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Weps うち明け話 #1175

遠かった平塚と白星(2023年8月29日)

 

 やっとアウェイで湘南ベルマーレに勝った。

 

 前にあそこで勝ったのはまだ「BMWスタジアム平塚」という名称だった2020年の2月21日(金)。コロナ禍で中断になる前、最後の公式戦だった。

 元レッズの石原直樹に先制され、興梠慎三が追いつき、レオナルドが勝ち越して前半を折り返したが、後半に入って決して背が高くない山田直輝にクロスからヘディングシュートを決められた。

 最大のヤマ場は、2-2にされた直後の70分、鈴木大輔のクリアがVAR適用第一号となって、ハンドに判定されPKを湘南に与えてしまったところだろう。オンフィールドレビューで何度も大型ビジョンにプレーが映され、問題のシーンになるたびに場内からどよめき、拍手が起きた。鈴木は「何度も見せられるうちに気持ちが悪くなってきた。もうハンドでいいから早く試合を再開してくれ、と思った」という。

 ここで勝ち越されると1点が重くのしかかるに違いない。そう思って固唾をのんで祈りながらPKを見つめていたら、相手のタリクのシュートが枠を越えた。

 相手に行きかけた流れを引き戻した感じがした。

 その後、85分に関根貴大がエリアのライン付近でボールを受けると、ドリブルでコースを作ってシュート。これが決まった。

 

 この年はルヴァンカップでシーズンが始まり、レッズは2月16日(土)、ホームでベガルタ仙台に大勝。公式戦2連勝で波に乗るところだったが、この後はコロナ禍という前代未聞の危機で、先が見えない中断となった。コロナがなければレッズの成績はどうなっていただろうと今でも思う。

 そのコロナ前最後の試合だったこと、過去2年間勝っていなかった湘南戦だったこと、金曜のJリーグで勝ったこと、リーグの開幕戦に勝ったのは2016年が最後だったこと、VARをいち早く経験したこと、そして劇的な勝利だったことなどが重なって、記憶に深く刻まれている試合だった。

 

 そして、レモンガススタジアム平塚と名称が替わった2021年、2022年のリーグ戦と今季のルヴァンカップまで。アウェイでの公式戦4試合は、いずれも0-0だった。

 8月19日(土)、つまり名古屋グランパス戦に勝利した翌日、小泉佳穂が「あらためてホーム好きだなって思いました。アウェイが嫌いとも言えますが(笑)。次の湘南戦はアウェイでずっと勝っていませんよね。ここで勝ち切れるかどうかがチームとしての分水嶺です」と語っていた。

 なにしろ今のレッズは5人を除いて全員が2021年以降の加入なのだから、小泉と同じく、アウェイの湘南戦は、勝てない、点が取れない、というイメージを抱いていた選手は多かっただろう。

 

 2020年の勝利を経験しているサポーターも、その前の2018年、2019年の2年間は湘南に1分け3敗という成績だったことを知っている。特に2018年は4度目の昇格を果たしたばかりの相手に2タテを食らった。 

 平塚は関東というくくりの中では遠いアウェイだ。浦和からJRで1,520円かかる。たしか、初めて平塚に行った1994年、浦和駅の切符自動販売機で買えるエリアの外だったと思う。だから平塚駅では窓口で運賃の精算をするサポーターが列をなしていた。そこまで足を延ばして勝ち点も得点もないのはつらい。

 

 8月25日(金)、記者席から見てバックスタンドの中央から右、ゴール裏、メーンスタンドの中央付近まで「コ」の字型に赤くなったレモンガススタジアム。関東のアウェイではよく見る光景だ。湘南からすれば、2020年から4シーズン連続、ホームで浦和に勝っていない、ということになって腹立たしいかもしれないが、僕としてはあの大勢の人たちが笑顔で帰れたことが何よりだ。

 

(文:清尾 淳)