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Weps うち明け話 #1213
レッズレディースの本気度(2024年12月10日)
三菱重工レッズレディースが今シーズンのタイトルを1つ落とした。
12月8日のWEリーグクラシエカップ準決勝は、サンフレッチェ広島レジーナに延長の末、2-3で敗れた。0-2から後半よく追い付き、その勢いで逆転勝ちまで持って行けると期待したが、最後に力尽きたようだ。ちなみに試合は12時からで、僕は埼スタのプレス控室で、Jリーグ新潟戦のキックオフ14時ギリギリまで配信を見ていたが、延長までは見られなかった。
悔しい限りだが、残る皇后杯とWEリーグに全力を傾けて欲しい。そしてアジアの戦い
にも。
レッズレディースは、女子版ACL= AFC女子チャンピオンズリーグ(AWCL)出場のため、
今季のWEリーグカップはこれが初戦だった。「クラシエカップ」という新名称があまり浦和回りでは浸透する前に終わってしまった。
今回、初めて開催されるAWCLはアジアの女子サッカーが発展する契機となるべき大会で、今後ここに出場することを目指して各クラブがレベル向上のために切磋琢磨していって欲しい。そのためには第1回大会での盛り上げが不可欠だ。
グループステージを突破しているレッズレディースが、3月の準々決勝、5月の準決勝、決勝で良い試合をして優勝する。それはレッズレディースだけの問題ではなく、今後のAWCLのステータスを上げて行くためにも重要だと思っている。
そのことをクラブも十分認識しており、AWCL優勝に向けて入念な準備をしているようだ。いわゆる「本気度」を感じることがいくつかあった。
工藤輝央レッズレディース・スポーツダイレクター(SD)は、今回グループステージが行われたベトナムに事前視察に赴いた。
「試合は10月6日、9日、12日の3日間で、初戦の2日前にはベトナム入りすることが義務付けられていました。実際には、現地の環境に慣れるために、早めに行ったほうがいいのか、ギリギリのほうがいいのか。滞在するホテルはどうか。練習環境はどうか。それを確認に行きました」
その結果、滞在期間は長くないほうがいい、ということで初戦の3日前に入ることにしたと言う。それでも10日間のベトナム滞在になる。
「ホテルで過ごす時間が圧倒的に長くなるので、リラックスできる環境のところ、体を動かすジムがあるところなどの設備を調べて決定しました。ただ重要な問題は食事でした。僕がレディースに来る前、昨年のプレ大会で行ったタイでは、そこがかなり厳しかったと聞いていました」
再認識した遠征での食事の大事さ
昨季、AWCLのプレ大会という位置づけで開催されたAFC女子クラブ選手権のグループステージが2023年の11月にタイで行われ、レッズレディースは今回と同様3試合を戦った。そこに同行した藤倉佳子レディース本部長に話を聞いた。
「タイのホテルには、非常に気を遣っていただいて、日本食なども出していただきました。しかし選手たちの評判は芳しくなく、食があまり進まず、体調を崩したり、体重が減ったりする選手が少なくありませんでした」
これについては選手にも話を聞いた。在籍12年目の栗島朱里は
「去年のタイは、お腹こわしていない人がいないんじゃないかなっていうレベルでした。『お腹どう?』と聞くと『調子良くない』って言う人が多かったです」と"証言"。島田芽依は実際にタイでお腹をこわしたと言う。特に悪いものが入っているはずはないが、やはり「合わない」ということがあるようだ。
試合日はともかく、それ以外の日はある意味退屈しがちなのが遠征。大きな楽しみの一つである食事が楽しみでなくなるのはストレスを発散する機会がなくなることでもある。
「それで今回のベトナム遠征に当たっては、西芳照シェフに帯同をお願いしました。男子のACL遠征でも、大きなサポートをしていただいたと聞いていますし、そこは外せない環境作りだと考えました。
ベトナムでは選手の安全面を考えて、ホテル近くのコンビニ以外は外出しないようにもしていましたので、そういう意味でもホテルの部屋の環境とか食事というのは、選手がリラックスするためにすごく重要だと思いました」と藤倉本部長。
栗島は「ベトナムではお腹をこわすことは1回もなくて、本当にありがたい限りでした。食事が楽しみというだけでなく、食後も食事会場に残っていました。円卓で、毎回座る席は全然違ったので、いろんな選手と話せるし、その時間がリフレッシュっていうか、幸せだとマジで感じました。タイでは食べなきゃいけないから食べて、終わったらさっさと部屋に帰るだけでした」と語る。
島田も「毎回の食事をすごく楽しみにしてたので、それが試合でのパフォーマンスにつながりました」と言う。島田はふだん食事の好き嫌いはなく、何でも食べる方だそうだが、食事によってこれほど差が出るというのは初めての経験だったという。
昨年のタイ遠征に帯同しなかった塩越柚歩は「ベトナムでは朝昼晩の食事が楽しみで、自分も体重が減ったりはしなかったし、パフォーマンス的にも悪くなくて、むしろだんだん上がっていったくらい、かなり助かりました」と語る。
