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Weps うち明け話 #1198
他の不安も杞憂にしてくれ(2024年6月27日)
先制点とは、取られると「今日もダメか」と思い、取ると「いつ追い付かれるか」と不安になるもの。
ずいぶん昔、浦和レッズに関するジョークの(ジョークだったよな?)用語集みたいなものを作った人がいて、その中にそんな項目があった。文言は正確ではないが、ニュアンスは伝わるだろう。勝てない試合が続くと、見ている側はそんな気分になることもある。
30年の間に、僕も打たれ強くなっているから、先制されても「今日もダメか」とは思わない。2点までなら「ここから追い付き、追い越せ」と思う。後半の40分を過ぎると「追い付け」になり、アディショナルタイム残り3分ぐらいから「せめて1点」になり、1分を切ると「シュートで終われ」に変わって行くが。
つい最近のC大阪戦と鹿島戦でも2点ビハインドを経験したが、そんな心境で見ていた。C大阪戦は最後の最後まで追い付けると思っていたし、鹿島戦は逆転できると信じていた。もちろん願望が常に現実のものとなるとは限らない。「願えば叶う」というのは正確ではなく、「願えば叶うものもある」もしくは「願わなければ叶わない」というのが無難な言い方だ。
6月26日の名古屋戦。
5月15日磐田戦以来の先制点だった。それを最後にリーグ戦5試合未勝利(ルヴァンも含めると6試合)というのは、上記の「用語集」を思い出す心理状態にあった。
名古屋の攻撃がわかりやすく、かつ慎重だったから、不安はすぐに薄れて行った。最も警戒すべきキャスパー ユンカーが不在だったことも大きい。先制してレッズが一息つくこともなく、攻撃の手を緩めなかったこともある。特にFWのリンセンが相手のセンターバック2人とうまく駆け引きして、前線に来たボールを回収していたことは、レッズ優勢の要因だった。
後半の12分に、名古屋の内田宅哉がゴールへ向かうチアゴを後ろから倒して2度目の警告で退場。レッズが有利になった。
と思う半面、頭に浮かんできたのは5月22日のルヴァンカップ長崎戦だった。スコアレスドローの後半25分に相手が一発退場になり、押され気味と言ってもよかった試合の流れが逆転する。ところが8分後に待っていたのは、1人少ない相手から先制点を奪われるという、あってはならないがありがちな展開だった。
ナイトメア、と言うと大げさだが、同じ水曜日のナイトゲームということもあり、1カ月前の再現だけはごめんだ、という気持ちになった。実際、名古屋は少し攻撃のギアを上げて、11対11のときより危険なシュートを打ってきた。
途中出場した前田直輝と関根貴大が何度かチャンスを作った後に交代というアクシデントもあった。ソルバッケンの交代がハーフタームだったから交代回数は残っていたが、交代人数は関根が最後の5人目だった。この日の名古屋のファウルの多さから、次に誰かが痛んだら脳震盪の疑い以外では交代できない。そんな不安も出てきた。
そしてアディショナルタイムにパトリック。全盛期の力はないとはいえ、何度か彼にやられた経験は身に染みている。野球でいえば9回にホームランバッターが代打で出てきたようなものだ。アディショナルタイム8分が、途中石原が痛んだ時間も加味されて10分を少し過ぎたころ、西川のキックで笛。ようやくすべての不安から解放され、勝ち点3を握りしめることができた。
こんなとき、宇賀神友弥ならこう言うだろう。「あらためて思いました、勝つって大変だ」
僕もそう思った。そして、勝つっていいな、と。
リーグ後半の初戦に勝利。それもレッズサポーターの誰もが、今季一番勝ちたいと思っていた相手に2タテ。名古屋戦の試合中に感じた不安がすべて杞憂で終わったように、前半戦に抱いたもろもろのことが、全部杞憂に終わってくれればいいが。
ところで、この試合でもソルバッケンの凄さを見せつけられた。渡邊凌磨のゴールにつながったプレーもそうだし、その後も相手陣内で左サイドを制していた。右でスタートしたのに、いつか左に替わっていた。
あ、そう言えば、名古屋はソルバッケンを実践的に知っている唯一のJクラブだった。2月2日に行われた沖縄キャンプ中の練習試合、右ウイングで先発し敦樹のゴールに絡んだ。名古屋は右からも左からもオラにやられたことになるな。うん、あれもアウェイ(名古屋のキャンプ地)だったな。
(文:清尾 淳)