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Weps うち明け話 #1155

変化のきっかけになったもの~2022シーズンの話・4(2022年12月27日)

 

 2021シーズンに浦和レッズに新加入した選手は、新人や途中加入を含めて18人(二種登録の工藤孝太も含む)。これはJリーグ草創期の2年間を除けば歴代最多の規模だ。ちなみに2020年中、もしくは終了後にレッズを出た選手もほぼ同数だ。

 新しい監督を迎えた場合、1年目は既存の陣容で様子を見ることもあるが、このことからも「クラブ主導でサッカーのスタイルを定めているからだろうな」という想像が付く。監督とも情報を共有していると思うが、一般的な「良い選手」ということではなく、レッズが目指すサッカーに合う選手を取り込んだということだろう。

 

 それ自体は全くおかしなことではないが、選手の3分の2以上が入れ替わり、監督が新しくなったチームが1年でどこまで強くなれるのか、という疑問もあった。

 ところがルヴァンカップではベスト4、リーグ戦では6位と前年、前々年を上回る成績を残し、天皇杯では優勝した。新チームとしては上々と言ってもいい結果だった。

 

 そして今季2022シーズン。少し驚いたのは8人の日本人選手が移籍で新加入してきたことだ。新人と途中から合流した外国籍選手を加えると14人。2年間で計32人の新加入があったことになる。

 今季の前に契約満了、あるいは他クラブへ移籍(2021シーズン中の期限付き移籍も含む)となった選手、さらに引退した阿部勇樹を合わせて17人がチームを去ったので在籍数はあまり変わらないが、この結果今季の選手たちの在籍年数は、西川周作が9年、関根貴大が約8年(のべ)、岩波拓也が5年、柴戸海が5年。あとは2年以下となった。

 

「浦和を背負う責任」をキーワードにする中で、在籍3年以上の選手が4人だけというのはどうよ、というのが正直な気持ちだった。

 とりわけ気がかりだったのは、フィールドプレーヤーの3人が若手や新加入の選手たちに積極的に声を掛けていくタイプではなかったことだ。3人ともシーズン開始のころ「自分がチームの中心選手となって引っ張っていかなければならないと思っている」と答えてくれた。自覚は高いが、その言葉は「現在まだそうなってはいない」ということの裏返しでもある。

 西川はキャプテンとしての仕事はしっかりやっていても、練習の間はほとんどGKグループでの行動になるので、フィールドプレーヤーとの深いコミュニケーションは取りにくい。

 試合で行き詰まったときに、ベンチからの指示を待つより早く、ピッチの選手たちで解決することが重要だが、その中心には誰がなるのか。それが、なかなか見えてこなかった。

 

 それを痛感したのは、まず3月19日(磐田戦)を最後に、9試合リーグ戦の勝利がなかった時期だ。リカルド監督は「内容は悪くないし、勝つべき試合だった」と言い続けていたし、僕もそう思った。何かのきっかけ、少しの変化があれば、得点が増え、ドローが勝ちになるはずなのに、と。

 だが、それは待っているだけではダメだった。誰かが実際に行動し、強い言葉で周りを動かさなければきっかけも変化も起こらない。5月28日、アウェイの福岡戦が今季4つ目のスコアレスドローに終わったとき、あるスポーツ紙の記者が言った。「9試合勝ちなしって、クラブワーストタイですね…」。

 

 試合結果が勝利に転じたのは6月18日、第17節の名古屋戦からだった。3-0というスコアで快勝すると、次の神戸戦は試合終盤にFKで決勝点が入る辛勝だったが、今季初の連勝。G大阪、京都に引き分けたがドロー地獄には戻らず、F東京、清水、川崎と3連勝を果たした。

 16試合で勝ち点15の降格コースだったチームが、7試合で勝ち点17の優勝争いレベルに変貌したのだ。

 

 目に見えた変化は、相手守備陣の裏を狙うパスが多くなったこと。それまで前線やサイドの選手が走り出しても、後方からそれに合わせて長いパスが出てくる回数は非常に少なかったが、そういうパスが増えて通ったことでチャンスを作ると共に、相手のラインを下げさせることにつながった。

 名古屋戦の前にあった長めの中断期間に、攻撃に重点を置いて練習したことが奏功したことは間違いないが、それだけではなかった。

 

 何人かの選手に話を聞くと「尚史さんに背中を押されました」「きっかけは尚史さんじゃないですか」という返事が返ってきた。土田尚史スポーツダイレクターがミーティングで選手たちにハッパを掛けたということだった。

 その話を土田SDに聞いたときの答えは、MDP638号(9月14日C大阪戦)に掲載されている。少し長いが引用すると

 

 

 こちらがボールを奪ったとき、相手が守備の態勢を整える前に速い攻撃を仕掛けることも必要ではないか、と考えていました。

 

 中断期間にリカルド監督と話し合い、先ほど述べたような、速い攻撃を意識して取り入れていくことにしました。選手たちにも直接、話をしました。内容はいたってシンプルで、攻撃の際、ゴールから逆算して手数を掛けずにシュートまでいこうということです。相手の守備陣形が整う前に、スピード感を持って仕掛けていこう、前への意識をもっと持とうと言いました。

 

 選手たちに、サッカーを楽しんでくれ、とも言いました。

 私がスポーツダイレクターに就任したとき「浦和の責任」ということを強調しました。その一つは埼玉スタジアムに来てくれた人たちに感動を与えることです。選手が楽しんでいないのに、見に来てくれたファン・サポーターに感動を与えることはできないでしょう。

 失敗を恐れてトライしない、チャレンジしないサッカーは楽しくありません。どんどんトライしていこう。ミスしたら取り返せばいい。仲間のミスをみんなで取り返そう。まずそういうマインドでサッカーをやろう。そんな話をしました。

 

 私は一昨年の末、体調を崩して強化部のスタッフに迷惑をかけました。体調は昨年から戻っていたのですが、完全に元の業務に戻ったのは今年の6月です。ですから、今の選手たちには初めてそういう話をしたことになります。

 何か目新しいことをやろうと言ったわけではありません。3年計画をスタートさせるときに掲げた、浦和レッズとしてのサッカーのコンセプトである、最短でゴールを目指す、前への意識を常に持つ、それに立ち返ろうということです。

 

 

 ということだった。

 フロントの現場への介入と見るか、フロントによるサポートと見るか、人によって違うかもしれない。

 だが、たしかに土田SDの言う「速い攻撃」は3年計画を発表したときの「レッズの3つのコンセプト」の中で述べられている。これも引用すると

 

 

 攻撃はとにかくスピードです。運ぶ、味方のスピードを生かす、数的有利をつくる、ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持っていくことです。相手が引いて守るときには時間をかけることも選択肢としてありますが、フィニッシュを仕掛けるときにはスピードを上げていくことが重要です。攻守において、認知、判断、実行のプロセス、全てのスピードを上げることが重要になります。このプロセスをチームとして共有して、パフォーマンスとして見せることを目指します。

(2019年12月12日の記者会見から)

 

 

 マイボールを大事にすることと縦にボールを入れることのバランスは難しいだろう。大事なのは選手たちが同じ絵を頭に画いていることだ。

 しかし常に意志が統一されているほどの練度はない。何せ多くの選手が2年目か1年目なのだ。本来は、みんなの信頼を集めている、ピッチの中でスイッチを入れる選手がいて、その選手が判断するのが最も良いが、その選手も確定していない。

 そんな中で土田SDの言葉が選手たちに前を向かせた、ということだ。

 

 しかし、それだけでシーズン後半を勝ち続けることはできなかった。

 長くなったので続きは次回に。

 

(文:清尾 淳)