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Weps うち明け話 #1233

大言壮語も過度な謙遜も(2025年8月7日)

 

 天皇杯ラウンド16、モンテディオ山形vs浦和レッズの4日前、8月2日にレッズの公開練習が行われた。

 練習後のミックスゾーンでは、J2クラブが相手の天皇杯初戦という、レッズとしては過去には苦汁を飲まされたことが少なくない状況の試合であること。そしてNDソフトスタジアムでの山形戦という実質的なアウェイゲームに、今季アウェイではまだ1勝しかしていないレッズがどう挑むか。そういうことが取材のテーマになり、あちこちで囲み取材の人だかりができていた。

 この山形戦がレッズ加入後公式戦4試合目となる小森飛絢は、今のレッズの中では山形との対戦経験が記憶に新しい選手として、話を聞かれたが、山形に対しては苦手意識がある旨、話していた。

 

 後で、小森の前所属であるジェフ千葉に詳しいライターが「苦手どころじゃないですよ。昨季の最終節で山形に負けた後、飛絢は号泣してました」と教えてくれた。

 昨季のJ2最終節。千葉はJ1昇格プレーオフ進出ギリギリの6位で、5位の山形との対戦をアウェイで迎えた。7位のベガルタ仙台とは勝ち点で並んでいるので、最終節で引き分け以下だとプレーオフ進出圏内から脱落する可能性があった。

 一方の山形も仙台との勝ち点差は2で、引き分けなら圏内を維持できるが、負ければ7位に落ちる可能性があった。まさにJ1昇格プレーオフ圏内残留を懸けた決定戦だったのだ。

 その最終節。千葉は0-4で敗れた。前節までに23ゴールを挙げ、J2得点王がほぼ決定していた小森もゴールを挙げられず、1シーズン目指してきたJ1昇格への道が最後に閉ざされた。現場にいなかった僕は、いや現場にいたとしても千葉と共に闘ってきたわけではない僕は、そのときの小森の心境を軽々に「わかる」とは言いたくない。想像するしかない。

 だが、この天皇杯山形戦は、小森が個人的なリベンジを果たすチャンスだと思った。

 大会も違う、所属クラブも違う。だが大事な試合でゴールを決めるという、9月前には果たせなかった自分の役割を今度は果たす。同じ相手に対して、同じ会場で。

 そのことで過去は変えられなくても、未来に向けて過去を引きずらない自分が生まれるはずだ。

 

 8月6日、山形戦。天気予報どおりの強い雨。まずはピッチ状態を確かめ、それに慣れることが先決か。と思っている間に失点したレッズは、山形のカウンターに気を付けながら相手陣内に入り込み、シュートを放つ。かなりの本数があったが、ゴール前に人が多くコースが空かない。攻勢を取っているようには見えても山形のリードで前半を終える。

 後半、選手交代が奏功する。61分に金子拓郎がチアゴからボールを受けると、エリア内右から左脚を一閃。相手GKは巻いたボールがゴールに収まるのを見守るしかなかった。金子本人が得意とする形だが、レッズで決まったのはこれが初めてだ。

 そして85分、安居海渡の縦パスを小森がトラップ。少し体勢を崩しかけたがすぐに拾い右足でシュート。横にいた早川隼平が左へ、パスを出した安居が右へ走りDFを混乱させたのも効果的だった。「コースを狙った」というシュートはDFの足に触れたことで微妙に軌道が変わりGKの手を越えてネットに吸い込まれた。2-1

 

 試合後、ミックスゾーンに姿を見せた小森は、前述した昨季J2最終節・山形戦の悔しさを払拭できたわけではない、と語った。「あのときの悔しさは、忘れることはない」と。

 古くからのレッズサポーターなら共感するだろう。1993年、94年、リーグ最下位で川淵三郎チェアマンから「Jリーグのお荷物」と言われた悔しさ(川渕さんは「Jリーグのお荷物と言われているんだ」と語ったが、公の場でチェアマンが喧伝するかのような言い方をするのは、本人がそう思っているということに等しい)。1999年、わずかの差でJ2降格した悔しさ。2004年、チャンピオンシップ第2戦で1人少ない横浜F・マリノスから、あと1点が取れずに、PK戦で年間優勝を逃した悔しさ。あれらの悔しさが、その後のJリーグ優勝やACL優勝で払拭されたか、と言えばされていないだろう。あそこからここまで来たという感慨はあっても、悔しい記憶からなくなることはない。

 だが、それを上回る喜びを自分の力でかち取ることはできる。サッカーに限らず、人生で無駄な経験はないと思う。悔しい経験を忘れず、それを生かした者がより良い未来をつかむことが多い。

 

 小森は天皇杯山形戦について「ACLにつながる大会だから勝ちたい」と試合前に語っていた。

 昨季のJ2最終節はJ1昇格プレーオフ進出を懸けた戦い。もし勝っていても、その後2試合を勝ち抜かなければ目標は達成できなかった。

 この天皇杯もまだベスト8。残り3試合を勝たなければACL2の出場権は得られない。

 

 まだ短い付き合いだが、僕は小森が取材で語る姿勢を見て、大言壮語もなければ過度な謙遜もない、と感じた。記事の目玉になるような言葉が欲しいメディアからすれば物足りないかもしれないが、それだけに口から出る言葉の実現性は高いように思う。

 実際、公式戦出場4試合で2得点。先発でも途中からでも、セットプレーでも流れの中からも、頭でも足でも、ホームでもアウェイでも点を取っている。

 だから「1試合1試合勝っていってタイトルを獲りたい」という、ごく普通に思える彼の言葉に重みを感じてしまうのだ。

 

 その前に、中2日の横浜FC戦が楽しみでならなくなった。「飛絢」という名前はPCに単語登録した。だから以前は「ひいろくん」と呼びかけるときに漢字が頭に浮かんでいたのだが、昨日はカタカナだったような気がする。

 

(文:清尾 淳)