Weps うち明け話 文:清尾 淳

#815

積み上げてきたもの

 3月13日、予想も覚悟もしていたことだったが、無観客試合の決定を受けたとき空を仰いだ。
 日本初、Jリーグの歴史上最も不名誉な試合の開催が、浦和レッズに課せられた。そのことを自覚するのに、天に顔を向けて「さあ、罰してくれ」と言いたい気分になったのだ。

 だが顔を降ろして頭に浮かんだのは、無観客試合は1試合で終わるが、本当に残念なのはそのことだけではない、ということだ。

 1992年からクラブが貫いてきた、応援の形やスタンドのルール作りは、サポーターの自主性に任せるという姿勢。ときとして一般常識や法律から逸脱する行為があっても、単純な罰則を当てはめるのではなく、粘り強く対話を続けて理解を求めるというやり方。ペットボトル投げが止まず担当スタッフがJリーグの会議で総バッシングを受けても、ペットボトル持ち込み禁止にしなかった時期もあった。
 ある意味では賭けだったと言えるかもしれない。浦和レッズのやり方で本当に素晴らしいサッカーの応援を作り上げていけるのかどうか、という賭け。
 その賭けに負けた気がした。
 よく「積み上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れていく」という表現を見るが、本当にそれを感じたのは初めてだった。

 積み上げるのに時間と労力を掛けてきたものほど、崩れたときの敗北感、脱力感は大きい。もう一度、作り直せるのか。今度はどうやって作っていったらいいのか、と。

 無観客試合に先駆けて横断幕やフラッグ類の禁止、MDPやレッズトゥモローの発行取りやめ、表示物禁止の育成・レディース部門への適用拡大、そして一昨日、オフィシャルで発表された「浦和レッズの現状と今後について」。
 クラブからの一連の発表を見ると、これまでとは次元の違う取り組みを予感させる。スタッフに電話やメールしても、なかなか返信がないことからも、内部で毎日のように協議を続けていることが類推される。

「浦和レッズの現状と今後について」を読んで、大反対する部分はない。「検討している」という「全席指定席化」を現実のものにするなら、本当にそれでいいのか、と問いかけたいが、検討することには反対しない。
 その上で、いま僕が願うことは2つだ。

 まず、浦和レッズらしい、迫力ある熱い応援はなくさない。一時的にパワーが落ちるかもしれないが、それがなければ浦和レッズの魅力は半減してしまう、という認識を捨てないで欲しいということ。
「パワー」「熱さ」=「反社会的」と受け取られてしまうかもしれない状況の中で、いまクラブが声を大にして言うわけにはいかないだろう。だが安全・安心なスタジアム作りと、迫力ある熱い応援は決して相容れないものではない。それは握って離さないでいて欲しい。

 もう一つは、そのためにも、新しいルール作りを行うときに、現在埼スタのゴール裏で応援している多くのサポーター、サポーターグループの生の声をできるだけクラブが直接聞いて欲しい、ということだ。ただでさえ、「クラブは一部の中心的サポーターグループとしか話さない」と思われているのだ。たとえ、それが正しい指摘ではなかったとしても、多くのサポーターの意見を吸い上げないまま新しいルールを作って発表するのは、レッズらしくない「お仕着せ」になってしまう。数千人のサポーターの声を聴くのは容易ではないが、それに近づく努力をして欲しい。それが今後のクラブとサポーターの関係作りを方向付ける大事な一歩だ。

 積み上げてきたものが崩れているのは間違いない。
 だが、どこで食い止めるか。いつから、どういう状態でまた積み上げ始めるか。
 それは今の動きにかかっていると思う。

(2014年3月28日)

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