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Weps うち明け話 #1138

「デカい」の理由(2022年8月1日)

 

 普通の光景のようだったが、僕にはちょっと違って見えた。

 7月30日の川崎フロンターレ戦。85分にだめ押しの3点目を決めた岩尾憲に、アシストの関根貴大が覆いかぶさったシーンだ。

 よくある喜びの表現なのだが、「二人の時間」が長いように感じたのだ。起点になったユンカーや小泉らも駆けつけたが、何だかそこに割って入れない雰囲気があるかのようだった。

 

 31日に岩尾のオンライン囲み取材があったので、そのことを質問した。関根は何か言っていたのか。何か伝わってくる気持ちがあったのか。

 岩尾の答えは、昨日のクラブ公式サイトに掲載されている。当該の個所は一番下だ。

 https://www.urawa-reds.co.jp/topteamtopics/189281/

 

 岩尾は「関根選手のパスからゴールを決められたことは個人的にすごくうれしかったです」と言っているが、その理由の一つだと思われる話が、その前の受け答えの中にある。6月25日のセレッソ大阪戦でリーグ戦9試合ぶりの黒星を喫した後、2人で2時間ほど話し合ったことを岩尾は明かしたのだ。

 

 もともと関根と岩尾は仲が良い。岩尾がレッズにやってきたとき、チームの雰囲気などに早く慣れるために、最もレッズ歴の長い関根にアプローチしたことがきっかけだ。あるとき岩尾に「関根選手をどう思うか」と尋ねたら、「浦和の宝ですよ」と答えてくれたことがある。リップサービスや冗談交じりの雰囲気は感じられなかった。

 

 関根は2014年、トップに昇格したときからずっと、レギュラー陣の中では最年少だった。2019年に復帰したときにも、同い年の柴戸海や汰木康也はいたが、年下と言えば橋岡大樹ぐらいだった。

 昨季も阿部勇樹、槙野智章、興梠慎三、宇賀神友弥らチーム歴も年齢も自分より上の、頼りになる先輩たちがいたので、自分がいろいろなことで先頭に立つ必要はなかったと思う。

 しかし、今季はその4人がいっぺんにいなくなった。

 選手の年齢構成としては、ちょうど真ん中ぐらいだが、チーム歴は西川と同じ2014年から。アカデミー時代を入れると押しも押されもせぬ最古参になった。これからは自分がチームを引っ張っていく存在にならなければいけない。それはわかっていた。副キャプテンも引き受けた。

 

 そんな立場になった関根にとって、思慮深く視野も広い岩尾の存在は、貴重だった。おそらくC大阪戦後の2時間の中では、他の選手には言えない弱音も吐いたのではないか。

 

 前回の拙稿で「今の関根は自分のゴールより、チームの勝利のために一番良いことをやり続ける意識でいる」と書いた。

 あの川崎戦のシーン。ユンカーからのパスを相手DFより前で受けたときは、そのままシュートまで持っていくことも選択肢としてあった、と言う。しかし、コースが難しくなり、このままだとゴールラインを割ってしまうからギリギリ折り返した。そこに岩尾が走ってきていた、という流れだったが、もし関根が自分のゴールにだけこだわっていたら、折り返すのではなくシュートしていただろう。映像を見返すとコースがありそうな瞬間がある。

 だが、ボールを戻した。その結果3点目が入った。

 

 関根は岩尾の上で「デカい、デカい」と言っていた。

 0-2から1-2に追い上げられる嫌な流れになったが、その3分後に再び相手を突き放した。本当に大きな1点だった。

 だが僕には、自分の今のスタンスを貫いてプレーした結果が最良のものとなった。その意味は大きい、というふうにも受け取れる。

 また、勝ち点が伸びないときに共に悩み、苦労してきた岩尾が初ゴールを挙げたことは大きい、という気持ちがあったとも想像する。

 

 それ故に、少し長めの「二人の時間」だったのかもしれない。

 

 ところで、このコラムのような主観たっぷりの僕の原稿ではなく、関根への取材を基にした記事が、おそらく今日のうちにクラブ公式サイトの「SITE MEMBERS」に、掲載されるはず。そちらもぜひ読んで欲しい。

 

(文:清尾 淳)