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Weps うち明け話 #1189
銀メダルが呼び寄せるもの(2024年1月31日)
4日前の話を書くのは気が引けるが、沖縄から船便で着いたと思ってご容赦を。
やはり安藤梢と猶本光の名前はない…。
1月27日(土)、ヨドコウ桜スタジアムの記者室で、INAC神戸レオネッサとの皇后杯JFA第45回全日本女子サッカー選手権決勝のメンバー表を見て気を引き締めた。
キャンプ取材を忘れさせた準決勝
その1週間前。20日の準決勝・サンフレッチェ広島レッジーナ戦は、沖縄でテレビ観戦した。14時20分キックオフの試合を最後まで見ていると、16時15分に始まるレッズのトレーニングキャンプ午後練習の開始に間に合わないが、ギリギリまで見ていこうと思っていた。
前半19分に安藤、42分に猶本がゴールしたときは、試合終了前でもレッズレディースの勝利が確実になった状態でテレビの前を離れられるかもしれないと思った。16時に出れば何とか間に合っただろう。
しかし24分に安藤、54分に猶本と、得点した2人がまるで狙われたように、ケガで交代を余儀なくされる。
どうして? どうして、そうなっちゃうの?
2人に代わって入ったのは伊藤美紀と佐々木繭。2人とも先発しておかしくない選手だ。なのに後半、猶本が負傷退場してからのバタバタぶりと言ったら、まるで10人か9人で戦っているようだった。後半、2-2に追い付かれただけで済んだのが幸運だった。
延長の前に長いインターバルはないが、一度落ち着けば自分たちの流れを取り戻せるはず。そう思って始まった延長だったが、開始1分で広島が点を取った。バタバタはまだ続いていた。
だが、2-3になってから逆に居直ったのか、目が覚めたのか、広島が守りに入ったのか。とにかくレッズレディースが攻める時間が増えてきた。そして112分に清家がヘディングシュートを決め3-3の同点。PK戦で池田が2本を止め、2年ぶりに決勝進出を決めた。結局、宿を出たのは結局17時をだいぶ回ってからで、金武町フットボールセンターに着いたのはレッズの午後練習が終わる間際だったが、この準決勝のリアルタイム観戦は、何物にも代えがたかった。
あらためて安藤、猶本両選手の存在の大きさと、レッズレディースの修正力に感心した。修正しなければいけないほど、バタバタしてしまったところも改善が必要だが。
もともと決勝に進んだら沖縄から大阪まで行こうかと思っていた。今季のMDPの開幕号に決勝の模様を載せるのに、テレビでは得られる情報に限りがあるからだ。準決勝を見て、ますますその思いを強くした。
戦力的にも精神的にも安藤と猶本の不在の影響は大きいだろう。
だが、試合中にケガで次々とピッチを離れざるを得なかった広島戦とは違う。6日間の中で、その覚悟も、その準備もしてきたはずだ。レッズレディースの底力、総合力が試される決勝になる。不安がありつつも、楽しみを多く抱えてキックオフの笛を聴いた。
今季一番の出来と言える試合か
目を見張った。
準決勝の後半のバタバタぶりがウソのような試合が展開されていた。
競り合いの局面で、ガチャガチャっとなっても、結果はマイボール。それを予測していたかのように、周りの選手が良い位置に動いてパスコースを作る。
多くの選手が今シーズン一番の動きをしているのではないかと思った。それは安藤、猶本が不在の分を自分が少しでもカバーしようという気持ちの表れに違いない。
攻撃面で「自分がやらなきゃ」と自覚していたに違いない清家貴子は試合後「背負えるものではないですけど2人の分、自分がチームを引っ張っていけたらいいな、という思いがありました」と明かしている。
特に目に付いたのは塩越柚歩だ。
昨年WEリーグが開幕してから、最も調子が良いときの彼女と比べて物足りなさを感じていたのだが、この日の塩越は今季一番の動きをしていた。19分の、清家のゴール(記録はオウンゴール)につながるボール奪取を見たとき、僕は、「塩越の中に猶本が入っている」と思ったほどだ。彼女も「戦術とかいろいろありましたけど、自分的にはやっぱり(猶本)光さんの分もやらなきゃなという思いで強い気持ちを持って臨んだ試合でした。それが攻守に渡って良い流れや、良いプレーをチームに落とせたかな、と思います」と振り返っている。
もう一人挙げるとすれば角田楓佳。
もともと有望な若手で、試合のたびにうまくなっていく感じがあったが、この決勝でも同様で「今季最良」のプレーをしていた。1対1で相手をなぎ倒すわけではないがうまく入れ替わり、良い位置にいる味方にパスを出す。そうかと思うと、相手の攻撃の起点やボールがルーズになりそうな場所にいち早く顔を出していた。「縁の下の力持ち」的な役割なのだが、プレーは縁の下ではなくピッチで展開されるから、彼女のすごさは誰の目にも明らかだ。彼女自身「チームのために動くというところで貢献できた気がします。自分のところで取り切れたり、限定できたりというシーンが多かったので、そこはよくできたと思います」と手ごたえを感じていたようだ。
あの準優勝があったから、と言えるように
だけど負けた。
後半アディショナルタイムの失点で追いつかれただけに、悔しさが募るが、90分で勝てなかったのは事実だ。
楠瀬直木監督はまず「うちの弱点が出てしまった」と語った。
レッズレディースは、前半は非常に良いサッカーができるが、徐々に苦しくなって最後はギリギリの勝負になることが多い。なでしこリーグ時代からのウイークポイントは徐々に改善されてきているが、まだ完全ではないということだ。だから流れの良いときに2点目、3点目を取っておく必要があるのだが、それと同時に良い時間を長くしていかないと、常勝チームとは言えない。それは練習と試合の繰り返ししかないだろうが、改善のスピードを上げるのは、監督のムチではなく選手たちの意欲だろう。
また監督は「この銀メダルを大事にしていこう」と選手たちに伝えたという。それは、この決勝で良かった部分も含めて悔しい思いを忘れないため。WEリーグ後半戦に向けて乗り越えなければいけないことを忘れないためだ。本当に強いチームになるために、この銀メダルをしっかり見つめていくことが大事だと言う。
安藤と猶本を欠いても、多くの時間で主導権を握る試合ができたことについては、「みんな2人がいない分を埋めようという気持ちで練習に取り組んできた。しかし、INAC対策もそうだが1週間やったからと言ってできるものではない。これまで積み上げてきたものが出せたということ」と、ベースが上がっていることを認めた。
高橋はなが「この悔しさはリーグで返すしかないと思う」と言うように、3月から再開するWEリーグで、I神戸との対戦はまだホーム&アウェイの2試合とも残っている。もちろんWEリーグ全体のレベルが上がっている中で、I神戸だけがライバルとは言えなくなってきているが、現在、首位のI神戸を勝ち点1差で追うレッズレディースにとって、リーグ連覇のためには、この2試合を最低1勝1分けで終えることが必須となる。
「今日(決勝でのPK負け)があったから、また(WEリーグ)優勝まで行けたと思えるぐらいに、後半戦で勝つしかない」と、角田が決意を語ったが、そう心に誓っているのは彼女だけではないだろう。
(文:清尾 淳)