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Weps うち明け話 #1225
アジアを獲るのにふさわしいのは(2025年3月21日)
次の日曜日、3月23日は歴史的な大会の1ステップだ。
AFC女子クラブチャンピオンズリーグ。
女子版ACLあるいはAWCLという略称で語られている、2024/25シーズンに新設された大会で、三菱重工浦和レッズレディースは2023-24WEリーグ王者としてこの大会に出場し、昨年10月のグループステージを勝ち抜いてベスト8に進んでいる。
その準々決勝が23日15時から熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われる。相手は中国の武漢江大。武漢市にある江漢大学のチームということだが、中国スーパーリーグ女子にも属しており、選手が大学生だけなのかどうかは知らない。
大会自体が初めてだから、日本のクラブがアジアでどれくらいのレベルにあるのか、はっきりとはわからないが、一昨年に行われたAFC女子クラブ選手権でレッズレディースが優勝しているのだから、低くはないはずだ。
もちろん、だからと言って今大会でも優勝できるとは限らない。試合では何が起こるかわからないし、そのAFC女子クラブ選手権も突然主催者のAFCが「決勝中止」を発表したのを、決勝に進んでいる両チーム(もう片方は韓国の仁川現代製鉄レッドエンジェルス)などの尽力で、開催にこぎつけたという“前例”がある。
6月にアメリカで行われるFIFAクラブワールドカップも、国代表のワールドカップと比べて認知度は低い。
それが「アジア」「女子」「クラブ」となると、現在のところはほとんど知られていないかもしれない。決勝ともなれば少しはマスメディアも取り上げてくれるだろうが、準々決勝では話題にしてくれないだろう。
だから冒頭で書いたように「ステップ」なのだ。準決勝、決勝への大事なステップというだけでなく、日本の女子サッカーがクラブレベルでもアジアナンバーワンで世界と戦う資格があることを証明するためのステップだ。
先日、WEリーグ再開前に話を聞いたとき、楠瀬直木監督もこう語っている。
「今回のAWCLには本当に日本の女子サッカーを背負っていく命運がかかっていると思うんですよね。
この準々決勝に勝って、5月の準決勝、決勝に勝ってアジア一になり、もしかしたら世界大会もあるかもしれない。そういうところまで一気に行ったら、日本の女子サッカーの世界が変わるでしょう。
それと他のクラブの社長さんとかが応援してくれてるんですよ。優勝したら日本の出場枠が増えるかもしれないし、WEリーグが注目されるということで、選手が他の社長さんに『頑張ってね』と言われてるんです。日本サッカー協会もWEリーグも、みんな協力してくれているので、責任も感じるし、頑張りがいがあります」
なるほど。年代別日本女子代表監督も経験している楠瀬さんだけあって、初めての女子ACLで王者になることの意義を深くとらえている。
選手はどうなのだろう。年代別の日本女子代表の経験も豊富な2人に聞いてみた。
まず塩越柚歩。
「グループステージとはまた違った緊張感がある中で、いよいよ本番が始まるみたいな楽しみな気持ちが大きいです」と、準々決勝を前にした心境を述べた後、日本代表のときとの違いについてこう語った。
「チームあっての自分なので、もちろん代表に選ばれるというのもうれしいですけど、チームでタイトルを獲りたいという気持ちが大きいですし、このチームでアジアで戦えるということがすごくうれしいので、だからこそここで結果を残したいと思います」
そして高橋はな。
「私個人としては、グループステージの時に(コンディション不良で)ベトナムに行けなかったので非常に楽しみです」。そうだった。彼女は、この日曜日が初めてのAWCLなのだ。もちろん代表として海外勢との戦いは多く経験しているし、2018年にはU-20女子ワールドカップで優勝も果たしている。
「強い気持ちを持って臨むことや、自分のプレーについての責任とか覚悟というのは、代表チームでも持って同じくらい臨みますけど、やっぱりこのクラブを背負ってアジアに挑めるというのは、そうある機会ではありません。このクラブにとってAWCLは大きいもの、というのを男子のトップチームを見て学んでいるので、このクラブで何かを残したいという気持ちがすごく強いです」
日本で唯一この大会に出場しているクラブとして、選手たちはやはり日本の代表であるという責任はもちろん感じているだろう。同時に浦和のクラブとしての責任と覚悟はもっと強く感じているはずだ。それは男子がアジア最多の3回、ACLで優勝しているということと無関係ではない。彼女たちの多くはACLの決勝(ホーム)は観戦に来ているはずだし、そこでの優勝がJリーグと同じかそれ以上の盛り上がりを持ってファン・サポーターに受け止められていることも実感しているはずだ。
2021年12月、天皇杯で浦和レッズが優勝し、その約2か月後、レッズレディースが皇后杯で優勝した。同じくクラブチームの日本一を決める大会で、決勝の時期が少しズレていたとは言え、同年度に男女のアベック優勝を果たしたのだ。
「浦和は男女ともにサッカー日本一になりました」
そういうアピールがなぜできなかったのか。浦和のサッカー史上初めてであり、人々が誇りにできることをもっと大きく喧伝すべきだった。
クラブがやらないのだから、レディースを見に来たことのないレッズのファン・サポーターがそういう意識になりにくいのも仕方がないと思う。
だが高橋は続ける。
「もちろんどのタイトルも非常に重要なものですけど、でもアジアを獲るのは浦和レッズがふさわしいと(世間に)思わせなきゃいけないと思うので、その気持ちがすごく強いです」
浦和レッズは、ACL決勝に4回出場して3回優勝していることを誇りにしている。今回レッズレディースが優勝することは、もちろん女子のACL初代王者になることなのだが、浦和のクラブとしては4度目のACL制覇になるのだ。ACLと言えば浦和レッズ、という感覚をさらに不動のものにするためにも、彼女たちは強い気持ちで戦う。
これを読んでくれている人の多くはレッズのファン・サポーターだと思うが、今からでも23日15時に熊谷に行ける人はぜひ応援に行って欲しいし、行けない人もぜひ気にかけていて欲しい。
最後に塩越の決意をもう一度。
「駒場でやりたかったっていう思いはありますけど、埼玉開催になったのも、たくさんの方が動いてくれたおかげっていう話を聞いたので、(熊谷は)少し遠いかもしれないですけど、まず日本でやれること、そして埼玉でやらせてもらえることは、すごくレッズにとって大きなことだと思いますし、だからこそ結果で(応えたい)と思います。ここで負けてるようじゃダメだと思います」
(文:清尾 淳)