に、「今のレッズには、相手の優勝が懸かった試合で勝つ、というような経験をしている選手が少ない。川崎に勝つことは来季に向けて大きな経験になるはず」と言った。

 0-5で敗れた8か月前とは違う浦和レッズを見せることは、今季の成長に確信を持つと共に、3年計画の最終目標である2022シーズンのリーグ優勝に向けた大きな力になる。

 PRIDEはどんなときにも胸にあるはずだが、それが試合の勝敗に反映するには、気持ちだけではない力の裏付けがいる。

 

 もし福田正博さんが、いま現役でチームにいたとしたら、こう言うだろう。

「川崎には特に勝ちたい。Jリーグのためにも川崎が勝ってはつまらない。強いと言われているチームに勝って自分たちの力を証明したい。チャンスは向こうの方が多いかもしれないが、勝敗はチャンスの数で決まるわけじゃない。最後は決定力のある方が勝つ」

 これは1998シーズンに、当時二強と言われつつあった磐田や鹿島と対戦する前に語った言葉をアレンジしたものだ。

 V川崎、磐田、鹿島…。かつてJリーグの常勝軍団のように言われていたチームも、いつまでも同じ場所に君臨してはいない。

 

 リカルド監督は「(川崎の優勝セレモニーを阻止したいという気持ちは)全くありません。自分たちが神戸や名古屋より上に立つこと、自分たちの成功を望んでプレーします。別の人の不幸は望んでいません」と1日の記者会見で語った。

 相手にしがみついて足止めするのではない。自分たちが上に行く階段を上がるということだ。そして今季は3位あるいは4位が目指す場所だが、来季以降、浦和レッズが一番上に立てば、川崎を含めた他チームは2位以下となる。

 明日はそんな階段の一つにしたい。

 

(文:清尾 淳)