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Weps うち明け話 #1205

あと9試合半で(2024年9月17日)

 

 試合終了の笛が鳴った後、目に留まったのは、石原広教が大の字になってピッチに倒れ込んだところ。そして井上黎生人が西川周作のところに歩み寄り、しっかりと抱き合ったところ。

 勝ったんだ、という実感がした。

 間に試合のない週や、雷雨で延期または未終了の試合を挟んでいるため計算しにくいが、630日磐田戦以来、リーグ戦7試合ぶりの勝利となる。試合数で言うよりも、丸2か月勝利がなかったのだから、"久しぶり感"は強い。

 

 井上は、その磐田戦の終盤、途中出場したが、記録では1分足らずだし、3-0の状況で入ったから、本人に"勝利に貢献した"という感覚はほぼなく、「ようやくスタートラインに立てた」と語っていたように、レッズ加入後初出場を果たした、というだけの試合だった。

 その後、1試合置いて京都戦から5試合連続で先発していたが未勝利。京都戦は古巣相手に初先発、という状況で、アウェイであることを考えればスコアレスドローで手ごたえはあっただろう。

 しかし先発2試合目の札幌戦はチーム全体が良くなかったとは言え、DFとしては屈辱の4失点を喫し、3試合目の鳥栖戦では1-0で勝利をつかめそうな終盤、自分のミスから相手にPKを与えて同点とされ、しかもGKの西川が退場になるきっかけを作ってしまった。

 続く鹿島戦は、アウェイで0-0というDFとしては納得できる結果であり、井上の活躍で失点を防いだ場面もあったが、前節のことを思えば勝たなくてはいけないという思いが強かっただろう。そして8月最後の町田戦は2-1で勝利寸前に、チームとして同点ゴールを許してしまった。

 自分が先発したこの5試合を4分け1敗というのは、新しいチームで先発を続けているという良い感触よりも、先発の責任を果たせていないという思いの方が強かっただろう。G大阪戦の勝利の後、西川の方へ行った気持ちはよくわかる。

 

 石原は、体の痛みをケアしながらの1週間だった。全体の練習にフルで参加した時間は長くないはずで、水曜日あたりには焦りも感じていたのではないだろうか。自分にとって初対面であるマチェイ新監督の初陣(レッズとしては二度目の初陣だけど)でプレーし、結果を残したいという気持ちは強かったはずだ。G大阪戦の途中、何度か痛めた様子も見えたので交代カードが切られるたびに、「石原か?」とも思ったが、右サイドバックをやれそうな選手はベンチにおらず、あるとしたら関根を回すくらいだが、それでは関根にかなりの負担がかかる。佐藤瑶大を入れて前田直輝と大畑歩夢をウイングバックにする「3-5-2」はどうだ? と柄にもなくフォーメーションも想定してみたが、結局石原はフルタイムでプレーした。

 G大阪の攻撃を受ける場面も少なくなかったが、チームメートと連係して守り切った。また49分の得点シーンで起点になったのは大久保智明のドリブルだが、大久保からのパスをうまくリターンし、ドリブル開始のスイッチを入れた感じのある石原だった。

 酒井宏樹のケガでレッズ加入後の出番は思ったより早く回ってきたが、逆に代わりがいない時期もあり、酒井が移籍してからは特に責任が重くなった。ちょうどそのころから勝てなくなってきたこともあり、プレッシャーも大きかっただろう。あの"大の字"—ヒザを立てていたから違う字かとも思えたが、当てはまる字がない倒れ込みは、疲労や体の痛みに加えて精神的な解放感もあったのではないか。

 

 完勝というより、ホッとした勝利というのが偽らざる実感で、クリーンシートではあったが決定機も作られ、そのシュートを選手たちが体ではね返し、失点を防いでいた。レッズのシュート数は5本と少なく、相手の攻撃時間をもっと減らしたいし、自分たちの決定機を増やさなくてはならない。守備のブロックを作るのが速い分、マイボールにしてからの攻撃が遅くなる。それをどうするか、という課題も見えた。

 

 そんな中で感じたのは、鹿島戦から顕著になってきた球際の強さ、プレー強度の高さは維持できていたことだ。これは前任者ペア=マティアス ヘグモ監督の指導によるもので、その成果が出てきたところでの監督交代だった。

 監督が替わっても、その部分はしっかり維持・強化している。そして守備に回ったときの約束事を徹底し、誰もサボらない。そんな昨季よく見られた試合で、監督交代後初勝利を挙げた。

 

 マチェイ監督はG大阪戦後の記者会見で「今は勝ち点が必要ですのでセーフティーなやり方を行っていますけれども、選手たちのことをより良く知っていくことで、彼らをより良く活用できるようにしたいと思います」と語っている。これは新監督体制がスタートしたときの手順だろう。

 そして「シーズン末までには、システムを含めて選手たちを生かすことができればと思っています」とも言っている。

 

 2月時点での「シーズン末」と9月半ばから見ての「シーズン末」は、そこまでの長さが全く違う。

 新にカッコが付いた「新」監督であることはアドバンテージで、逆にシーズン末まで残り9試合半、11週半しかないのは難しい条件だ。

成長が少しでも早まるように後押ししていきたい。

 

(文:清尾 淳)