Weps うち明け話 文:清尾 淳

#814

指宿にて②

 先発メンバー、失点は減らせるか、に次いでのテーマは、「注目選手は」だろうか。
 よく「注目すべき選手は誰でしょうか」とメディアに聞かれて「全員です」と答える監督がいるが、それはそのとおりで、試合前に監督の口から「こいつに注目」という答えが出る方が珍しい。強いて質問するなら「得点の可能性が高い選手」とか「ゲームメークで」などと、条件をつけて尋ねれば答えてもらえるかもしれない。

 と前置きした上で、僕が今季のレッズの注目選手を尋ねられたとして答えるなら、とりあえず
①全員です。
 と答え、もう少し絞って、と言われれば
②新加入の5人がどこまでチームにフィットし、先発争いに食い込んでくるかです。
 と付け加え、その中でも名前を挙げると、と食い下がられれば
③前のチームか、その前のチームでレギュラーだった西川、青木、李の3人でなく、濱田水輝と関根貴大です。
 と答えることにした。
 この2人がレギュラー争いにしっかり割り込んで来ることで、今季の競争がさらに激しくなるからだ。

<濱田水輝への期待>
 1月14日の新加入記者会見のときから、自信をつけてレッズに帰って来たな、という印象だった。
 それを練習試合や紅白戦で、それを実感した。

 まず声が出る。おそらく試合中のコーチングの回数は一番に近いのではないか。
 次にボールを要求する。当然ながら、良い位置に動いて味方のパスコースを作ってからだが、そこでも声が出る。
 そして高い位置を取る。右か左のセンターバックに入るが、同じ側のウイングバックまたはボランチとの位置関係を見ながら、前のスペースに出ていくことが増えた。
 で、高めの位置から縦へのパスを積極的に狙う。バックパスを選択することもあるが、おそらく第一に攻撃的なコースがあれば縦に出すことを念頭に置いているのだろう。シャドーの選手へのスルーパス、あるいは逆サイドのウイングバックへ高めのサイドチェンジなどが目立つ。

 一昨年の水輝は、勝っている試合の終盤、中盤で相手の攻撃の芽を摘むために投入されることが多く、そのときは役割をしっかり果たしていたが、ストッパーの位置で先発したときに、レッズのサッカーになかなかフィットしない印象だった。ハーフライン付近でボールを持ったとき、次のプレーの選択に迷い、逆にピンチを招くことがあった。戻すなら戻す、縦に入れるなら入れる、キープしながらコースを探すならドリブルする、はっきり判断しろよ、と何度も感じた。
 
 今シーズンはそれがなくなったな、と思っていた。俺はもう2012年の濱田水輝じゃない! そんなオーラすら感じていた。
 だが、9日の練習試合、磐田戦ではあまり良いところが見られなかった。
 まず1試合目の後半17分、少し違和感を覚えた森脇に代わって右DFで出場。直接失点に絡んだわけではないが、水輝が入ってから2失点し、新たな得点は生み出せなかった。
 そして2試合目には左DFで先発。昨年の先発メンバーが多かった第1試合よりボールに触る機会も増えたが、2失点を防げず、2-2に追いついた後半追加タイムには、最終ラインでボールをキープしているとき相手に詰められて奪われ、そこから3失点目を喫してしまった。
「判断が遅かった。言い訳はしません」と語っていたが、第1試合の後半約30分出場し、すぐに第2試合でフル出場。疲れは相当あったと思う。残念なシーンだった。

 12日のFCソウル戦。全体の中でも水輝に注目していた。第1試合の左DFで出場した水輝は、やはり積極的なコーチングと、逆サイドへのロングパス、左サイドでの縦パスなども織り交ぜながら、守備に重心を置き、無失点での勝利に貢献した。
「絶対にゼロで終わろうと、割り切ってやっていた。チーム全体にそういう意識があった」と振り返ったが、今後はチームとしての失点ゼロに加えて、攻撃での貢献など個人のストロングポイントを見せていってレギュラー争いに食い込めるかどうかだろう。スピードがあるわけではない分、1対1での強さや、セットプレーで高さを生かすなど「水輝がいて良かった」という部分を出していって欲しい。
 15日の長崎戦でも注目したい。 

<関根貴大への期待>
 中学1年生のときから6年間(ケガで休んでいる時期も長かったが)見てきた関根貴大の良さについては十分知っているつもりだった。重心が低く、速いドリブル、ゴールを狙う貪欲さ、気持ちの強さ、シュートのうまさ、などなど。だが、いくら同年代のアマチュア選手の中でずば抜けていても、問題はプロの中でどこまでやれるか。
 宮崎での練習試合ではゴールも量産していたが、プロ相手にはどうか、ということで注目した磐田戦。関根は右ウイングバックで第2試合に先発したのだが、前半7分にレッズが先制した1分後、自分のサイドで対峙した相手にうまく入れ替わられ、そこから同点ゴールを許してしまった。
「最終ラインで守備をする機会がこれまであまりなく、自分が抜かれたら後ろに誰もいない場面でシャドーにいるときと同じ守備ではいけなかった」という反省の弁だった。
 その試合では攻撃で得意のドリブルを見せる場面もあったが、ゴールにはつながらなかった。

 ソウル戦では第1試合で左のウイングバックに入った。守備で磐田戦のようなミスもなく、攻撃にもよく顔を出していたが、圧巻だったのは後半40分。左サイドでボールをもらうと相手DFに付かれながらゴールを目指してドリブル。最後は阪野に渡してゴールとなった。さらに5分後、矢島とのワンツーのあと、やはりDFに挟まれながらドリブルで抜け出しシュート。GKに触られCKになった。

 あいつ、素走りよりドリブルの方が速いんじゃないか?

 その質問をそのまま関根にぶつけると「はい」と苦笑しながら答えた。練習のシャトルランでは一番速いらしいから、実際にドリブルの方が速いかどうかは計測してみないとわからないが、関根のドリブルはDFにとって下手に取りに行くとファウルになる可能性が高いだろう。
 阪野のゴールにつなげたシーンは「自分で行こうと思っていたが、最後はこぼれてしまった、それが(阪野の)前に行った」とシュートを狙っていたことを明かした。その後のシュートシーンは「中で直輝くんが呼んでいるのはわかったが、そのまま打った」と言う。
 GKに弾かれたシュートについては「入ったと思いました。あれ“神様”コースだったでしょう(笑)」と悔しがる。たしかにGKがギリギリ触らなければ、ゴールの右上スミに決まっていただろう。いずれにしても後半40分を過ぎてから、あのドリブルは相手にとって脅威だ。永井雄一郎、田中達也、原口元気ら、レッズの歴代ドリブラーとはまた違うタイプのドリブル。一度見た人が「またスタジアムに来たくなる」プレーだ。

 指宿での2試合を終えて関根は「相手が強くなると個人だけでは打開できないからコンビネーションが大事だし、サイドからのクロスも抜き切らないで上げることもやっていかないといけない。それと課題は守備。ユースでは相手が動いてからでも間に合ったがプロではもっと予測して動かないと。後ろからのコーチングもよく聞いてやっていきたい。でもソウル戦で持ち味のドリブルを見せられたのは良かった」と感想を述べた。こちらも長崎戦が楽しみだ。

(2014年2月14日)

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