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Weps うち明け話 #1118

エピローグ(2021年12月20日)

 

 関根貴大があんなふうに泣くのを見たのはいつ以来だろう。

 第101回天皇杯決勝の後半38分、大久保智明との交代を告げられピッチを後にするとき、うつむき加減で歩き出したのを見て、初めはどこか痛めたのかと思った。しかし、すぐに手で顔を拭くような仕草をしたのでわかった。

 あいつ、泣いてるのか!

 このメンバーで戦う最後の試合、自分にとってのそれが終わると思ったら、堪えられなかったのだろう。同じ時間に交代で出場する宇賀神友弥としっかりハグしてピッチから出た。

 しかし、すぐに切り替わっただろう。

 切り替えた、のではない。切り替わったのだ。自分がベンチに戻った10数分後、右サイドから上げられたクロスを大分のペレイラにヘッドで合わされ、西川が飛びつくも触れずネットにボールが収まった。

「マジか!」と思ったに違いない。

 自分があのまま出ていたら、あの失点はなかったのではないか。いや絶対に許さなかったはず、と関根は感じていた。

 

 その真逆の思いを感じていたのが大久保だった。

「やっちまった」と思っただろう。

 同点ゴールは、自分が付いていた大分の下田北斗に上げられたクロスからだった。下田の利き足である左はしっかりケアしていたが、右足で上げさせてしまった。だが、それを言い訳にはするまい。

 相手に自由にクロスを上げさせないのが、レッズの守備。そう言われて入ったに違いないが、やらせてしまった。その責任は強く感じていただろうが、試合は続いている。自分のプレーでもう1点取る、という気持ちでプレーを再開したはずだ。

 そしてアディショナルタイム2分、大久保は右サイド深い位置で何度も粘ってCKを取り、キッカーとしてボールに祈りを込めてセットした。天皇杯4回戦ではCKキッカーとして岩波の決勝ゴールをアシストした実績もある。

 本当は自分のキックから直接決めたかっただろう。だが望んだ結果が得られたことがすべてだ。

 大久保が蹴ったボールは大分GKの高木駿に大きくクリアされたが、そのボールを柴戸がダイレクトボレー。そして槙野がヘッドで軌道を変えてゴールイン。Vゴールのようだった。

 GKが正面にパンチングするしかなかったキックだったということだろうし、そもそもCKやその前のFKも大久保のプレーから生まれたもの。本人がどう思っているかはともかく、同点ゴールのクロスを許したことはかなりカバーできたと言っていいだろう。

 

 今季プロデビューした大久保は、天皇杯初戦の富山戦でキャスパーの決勝点に絡み、そこから出場機会が増えた。チャンスも作っていたが、先発でレギュラーを勝ち取るまでにはいたらなかった。そして天皇杯準決勝はメンバー外だった。悔しかった。

 C大阪戦からの数日間、練習でのアピールが利いたか、決勝ではメンバーに入り、途中出場で相手の同点ゴールと味方の決勝点の両方に絡んだ。

 準決勝と決勝、この2試合で大久保のメンタルはどれくらい鍛えられたのだろうか。それはこれからのプレーにどう生きてくるだろうか。

 それを楽しみにして来季を待つことになる。

 

 僕は物語のエピローグというやつが好きだ。

 面白い小説や映画であればあるほど、エピローグがあるとうれしい。たぶん、それはこのまま終わって欲しくないという気持ちの表われで、主人公のその後はどうなのか、ストーリーはどう続いていくのか、脇役だった者は主役級に成長していくのか、など続きが楽しみでならないからだ。

 だから本当に読みたいもの、見たいものはエピローグではなく第2作なんだろう。

 

 映画の第2作はあまりヒットしないことが多いと聞いたことがある。

 浦和レッズの場合は、第2作ではなく「2022シーズンの作品」ということになるのだろうが、監督は同じでも(まだ発表されないが)、スタッフは違うし、配役もかなり変わりそうだ。

 2021シーズン以上のヒット作を期待しているが、それは簡単ではない。まず3年計画の目標がリーグ優勝と高くなる。さらに今季と違いACLを戦いながら、という環境になる。来季もホーム&アウェイ方式ではなさそうだが、国内大会だけに集中すればよい状況ではない。ACLを闘うことでチームが強くなっていくのを期待したい。

 

 今年の天皇杯準決勝が宇賀神友弥、決勝が槙野智章と、レッズを去る2人が決勝ゴールを挙げて優勝した、というのは大いなるメモリアルだ。当の2人の、これからのサッカー人生にとっても大きなプラスになった。一方、これからのレッズにとってはどうか。

「いなくなる選手たちに最後まで助けられた」「あの2人がいなくてこれから大丈夫なのか」

 そういう見方をされるかもしれない。

 だが、周りの見方がどうあろうと「次は自分がやってやる」という気持ちを、チームに残る全員が持ってくれればいい。

 決勝に出場した選手だけではなく、天皇杯6試合の勝利は、今季在籍したすべての選手によって勝ち取ったものだ。そのことをまずしっかりと確認し、その上で「来季はもっと自分が活躍してレッズを頂点に持って行く」と誓って欲しい。

 

 2021シーズンのエピローグは、2022シーズンのプロローグだ。

 

(文:清尾 淳)