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Weps うち明け話 #1126

もう一つ、忘れ物があるぞ(2022年3月1日)

 

 まさに12年前の忘れ物を取り戻した、という言い方がぴったりだった。

 

 2010年1月1日。安藤梢は悔しさを内に秘めながら、国立競技場を後にした。

 第31回全日本女子サッカー選手権。まだ「皇后杯」が下賜される前の、女子サッカー日本一を決める大会の決勝で、浦和レッズレディースは日テレ・ベレーザに0-2で敗れ、準優勝に終わった。前身のさいたまレイナス時代から通算して2回目、浦和レッズレディースになってから初めての決勝進出だった。2009シーズンのプレナスなでしこリーグを制し、シーズン2冠を目指したレッズレディースだったが、かなわなかった。

 

 決勝が終わればオフに入る。チームとしては翌シーズン、再挑戦することになる。

 しかし安藤にはその選択肢が残っていなかった。2009シーズン終了後、レッズレディースを離れ、ドイツのFCR2001デュースブルクに移籍することが決まっていた。リーグ優勝はさいたまレイナス時代とレッズレディースで果たしており、2度とも得点王とMVPを受賞している。だが全日本女子選手権はまだ手にしていなかった。ドイツで新たな挑戦をする前に、どうしてもこのタイトルを獲っておきたかったし、応援してくれたファン・サポーターへの置き土産にしたかった。

 決勝が終わって国立から去る直前、別れを惜しむサポーターに笑顔で挨拶する安藤だったが、心のどこかには忘れ物をした気持ちが重くあったに違いない。

 

 その忘れ物を12年後の2月27日(日)、ついに取り戻した。

 京都のサンガスタジアムで行われた第43回皇后杯JFA全日本女子サッカー選手権決勝。三菱重工浦和レッズレディースはジェフユナイテッド市原・千葉レディースを1-0で破り、皇后杯を初制覇した。

 3年連続6度目(さいたまレイナス時代を含めて7度目)の決勝でようやく勝ち取った栄冠だった。浦和レッズの第101回天皇杯とのアベック優勝となる。

 試合後の取材で安藤は「ドイツに行ってからも、(12年前の決勝で)勝てなかった悔しさがずっと残っていたので、特別な思いがありました」と語った。

 

 また前回の日テレ・ベレーザとの決勝では、2-3とリードされた後半33分に出場した安藤が、その8分後に同点弾を決める活躍を見せた。しかし、その直後に再度勝ち越され3-4で敗れるという、何とも残念な試合を演じてしまった。

 それについて「サッカーの怖さ、難しさを思い知らされた試合でした」と安藤は振り返り「得点した後に集中することや、戦い方をチームで一致させることにつながりました」と語っていた。

 今回の千葉との決勝でもなかなか点が取れない時間が続いた後半22分、安藤が起点になって清家貴子の右クロスから菅澤優衣香が先制点を挙げた。そこで守りに入ることなく千葉の攻撃の芽を摘みながら2点目を狙い、相手がロングボール主体のパワープレーに切り替えてからも集中を切らさず、終盤は割り切った戦いで勝利にこだわった。過去の経験を生かした優勝だったと言える。

 

 安藤にもチームにも、もう一つ忘れ物があるはずだ。

 リーグと皇后杯のシーズン2冠だ。

 さいたまレイナス時代を含め、レッズレディースは4回リーグ優勝しており、そのシーズンには皇后杯で決勝まで進出している。2冠に4度挑戦していずれも果たせなかったということになる。

 3月からWEリーグ後半戦が始まる。レッズレディースは3位からの再開になり、逆転優勝を狙う。前半戦では思わぬ取りこぼしもあったが、この皇后杯優勝が追い風になることは間違いないし、期待の新加入選手もおり、ケガ人の復帰もありそうだ。WEリーグ初代女王の座を射止めることは、チーム初の2冠を達成することにもなる。この忘れ物を取り戻す意義は大きい。

 そしてJ1優勝を目標に掲げている浦和レッズに、ぜひレディースからハッパを掛けてもらいたい。 

 

(文:清尾 淳)