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Weps うち明け話 #1232

「開幕前の準備」に欠かせないもの(2025年7月2日)

 

 歳を取ると涙腺が緩くなる、と言われるが、自分はそうではないと思う。

 長く生きているといろいろな経験をして、目の前で起こっていること、あるいは読んでいる文章や写真・映像に対する思い入れが強くなり、心を揺さぶられる度合いが強くなるから、涙が出るのだと思っている。それを「涙腺が緩くなる」と言うならそれでいいが。

 

 試合で負けたとき、自然に涙が出て来ることはある。アウェイだと周りのホーム系の記者にバレるのが悔しいから、人前で目をぬぐうことはしない。ほとんどがスタジアムの記者席で試合を見た後だが、FCWCのインテル戦はテレビ画面の前だった。このときは周りに誰もいないから、後で顔を洗った。

 というふうに試合では何度か経験があるが、クラブからのリリースを見ていて涙がにじんできたのは初めてだった。

 

 6月27()午前10時、三菱重工浦和レッズレディースの5選手がチームを離脱するというリリースがあった。

 これに先立って福田史織が期限付き移籍で大宮アルディージャVENTUSへ、塩越柚歩が完全移籍で日テレ・東京ベレーザへ行くことが発表されていた。

 合計7人。これまでも移籍でチームを離れる選手はいたが、ほとんどが「海外からオファーが来て主力選手が移籍」するか、「出場機会を求めて国内(一部海外も)で移籍」するかのどちらかだった。

 

 主力“級”を多く含めた7人もの選手が、国内移籍を含めてレッズレディースを去っていくというのは今回が初めて。そう思ったら涙が出てきた。

 近年では南萌華や清家貴子の海外移籍が発表されたときも、寂しくはあったが、彼女たちが世界で羽ばたく門出として祝う気持ちが勝ったし、いつかまた浦和に戻って活躍してくれるだろうという気持ちもあった。

 だが今回は、どこへ行くのか定かでないから「世界でがんばれ」という気持ちにもなりにくいし、いつか浦和に戻ってくるという確信が持てない。

 移籍先が決まらないうちに発表されたのは、翌日がチームの始動日で、タイミング的には仕方のないことだとはわかっていたが、「移籍先未定の離脱」が、何となく「どこへ行くかはわからないが、とりあえずここには居たくない!」と彼女らが言っているように見えてしまうからだ。

 

 そんなふうに思ってしまうのは、もちろん3月の監督交代と、その後のクラブの対応が誘因になっている。いくつもの疑問が解消されないまま時間が過ぎ、新シーズンの体制づくりの時期に入ってしまった。ファン・サポーターと違い、選手には「移籍」という選択肢がある。熟慮した結果だろうが、その選択をさせてしまったことが残念だった。

 今のレッズレディースにはそこまで求心力がないのか。

 文字にすると長いが、いろんな思いが同時に浮かんできて、じわっと涙が出てきたのだと思う。

 

 そんな状態で28()の初練習を見に行った。写真を撮っているうちに新シーズンへの期待が湧いてきたから単純な男だ。そういえば、壁に突き当たったようなとき、大原でチームの練習を見ると元気が出るのだが、それと同じだろう。

 ここで練習しているのはみんな、いろいろな葛藤がありつつ今季もレッズレディースでプレーすることを決めた選手たちだから、前を見ているのは当たり前だ。その中には安藤梢や菅澤優衣香、水谷有希もいた。どこまで完全に戻っているかはわからないが、ほぼ同じメニューをこなしていた。

 

 練習後、工藤輝央SDの囲み取材があり、離脱選手それぞれについて説明があった。あくまでクラブ側というか、工藤SDの見解というふうに僕は受け止めた。たとえば「虹の色は赤が強い」と言えば間違いとまでは言えないが、虹の色すべてを説明しているわけではない。しかし虹を見たことがない人は「そうなのか」と思ってしまうだろう。そんな印象だった。

 

 1対1の取材ではないので、あまり突っ込めなかった。そもそも工藤SDに質問するのが妥当なのかわからないこともある。

 4年連続タイトルをもたらした楠瀬直木前監督へのリスペクトを欠いた印象の強い監督交代。

 その後、4月10日に発表されたレッズとしては前代未聞とも言える強い論調かつ内容的に驚かされた声明。

 これらは「不快な思いをさせて申し訳ない」という6月20日の声明だけでは払拭しきれないものをもたらした。はっきり言えば、レッズレディースを応援するファン・サポーターの、クラブへの信頼に水をかけるようなものだった。

 

 こんな思いを抱えたままで、2025-26シーズンをこれまでと同じように闘うのはファン・サポーターにとって簡単ではない。

 一方で新シーズン開幕が来月に迫っている。外国籍選手を含めた何人かの新加入が発表され、彼女たちのプレーを見もしないで言うのは早計だが、現状では戦力ダウンが想像される。それを補う作業に全力を傾けなければならないときだ。

 

 疑問の解明と今季の準備。クラブは並行して進めなければならない。後者があるからと前者を曖昧にしてはいけない。逆に言えば、「開幕前の準備」と言うとき、今季に限っては、ファン・サポーターの信頼を回復することも含まれているんだと、それが欠かせない必須のものなんだと、クラブは肝に銘じなければならない。

 開幕前の残りの期間、スピード感を持って取り組んで欲しい。

 

(文:清尾 淳)