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Weps うち明け話 #1109

Xのリスペクト(2021年11月15日)

 

「ここから1人1問でお願いします」

 

 1問かあ…。2つ、できれば3つ聞きたかったのだが、本当に時間がなさそうだから仕方がない。迷った末に2つをミックスすることにした。昨日、11月14日(日)、浦和ロイヤルパインズホテルで行われた、阿部勇樹の引退記者会見での最後の質問になった。

 

 阿部選手が2012年に浦和に戻ってきたときの記者会見で、復帰の理由として「レッズを離れた2010年、天皇杯が終わった駒場スタジアムで挨拶に場内を一周した際にサポーターから言われた『また帰って来いよ』と言われたから」と答えたのが非常に印象に残っているのだが、今日まで引退の話を表に出さずに記者会見もYouTubeでLIVE配信したというのは、サポーターに直接自分の口から伝えたかったからなのか。

 

 本当は前半部分に続けて「ジェフではなく第3のクラブでもなく、浦和レッズだった理由はいろいろあったと思うが、チームを離れるときのサポーターの『また帰って来いよ』という言葉は、どれくらいの比重を占めていたのか」と聞きたかった。

 2012年当時、ミシャと一緒にやりたかったとか、レッズが熱心にアプローチしたとか、いろいろな理由は聞こえてきたが、本人の口から出た言葉が「サポーターに『また帰って来いよ」と言われたから帰ってきた」だけだったのは少し驚いた。

 

別れの挨拶

 たしかに2010年9月5日、天皇杯2回戦の東京国際大戦に勝利した後、試合には出ておらず“完全ふだん着”の阿部勇樹が駒場スタジアムに現われ、東のゴール裏からバック、西のゴール裏までスタンド沿いを回ってサポーターに別れの挨拶をした(=写真)。僕もカメラを抱えて付いて回っていたのだが、もみくちゃにされる阿部に対して「頑張って来い」「いつでも帰って来い」という声が掛けられるのをはっきり聞いた。

 だから「あの声が阿部を引き戻したのか」とうれしくなったと同時に、実際のところそれはどれくらい大きなものだったのかを知りたかったのだ。

 

 だが、また質問する機会はあるかもしれない。それより生配信を視聴している人たちに届けたいことを質問にした。わかっていることだけど、それも阿部の口から言って欲しかった。

 本当に今回の引退に関しては箝口令が出ていたようで、クラブの中でも知らない人ばかりだったと言う。それはひとえに「お世話になった人が、自分の引退を人づてやネットニュースで知るようなことがあってはいけない」という阿部の思いからだった。この件に携わるクラブ関係者の間では「XY」案件という暗号(笑)が使われていた。「X(阿部)がY(引退)する件」ということだ。

 だから昨日の記者会見もクラブからメディアに来たメールは「クラブからの重要なお知らせがありますので記者会見を行います。来てください」というものだった。メディアも専門家だから、内容の見当はつく。だが事前に断定的に書かれたものがなかったのは、クラブの意図を組んだメディア側の配慮だろう。

 

 目的地ナイショの「ミステリーツアー」というのが一時流行ったが「ミステリー記者会見」は滅多にない。レッズでは30年間で初めてのはず。この形式自体が、サポーターに対する阿部のリスペクトだった。

 

 2007年にレッズ入りし、ACL優勝を牽引した一人になった阿部。

 2012年にレッズに戻り、翌年のACL出場権獲得を牽引した阿部。

 そして2017年、2度目のACL優勝を牽引し高々とトロフィーを掲げた阿部。

 ACLの申し子みたいな阿部勇樹の花道は、2022年のACL出場権獲得で飾りたい。

 

 いや違うな。訂正する。

 阿部ちゃん。ずっと引っ張ってもらって悪いけど、来年のACL出場権獲得へ、もうひと働きしてから引退してよ。

 

(文:清尾 淳)