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Weps うち明け話 #1204
暑い時期の熱い監督交代(2024年9月9日)
晩夏から初秋へ、行きつ戻りつしながら季節が進んでいる。
数年前なら9月の初旬は、そんな時期だったはずだ。しかし今年は、—去年もそうだったかもしれないが—、「晩夏」とか「残暑」という言葉が次の改定時には広辞苑から消えてしまうのではないかと思われるような気候だ。
二十四節気は1年を24等分して、それぞれに気候に合わせた名前を付けたものだと理解している。だからそれを聞けば何月の上旬とか中旬とイコールになって思い浮かぶはずで、今の時期、9月上旬なら「白露」だ。しかし、早朝の気温が下がって草花に露がたまるという本来の意味よりも、自販機で買った冷たい飲料水のペットボトルがすぐに空気中の湿り気を結露させてしまう現象のことを「白露」と呼ぶのかと勘違いしてしまいそうだ。
浦和レッズがペア=マティアス ヘグモ監督からマチェイ スコルジャ監督への交代を発表したのは、二十四節気で言う「処暑」を少し過ぎたころだった。暑さが収まり出す時期のはずで、たしかに一時はあの殺人的暑さも影を潜めたかな、という日もあった。
だが、思わぬ時期の監督解任、思わぬ人の監督就任は、違う暑さ、熱さをもたらしそうだ。
8月28日に、堀之内聖スポーツダイレクター(SD)が語った今回の監督交代の理由をまとめると「現在はチームがステップアップしつつあると考えられるが、さらに成長速度を上げるために監督交代を決断した」ということになる。
この説明を乱暴に言い換えれば「このままでも悪くはないが、次の監督ならもっとスピードアップできると判断した」ということだと思う。以下は、それから類推した僕の想像だ。
今回の監督交代は、これまで度々あった「前監督にこれ以上任しておけない」というよりは、マチェイスコルジャ監督がまた指揮を執れる状況になったのなら、シーズン途中だが交代に踏み切ろう、というものだった気がする。
マチェイ監督が昨季1年だけで退任したのは、クラブ、本人共に、加えてファン・サポーターにとっても、その意に沿ったものではなかった。僕もマチェイレッズの2年目を見たかった。
機会やタイミングが合えば、いや、もっと積極的にクラブはマチェイ監督の再任を模索していたのかもしれない。
もちろんペア=マティアス ヘグモ監督が、マチェイ再任までの"つなぎ"などであったはずはなく、クラブのコンセプトに則ったチーム作りと、今シーズンの優勝を目指すことを要請し、それができると期待もしていたはずだ。そのための選手補強にもかなり力を入れた。
だが補強の目玉とも言えるソルバッケンの出遅れや主力選手のケガもあり、成績は期待されたものとはだいぶ離れてしまったし、チームに向上の兆しが見られるまでにかなり時間がかかったのは間違いない。もし仮に、今の時点で優勝が数字上の可能性ではなく現実的に狙える位置にいて、8月17日の鹿島戦で見せたような強度の高い、闘志あふれる試合がシーズン折り返しまでに見られていたら、たとえマチェイさんの状況が整っていても、シーズン途中の交代はなかったのではないか。
一方、今季の成績とチーム状況がこのとおりでも、後任としてマチェイ監督が控えていなければ、マティアス監督との契約をこの時期に解除することはなかったのではないか。湘南戦から鳥栖戦までの対降格圏チーム4連戦を2分け2敗で終えたときにはさすがに参ったが、その後の鹿島戦で向上の兆しは見られたし、賛否両論あるようだがマティアス監督が目標にしていた「練習の文化」もチームに根付きつつあるようだった。
そんな状況で、今の成績が望んだものと違っているからと、次の監督候補との話し合いも十分行わないままにマティアス監督をクビにするのは、2020年からのフットボール本部の方針に沿っていないし、過去の教訓も生かしていないことになる。
だから堀之内SDの「さらに成長速度を上げるための監督交代」というのは、正直なところだと思う。
今季、優勝するまでに成長を早めるのは努力目標ではあってもノルマにするのは無理がある。だが残り10試合半、どんな戦いをし、どんな結果を出すかで来季のスタート位置が決まるし、場合によってはACL出場の権利をつかめるかもしれない。
今回の監督交代が過去のものと大きく違っているのは、昨季1年間である程度以上の成績を収めた人が後任監督だということ。そこに最も大きな期待をしたい。暑さはいいかげん収まって欲しいが、チームは秋から冬に向け熱くなって行って欲しい。
原口元気という、戦力でもあり、起爆剤でもある選手も加わったことだし。
(文:清尾 淳)