1. TOP
  2. Weps うち明け話

Weps うち明け話 #1172

引き出される記憶(2023年7月7日)

 

 1点差で勝っている試合の終盤は息苦しくなる。

 1点差で負けているときや同点のときは、祈るような気持ちになる。

 2点差以上で勝っているときはアディショナルタイムに入ると、過去のエピソードを調べ出す。あるいは連勝記録とか、誰かの連続得点記録など。

 2点差以上で負けているときは…(略)。

 

 7月1日(土)のサガン鳥栖戦。

 2-1で迎えたアディショナルタイム、いつもどおり息苦しいような心持ちを抱えながらピッチを見つめていた。

 6分のアディショナルタイムが残り30秒を切ったぐらいだった。ハーフウェイラインのやや鳥栖より、センターサークル内でレッズがファウル。鳥栖のFKになった。レッズのゴール前までロングボールを蹴るには十分な位置だ。鳥栖のGK朴一圭がキッカーを務めに上がってきたとき、調べてもいないのに過去のエピソードが浮かんできた。

 

 2014年11月29日(土)、J1リーグ第33節、ベストアメニティスタジアム(当時)。

 レッズは李忠成が倒されて得たPKを69分に阿部勇樹が決め、1点リードしてアディショナルタイムを迎えていた。しかも相手の鳥栖は、1人少なかった。このまま終わればリーグ首位のままホームの最終節に臨める。

 アディショナルタイム4分が残り1分を切っていたと思う。鳥栖GK林彰洋がゴール前から前方にボールを持ち出したが、自陣に選手を戻しているレッズは誰もプレスに行かなかった。レッズゴールに十分届く位置まで運んで林がキック。ゴール前で森脇良太がヘディング。クリアのつもりだったのだろうが、ボールの勢いが良すぎたのか、跳ね返せずゴールラインを割った。鳥栖のCKだ。これをクリアして敵陣まで運べば試合終了か、というところでそのCKからヘディングシュートをねじ込まれた。同点。残りまだ十数秒あったと思うが、レッズが勝ち越すことはなく、試合は引き分けに終わった。この日2位だったガンバ大阪が勝ったため、首位が入れ替わって最終節を迎えることになった。

 

 最終節のことまで書いていると長くなる。要するに、1点差で勝っている鳥栖戦の終了間際、GKからのロングボールをクリアし損ないCKにしたところから引き分けになり、それによって重大な結果を招いた、というものすごく忌まわしい記憶が、アウェイの鳥栖戦にはあるのだ。

 

 先週の鳥栖戦終盤。

「1点差で勝っている鳥栖戦の終了間際、GKからのロングボールを…」までは同じ。

 パソコンで「よろ」まで打てば「よろしくお願いします。」という選択肢が出るようなもので、9年前の試合が頭に浮かぶのは習性のようなもの。むしろ浮かんで来なくなったら、この仕事の辞め時だろう。

 だが今回は、GKのロングボールからCKにはならず、鳥栖のシュートが外れてゴールキック。西川が蹴って終了の笛が鳴った。これで、同じシチュエーションであの記憶が浮かんでくる確率は減るかもしれない。試合は絶対に忘れないが。

 

 中2日で迎えたアウェイ鳥栖戦に勝ち2連勝。メディカルスタッフの尽力も相当なものだっただろう。厳しい連戦を乗り切った。

 だが、気を抜いている暇はない。

 短い夏の中断までの2試合(天皇杯も含めて3試合)にしっかり勝利して、再開の横浜F・マリノス戦に臨む。それが今のレッズに課された仕事だ。

 

 FC東京戦と言えば、アウェイ鳥栖戦とは逆の良い思い出がけっこう引き出されて来るのだが、それはシャットアウトし、今季の開幕戦で負けたあの悔しさを払拭するチャンスだと思って、明日の試合に向かおう。

 

(文:清尾 淳)