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Weps うち明け話 #1238

継承を持続するために(2025年11月17日)

 

 たまには浦和レッズ以外の仕事もする。

 レッズ以外の仕事、というのはサッカー以外の仕事ということで、僕にレッズ関連でないサッカーの仕事というのはまず回ってこない。みなさん、僕の適性——早く言えば限界——をよくご存じだ。

 

 先日、ある会社の取材をさせてもらったのだが、その社長の姿勢や言葉が記憶に残っている。

 機械の部品を製造している会社で、某有名精密工業メーカーからも注文が来るほど優れた技術を持つ。ただ、その技術は熟練した職人のに負うところが大きく、次代への継承は簡単ではなかった。

 

 紙のマニュアルはあるが、作業中は手が油で汚れるため、見るたびに手を洗わなければならず煩雑だ。しかもマニュアルでは伝わらない微妙な感覚が多いので、どうしてもベテランの職人さんに付いて学ぶ「口伝」に頼らざるを得ない。職人さんによって呼称が違ったり、わずかな手順の差があったりするため、習得には時間がかかったという。

 

 30年前に父親である先代から経営を引き継いだ現社長は、その部分をデジタル・トランスフォーメーションで改革した。

 作業を動画で撮影し、パソコンやタブレットでいつでも閲覧できるようにしたのだ。

 

 ベテラン職人の目線を再現するためにヘッドカメラを装着し、撮影中は職人さんが口頭で説明する。その音声も入っている。さらに工程ごとに細かく保存し、インデックスを付けることで、必要な箇所をすぐ確認できるようにした。

 

 結論から言えば、若手社員の理解スピードは大幅に上がった。

 それだけではなく、作業に関する言語の共通化も進み、不良品が出たときの過程と原因が明確になって再発防止につながるという副次的な効果も得られた。技術の継承と蓄積が、会社の強みとして可視化されたのだ。

 

 僕の記憶に強く残っているのは、社長の最後の言葉だった。要約するとこうだ。

 

 ——自分はナレッジをどう残すかにすごく興味がある。

 自分の代になって30年で技術は進化したが、次の代がまた30年かけて同じことを繰り返すのか。そうではなく、残された動画を見ればいい。継承されないのは、未来の人たちが気の毒だ——

 

 取材先を出てから、レッズのことを考えた。

 社長の言葉が記憶に刻まれた理由。それは「レッズも同じではないですか」と言われているような気がしたからだ。

 

 レッズでは、毎年積み上げられる経験や知識がどのように次の時代に継承されているのか。

 Jクラブの中で、どこにも引けを取らない歴史や財政状況があり、応援するファン・サポーターの数でも群を抜いているのに、J1リーグ優勝は1度だけ——この我々にとって不思議な事象の背景には、組織的な継続性が十分に機能していない面があるのではないか。

 タイトル獲得にも、チームづくりにも、成功例と失敗例があった。それらは歓喜と涙と共に受け止めてきた歴史だし、成功の裏に失敗の要因が隠れていたこともある。

 大事なことは、それらの背景がどう分析され、ナレッジとして「残されて」いるのか、だ。

 

 問題はチーム強化だけにとどまらない。クラブ運営も同じだ。

 たとえばレッズは、これまで何度も機構改革を実施してきた。変革への意欲はポジティブに映る一方で、その度に全社員の名刺が作り替えられ、外部との関係も改めて調整される。そのプロセスがときに関係者の負担になったことも想像できるし、改革が十分に定着する前に次の改革が走り出してしまうケースもあったのかもしれない。

 

 根本的な問題の一つとして、クラブ代表である社長の交代スパンが短いことが考えられる。

 今の田口誠社長はたしか十代目。1992年の誕生から34年で10人目となれば、平均在任は4年以下だ。もちろん、任期の長さそのものが善悪を決めるわけではない。ただ、このサイクルで本当に「継続性あるクラブ運営」が実現できるのか、という疑問は残る。

 社長が10年、20年と長期的に務めることが難しいのであれば、歴史や経緯をきちんと把握しているスタッフが経営陣に加わってトップを支える仕組みを整えることも一つの方法ではないか。

 

 こう書くと、人による継承に頼ってしまい、前半の「人が替わっても継承できるナレッジ」という話と矛盾するように見えるかもしれない。でも、それでいいと思う。

 人による継承と、仕組みによる継承。その両方がそろって初めて、歴史は未来へ渡されるのだから。

 

(文:清尾 淳)