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Weps うち明け話 #1140

成功の理由(2022年8月15日)

 

「ホントに怖かったんですよ」

 小泉佳穂は「怖かった」を強調した。

 

「小さい頃、Jリーグの試合をテレビで見ていて、浦和レッズの応援は怖かったです」と言うので、「怖かった?」と聞き直したが、答えは同じだった。そして続けた。

「あんなに怖かったレッズの応援が、味方になるとあんなにも心強いのかと思いました」

 

 8月10日のルヴァンカップ準々決勝第2戦。多くの選手と同様、小泉もまた初めて埼スタで声のある応援を経験した。その感想を聞いた返事がこれだった。そしてこうも言った。

「エンターテインメントとしてのサッカーは、あれだけの応援があって初めて成り立つものだ、と思います」

 Jリーグにとってサポーターの声援は欠かせないものであることが、あらためて確認できた。もちろん試合はエンターテインメントの要素だけではない。真剣勝負なればこそ、筋書きのないドラマとしてのエンターテインメント感もより強くなる。その勝負に挑む選手として、小泉はこうも言う。

「人は良いプレーをしたときに認められたり、褒められたりすると一番うれしいんです。それは脳科学的に言うと、脳内物質が出るんだと思います。だから派手なプレーでなくても、選手が良いプレーをしたときに、声が出せるなら名前をコールしてもらうとか、声が出せないなら拍手してもらうとかすれば、すごくうれしいし、それがチームの推進力になります。名古屋戦でもゴール裏からのチャントに交じって拍手もしっかり聞こえていました」

 そう。メーンスタンドやバックスタンドでは声が出せない。その分なのか拍手にはいつもより熱がこもっていたように思えた。それは選手にも届いていたのだ。

 

 

 ルヴァンカップ準決勝進出を決めた3日後、アウェイのJリーグ磐田戦でも小泉は先発し、今度はフル出場した。そして2ゴールを挙げただけでなく、ほとんどのゴールに絡んだ。

 モーベルグの先制点は、小泉が左サイドで相手のパスをカットしたカウンターからで、前線を走る松尾かモーベルグかというところで、松尾に磐田DFが行くと判断してモーベルグに送った。2点目の自身のゴールは相手の最終ラインに小泉もプレスをかけ続けて松尾が奪ったところから生まれた。3点目もモーベルグに預けたのは小泉だった。4点目の伊藤敦樹のゴールは、小泉も参加した左サイドの崩しから送られたクロスから。5点目の自分のゴールも右の大久保に振ったのは小泉自身だし、直接ボールに触っていないのは6点目の前ぐらいだった。

 試合を見ていて途中で思った。佳穂、キレキレじゃん、と。

 

 小泉はボールを持ったとき、チームにとって最も良いプレーを選択しようとする。それがともすればボール離れの遅さや、攻撃のスピードダウンにも見えてしまう。しかし、この数試合、徐々にその傾向がなくなってきたように思えた。特に磐田戦ではプレーの判断が速く、かつほとんどがベストな選択だった。

「この7~8試合はコンディションが上がってきた実感があったのと同時にチームとしての歯車がかみ合ってきたというのがあったので、個人としてもチームとしても手ごたえというか自信を持って臨めました。

 一番良いプレーを選択しようという気持ちは変わっていません。今は一番良いプレーを選択しやすくなっています。それはチームとしてのバランスが良いからです。

(周りの状況を知るために)首を振りますけど、首を振らなくても味方がここにいるだろう、というのがわかるんですね。判断が速くなったのは、チームの配置や選手の距離感がよくなったからなんです。僕個人としてはそこが大きいかな」

 

 チームのバランスが良く、必要な場所に選手が配置されていると、よけいなことを考えなくていい、ということだ。そして「たぶん岩尾選手も同じではないかなと思うんですが、中盤というのは時間がないので、それは大事なことなんです」と付け加えた。

 昨季は一時「佳穂のチーム」というサポーターもいたほど、チームの中核だった時期もあるが、なかなかシーズンを通して結果を残せなかった。しかし磐田戦は久々に小泉がフル回転して大勝した。しかも「佳穂のチーム」とは言えないほど、多くの選手がそれぞれ持ち味を発揮していた。

 

 川崎戦の前に何人かの選手に好調の要因を聞いたとき、「チーム戦術の中で自分が生きるように、かつ他の選手の良さを生かすようになってきた」ということが共通して聞かれた。やはり、そういうことなのだろう。

 

 

 ただし6-0の大勝が油断につながるようではいけない。正直言って、磐田の守備は他のチームのそれに比べて緩かった部分が大きいのではないか。それについても小泉に聞いてみた。

 

「相手のプレッシャーの強度、どの場所で厳しく来るか、どの場所でファウルして来るか、というのは大会によっても、相手チームによっても違うので、常に対応できるように準備しておかなくてはならないです。いつも磐田戦と同じではありません」

 

 そう断言したあと、こうも言った。僕が小泉の2点目(チームの5点目)について、右クロスを上げた敦樹にも中で受けた小泉にも、磐田DFが甘かったのではないか、と指摘した点についてだ。

 

「あのゴールに関しては、チームとしては理想というか、左右に振って振って、ペナルティーエリアの深い位置を取れていました。あそこまで振って深い位置を取ると、相手は視野が全部に行き渡らないので、人は近くにいても対応できないんです。時間的に余裕があったというのは、そういうことだと思います」と、チームとしての崩しが嵌まった成果だと強調した。小泉が好調なのも、あのゴールが決まったのも、ちゃんと合理的な背景があるということだ。

 

 

 今週からACLが始まる。

 これまでとは相手も違えば、レフェリーも違う。

 磐田戦で見せた良い部分を継続し、かつ気持ちを引き締めて臨んでくれそうだ。

 

(文:清尾 淳)