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Weps うち明け話 #1203

かつて見た光景(2024年9月2日)

 

 今季やや多めの引き分けの中でも、今のところ最も悔しいドローだった町田戦。

 ただ、その悔しさは少し横へ置いて、この試合の中で湧き上がってきたものがある。

 

 37分、左FKから関根貴大が先制ゴールを挙げた。

 相手に関してしっかりした分析がされ、セットプレーを担当する前迫雅人コーチが立てた作戦が当たり、大久保智明が正確なキックを蹴り、そして直前まで気配を消していた関根が見事に決めた。

 今季、関根は積極的にシュートを放っているが、ブロックする相手に当たることが多く、これまでゴールになっていなかった。均衡を破る先制点。しかもレッズ歴でいうと"長老"組の今季初ゴール。相手は首位の町田。関根に駆け寄るチームメートの喜びようは大きかった。その歓喜の輪が解けてから、関根は一人、浦和ベンチに向かって走り、池田伸康監督としっかり抱き合った。

 

 ああ…。

 僕の脳裏に、かつて見た光景がよみがえってきた。と言っても当時は記者席から俯瞰していたわけではない。

 

 関根が浦和レッズジュニアユースに加入した2008年、中学1年生を担当したのは池田伸康コーチだった。関根は1年生のときから3年生中心のAチームの試合に出ていたから、名取篤監督の指導を受けることも多かったが、ふだんの練習は同学年の選手たちとやっていた。

 2年生からは常時Aチームで活動するようになり、池田コーチもAチームのコーチになった。そして関根が3年生のときは、池田コーチがAチームの監督になった。つまり関根はジュニアユース時代の3年間、ずっと池田伸康さんの薫陶を受けたことになる。

 

 その中学3年生の夏、レッズジュニアユースはJヴィレッジでの日本クラブユース選手権(U-15)に出場した。一次ラウンドを21分けで突破し、決勝トーナメントのラウンド16も快勝。横浜FMジュニアユースとの準々決勝に臨んだ。

 レッズは先制に成功し、前半を1-0で折り返したが、後半は相手に主導権を握られがちだった。しかし後半半ばに関根が貴重な2点目を挙げた。苦しい中で決めた追加点にベンチも大喜びで、まっしぐらに浦和ベンチに走った関根は迎えるチームメートとハイタッチを交わすと、後ろの池田監督としっかり抱き合った。

 僕の脳裏によみがえったという光景はこれだった。

 

 昨年の開幕前、レッズのパートナーでもあるエネクル(堀川産業)さんのホームページの取材で関根からこんな話を聞いた。「僕の宝物」を選手たちに教えてもらう企画だったのだが、関根は迷わず「ノブさんとの出会いが僕の一番の宝物です」と語った。

 できれば全文を読んで欲しいが、この中で関根は「いつかノブさんにレッズの監督になってもらって、2人で一緒にタイトルを獲りたいです」と語っている。

 

 今回、暫定という形ではあるが実現した"伸康レッズ"。その試合で今季初ゴールを挙げた関根。試合後は「点を取ったらノブさんのところに行こうと思っていました」と明かしたが、池田監督は「あいつは口数が少なくて、前日の夕食のときも同じ席だったんですが、そんなこと素振りも見せなかったんです」と語る。だが町田戦でゴールを挙げた関根が走ってきたとき、すぐにジュニアユース時代の横浜FM戦を思い出したと言う。

 

 関根の背番号は、池田監督が現役時代に付けていた「14」。関根がトップチームに昇格したのが2014」年。そしてこじつけるようだが、あのジュニアユース横浜FM戦が2010820日、ちょうど「14」年前だ。

 何となく14に縁のある関根貴大だが、池田コーチと共にJリーグ優勝を果たすのは、トップ昇格から「14」年目の2027年を待つ必要はない。

 

日本クラブユース選手権(U-15)、横浜FM戦で追加点を挙げた関根

得点後、ベンチ前で池田監督と抱き合う関根

(文:清尾 淳)