Weps うち明け話 文:清尾 淳

#372(通算#737)

違和感に満足するとき

 1月12日(土)、石川県の金沢市内で「北陸地方関連レッズサポーター」の新年会があった。
 現在、北陸地方に住んでいる人(出身、転勤・転居とも)はもちろん、僕のような北陸出身者、あるいは以前、大学や仕事で北陸に住んでいたことのある人など、それぞれ関わり方はさまざまだ。

 実は昨年の5月19日、清水戦の後、浦和で懇親会があり、そのとき初めて参加させてもらった。多くの人が富山や石川から埼スタへ来て応援し、その帰りだった。1年にそう何回も来られない人ばかりだから、勝って良かったとしみじみ思った。そのときに、"本拠地"で忘年会や新年会があるので是非と誘われたのが縁で、一も二もなく参加した。
 これまで、九州、関西、名古屋、札幌など、その地方在住レッズサポーターの集まりに呼ばれて、仕事が入っていない限り断ったことはほとんどない。ましてや自分が生まれ育った北陸の会に行かないわけがない。ゲストというより仲間気分で出かけた。頼もしい小学生の兄弟を含めて全部で23人の楽しい会だった。

 レッズのオフィシャルサポーターズクラブ(OSC)には、ごく一部の県を除いてほとん全国に登録者がいるそうだが、もちろんOSC登録者でないファン・サポーターを含めれば、日本全国+一部海外に「ウラワ」という言葉に反応する人はいるだろう。ホームタウンから遠くなれば遠くなるほど、その地域にいるサポーターにとっては、「同志」という気分が強くなるに違いない。
 他にも各地で忘年会や決起集会を独自に行っているだろうから、良かったら声を掛けてもらえば、もし行けなくてもビンゴ大会などの賞品でも送らせてもらえると思う。

「越中強盗、越前詐欺、加賀乞食」という言葉を聞いたことのある人もいるだろう。
 これは本当に生活に困ったときにどうするかという、福井県、富山県、石川県の県民性を表わしていると言われる。
 ちなみに自分に照らすと本当に当たっている。人に蹴落としたり、迷惑をかけたりするのが嫌い、と言えば優等生的だが、要するに他人と競争するとか、交渉するとかが苦手なのだ。職を失ったら、どうやって食べていくのか心配である。
 自分のことはともかく、県民性を表わす言葉はそれぞれあるが、この三県のようなドギツイ言葉を使われる地方はないのではないか? 決して結束の固い北陸三県ではないが、そもそも「北陸三県」という括りで呼ばれること自体が、全国から見れば異質なことでは共通点があるのだろうか。
 そういう点では「出身」とか「在住」以外に「かつて在学、在勤していた」という引っかかりだけで、仲間意識ができるのも不思議はないのかもしれない。

 これを読んでいる「北陸地方関連」のあなた。次回は参加してみてはいかが?


 さて、その3日後の15日、埼スタで今季新しくレッズに入ってくる選手たち5人の記者会見が行われた。新しい練習着に身を包んだ壇上の5人は、ユース時代に見知っている阪野豊史を含めて、みんなおなじみの顔。それも「見たことがある」程度ではなく、昨年戦った記憶が鮮明な選手ばかりだ。
 昨年、一昨年と大学サッカー界でAクラスの活躍をした阪野がプロでどこまでやれるかは未知数としても、日本代表歴や五輪代表歴があり、他のクラブで前年までレギュラークラスだった選手が4人というのは、レッズの歴史の中でも初めてだ(04年の岡野雅行は除いて考えた)。移籍元がいずれも昨季のタイトルを獲ったか優勝争いをしたクラブ、というのはJリーグの歴史の中でも珍しいかもしれない。
 しかもチームのスタイルを1シーズンかけて、ある程度定着させてからの獲得だから、当然ミシャ監督の意向は加味されているはずだし、来る選手たちもレッズがどんなサッカーをしているか十分知った上での決断だ。

 ケガでほぼ1年出番がなかった直輝が復帰してくることも含めて、昨季から在籍している選手たちが新しいライバルの加入に刺激を受けて自身をレベルアップさせることを考え合わせれば、チーム力が昨季よりアップする条件は整った、と言っていい。グループステージからの出場は6年ぶりになるACLもあるから、日程的に厳しくはなるが、那須、森脇、興梠にACLの出場経験があるのも好条件だ。

 さて席上、興梠が「昨年、レッズが一番やりづらかった相手」と述べたが、こちらだって那須、関口、森脇、興梠の4人が、相手として与しやすかった思い出はそれほどない。興梠には昨季の鹿島の初ゴールを決められたし(試合にレッズが勝ったが)、那須には3年前の磐田時代、エコパで逆転ゴールを決められた記憶がある…、と考えていたら、冒頭の「北陸地方関連レッズサポーター新年会の席上で聞いた、ある人の言葉を思い出した。

「最近、女房がレッズの大型補強に"辟易"していて、今年は応援できるかどうかわからない、と言っています」

 わかる。
 他クラブで活躍した選手をあまり多く獲得すると、浦和レッズが何だか浦和レッズでなくなってしまうような気持ちになってしまうこともある。僕もかつてはそんな気持ちになったものだ。できれば、さんざん苦労してきたレッズ生え抜きの選手たちで優勝したいなあ、と。
 だがレッズが初優勝した03年のナビスコ杯のとき、都築や山瀬と生え抜きの選手たちと区別して考えることはなかったし、その後にやってきた闘莉王やアレックス、阿部にしてもそうだった。タイトルから遠ざかってから移籍してきた梅崎や柏木にしても同じだ。

 初めは、彼らがレッズのユニフォームを着てピッチにいることに違和感を覚えるかもしれない。その違和感を消していくには、百万の言葉より結果が必要なことは、彼ら自身が一番よく知っている。昨日の敵は今日の友と言うが、気持ちは単純には割り切れないから。
 だが、レッズのために汗を流し、サポーターと共に悔し涙、うれし涙を流していくことで、そして昨年の最終節で槙野がやったような身体を張った守りを見せたとき、あるいは柏戦や天皇杯カマタマーレ讃岐戦のポポのように最後まで諦めない姿勢をゴールに結びつけたとき、当初あった違和感は、いつの間にか連帯感に替わっているだろう。

 このオフ、過去の試合写真を見直す仕事に追われている(仕事でもないか)。
 その中で、千葉時代の阿部や広島時代の柏木、槙野を偶然見つけ、「こいつら(失礼!)、敵のときは嫌な選手だったなあ」と思い出にふけるのだが、"黄色い阿部"や"紫色の柏木"に、自分が一瞬違和感を覚えたことに何だか少し満足してもいるのだ。

 那須たち4人にも、そうなってくれることを期待している。
(2013年1月18日)
EXTRA
「レッズサポーター望年会」にご参加のみなさんへ。1月4日以降申し込まれた方も全員ご参加いただけます。詳しい参加案内を来週メールします。なお定員まで若干の余裕がありますので、今から都合がついた方、お友達も参加したいという方もOKです。「#366」をご参照のうえ、お申し込みください。

(2013年1月18日)

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