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Weps うち明け話 #1139

次の1点(2022年8月12日)

 

 プレーが再開して1分も経っていなかった。

 8月10日のYBCルヴァンカップ準々決勝第2戦。

 後半の飲水タイムの間に江坂と安居が交代出場。名古屋のボールで再開されたが、それをレッズがすぐに奪ってカウンター攻撃。入ったばかりの江坂が岩尾からのパスをヒールで安居に、安居が右の大外を回った馬渡に預け、馬渡が浮き球のクロス。ずっとボールを要求していた江坂がヘディングシュートしたが、クロスバーをたたいた。

 

「クロスのスピードが弱かったので、少しフワッとしたシュートになってしまった」と本人は振り返るが、入ってすぐのプレーで周りとの連係を活かし惜しいシュートを放ったことで、良い試合の入り方になったはずだ。そして86分にゴールを決めた。

 

 レッズが欲しくて欲しくてたまらなかった3点目だった。

 ただでさえ前半2-0は危ないスコアと言われるが、それどころではない。通常の試合とは違い2-2で負けになるこの第2戦、どれだけ時間が進んでも事故的な失点があれば、名古屋にリーチがかかってしまう。安全圏に近づくためにも、相手の心を折るためにも、3点目が欲しかった。

 

「去年の川崎との準々決勝第2戦は1-3からキャスパーが得点したのが87分で、槙野くんが3点目を決めたのが94分だった。あの逆もあるな、とベンチで話していたので、3点目が取れて良かった」と江坂は言う。

 

 どっちのチームが取るかで勝負の行方が大きく動くという、いわゆる「次の1点」。それをレッズが取った。江坂、キャスパー、松尾の3人が名古屋の最終ラインにプレスを掛け、相手のパスがルーズになったところを明本が奪ってカウンターという、レッズの得点パターンと言っていい形だった。

 

「相手(のDF)が、かなり強くボールに来ていたので、うまく入れ替われて良かった」と江坂は語るが、明本からパスを受けた時点で前にはキャスパーがいたので、僕はパスかな、と頭に浮かんだ。このところ、江坂はチャンスメークにかなり重心を置いているように思えたからだ。実際、それで結果も出している。

 

 しかし自分が先発していたリーグ戦で名古屋に大敗を喫したばかり、というのがあった。あの試合では後半早々に、明本のクロスから絶好のチャンスを迎えたが、シュートはバーを越えた。この準々決勝第2戦は、大会は違うがチームとして名古屋にリベンジを果たすべき試合だったが、江坂個人にとっても自分のゴールで決着をつけたいとい気持ちが強かったのかもしれない。

 

「3-0で勝てたことで、リーグ戦を0-3で負けたお返しもできた。準々決勝を突破したことで、リーグの磐田戦にも良いモチベーションで向かうことができる」

 名古屋戦で「次の1点」を取った江坂だが、いま大事なのは名古屋戦の次の1点。すなわち磐田戦での先制点だ。そこへも絡んでいって欲しい。

 

 

 さて、2年半ぶりに、埼スタに応援の声が戻ってきて、そして勝った意義は大きい。チームとサポーターが一体となったときにどんな力が出るか、内外に示すことができた。特にサポーターはもちろんのこと、初めて味わった選手や、久しぶりに体験した選手たちの自信にもなっただろう。

 よく「ここぞという試合に勝てないレッズ」と言われることもあるが、10日の名古屋戦は浦和レッズの歴史に刻むべき勝利だった。ゴール裏でもメーン、バックでも基準を守った応援が続けられていたし、2年半の間に培われたものもあった。試合中の拍手だ。メーンスタンドからは(おそらくバックも)ゴール裏の声に負けじと、チャントに合わせた手拍子だけでなく、プレーに対する大きな拍手が送られていた。

 

 西川周作は、ウォーミングアップ時にレッズのゴールからチャントがないことを訝る若手に対して、「試合が始まったらドーンと来るから、驚くなよ」と説明したという。2年半ためたものはアップ時ではなく、本番で一気に放出するのがふさわしい、というサポーターの意図をすぐに理解したらしい。場内一周が終わって引き上げようとする選手たちを呼び止めて、「We are Diamonds」に備えさせたのも西川だった。その「We are Diamonds」について松尾佑介は「あの歌を聴いた後ならもう1試合いけそうだなと思った」と、「浦和人」らしい感想を述べている。

 

 いろいろなことが表れた声出し復活だった。

 だが、声だし復活は「10日から」ではなく「10日の」だ。ACLでは可能なようだが、リーグ第25節のうち、13日の磐田-浦和戦は、対象になっていない。一連の検証試合の結果から今後どういう運用がされるのかわからないが、「我慢」ではなく、来たるべき日に向けて力をためる時期にして欲しい。

 選手たちは、手拍子や拍手の中に10日のチャントを思い出してパワーにするに違いないから。

 

(文:清尾 淳)