逆にタイには行ったが、今年のベトナムにはケガで帯同しなかった高橋はなは「タイでは、日本人の口に合わせてくれているとは言っても、味には慣れてないし、見た目で『なんだろうこれ』っていうものがあったりすると、やっぱりみんな手を伸ばしづらかったり、油をすごく使ってるなという感じで難しかったと思います。自分は日本代表で西さんのご飯を経験していますから、今回がどれだけ良かったかわかります。栄養もしっかりとれるし、味もおいしくて、食事が充実してるって一番ストレスがなくなるので、食事が楽しみというのはすごく大事なことです」と納得する。
10日間滞在したベトナムでは、西シェフに帯同をお願いすることが、グループステージ突破へ大きな力になった。
男女とも日本でACL初の王者になるために
第1回のAWCLを獲ることについて、藤倉本部長はこう語る。
「歴史の最初に名前を刻むというのはすごく大きな意義があると思っていますし、やっぱりアジアの中で今後なでしこジャパンがもっともっと上に行くためにも、アジア1位のクラブチームはやっぱり日本のクラブであるべきだと思っています。何よりも浦和がアジアナンバーワンというところが、男子も含めてファン・サポーターにも期待されていますので、そういったいろんな意味を考えても、レッズレディースがアジアチャンピオンになるというのは、他方面にわたって大きな意義があると思っています」
ACLで最初に優勝したクラブが浦和レッズで、AWCLでも最初の優勝がレッズレディース。これがアジアでも日本でも、歴史に残ることは、ホームタウンにとって、ファン・サポーターにとって大きな誇りとなることは間違いない。
ただ、そのために他のWEクラブよりも厳しい環境に置かれることも事実だ。
藤倉本部長は「いろいろなことが厳しくなるのは、チャンピオンチームの証明かなと思っています。男子もこういう過密日程を戦い抜いて何度もアジアチャンピオンになっていますから、本当にレディースもそれをやっていかなきゃいけないと覚悟しています。
ただその一方で、やっぱり男子と違ってレディースは事業的にも非常に厳しいんです。リーグ戦が平日開催になることによって、収入が全く変わってきてしまいます。アジアの大会に出るのは、やはりそれなりの費用もかかりますし、そのバランスを取るのがすごく難しいな、というのは思います」
明日はAWCLで先送りされた試合が
明日、12月11日に18時から浦和駒場スタジアムで行われるセレッソ大阪ヤンマーレディース戦は、WEリーグ第5節で、10月の第2週に他クラブは戦い終えている。レッズレディースはこれに勝って、ようやく2位のINAC神戸レオネッサと試合数と勝ち点で並び、首位の日テレ・東京ベレーザと勝ち点1差になる。
ただし「置いてきたものを取りに行く」というだけの簡単な試合ではない。長崎でのクラシエカップ準決勝から中2日だし、相手のセレッソ大阪は強度の高いプレーで知られるチームだ。
さらに明日の試合から中3日の15日には兵庫県で皇后杯5回戦が行われる。相手はWEクラブのAC長野パルセイロ・レディース。移動を考えれば最も厳しい3連戦だが、これはAWCLに出場しているからこその、言い方を変えれば昨季WEリーグを制したからこそのものだし、藤倉本部長の言葉どおり、王者の証でもある。
18時という簡単ではない時間だが、1人でも多くの人に来ていただきたい試合だ。
これからも”本気度”高く準備を
そしてAWCL準々決勝以降が行われる来年3月~5月は、WEリーグでも終盤で佳境に入っている時期。さらに厳しい日程が待っている。
藤倉本部長は「選手も体力的に終盤に来ると疲れも出てくるので、非常に厳しいだろうなと思うんですけど、何よりも選手もモチベーションが違うだろうと思っていまして、昨シーズンもかなりの過密日程を乗り切っています。選手もやっぱりタイトルを獲るということの意味を十分わかっていると思うんです。特にリーグ2連覇してきて、期待が大きいというのもわかっています」
工藤SDは、2007年にレッズレディースのコーチを務めていた。その1年前の2006年は浦和レッズが翌年のACL出場のために、スタッフをG大阪の2006ACLに帯同させるなどさまざまな準備をした年だ。当時、男子も女子も強化部が担当しており、工藤SDは男子がACLを獲るためにどういうことをしてきたかをよく知っている。
「G大阪に帯同した北野大助さん(強化部スタッフ)から当時、直接話も聞きましたし、準備が大事だぞというのはすごく印象的でした。それでいろんな環境を整えることが選手にも伝わると思います」と語る。
準々決勝はレッズレディースのホームでの開催だが、準決勝、決勝の会場は未定だ。それを日本に持ってくる招致の活動など、WEリーグや日本サッカー協会の協力も不可欠だし、水面下での活動もこれから重要になってくる。
レッズレディースのスタッフが、事前の準備がどれほど大事かを知り、それを敢行する構えでいること、すなわちAWCLを獲るのに本気であることは間違いない。
ベトナムでの食事を経験して、クラブの本気度を感じるか、と栗島に聞いたところ、「そうですね。ホテルのクオリティーも今回のほうが高かったと思いますし、西さんを呼んでくれたことにびっくりしました。その本気度がこっちにも伝わったので、言い訳はできないですね。勝ちますよ」と力強く語っていた。
男子よりも早く、日本で初めてのアジア&日本王者を実現させて欲しい。それが浦和レッズへの最大のエールにもなるはずだ。
(文:清尾 淳)