#882
押しがけ
車もバイクも、まずエンジンが回り、その回転がタイヤに伝わって動く。
タイムラグはないが、エンジン→タイヤという順序が基本だ。
だが、逆もある。
バッテリーが上がってエンジンがかからなくなった車を押しがけするときだ。押しがけは、まずギアをローかセカンドに入れてクラッチを切り、数人で車を押して駆け足程度のスピードになったらクラッチをつなぐ。そうするとタイヤの回転がエンジンに伝わってエンジンが回り、始動する。通常と順序が逆だ。
クラッチをつなぐと同時に適度にアクセルを踏む加減がちょっと難しかったり、バッテリーが完全に放電してしまっている状態ではなかなかかからなかったり、始動してからしばらくライトなどをつけずに走らないとすぐにまたかからなくなってしまったり、そもそもマニュアル車でないと不可能だったりと、「最近はあまり見られないが、昔は普通に行われたもの」の一つだ。
何の話かと思うが、人間の感情と顔の表情も似たところがある。
悲しいとき、怒ったとき、楽しいとき、人間は自然とそういう表情になる。人によってその度合いは違うだろうが、感情を顔に出さないゴルゴ13以外はみんなそうなる。感情が先にあって表情が変わるのだ。
だけど、何も楽しいことがないときに、無理にニコニコしてみると、多少楽しくなってくるものだ。とりあえず口の両端を上げてみるだけでもいい。目を柔らかく細めるともっと効果的だ。
本来は感情が先にあって、それが表情に出るのだが、表情を作ることによって多少そういう感情を催すことができると思う。もちろん他の表情と感情の関係でも同じだろうが、わざわざ悲しんだり怒ったりする必要はあまりない。
またまた何の話かと思うが、11月7日の川崎F戦。残り2試合必勝の決意で臨んだ初戦に引き分けた。前半は、F東京戦のようなアグレッシブな戦いができていたが得点が1点だけだった。そして相手の攻撃をうまくしのいでいたが、終了近くに同点にされ、そのまま引き分けた。
広島が勝ったので、得失点差だけでなく年間勝点でもレッズは2位になってしまった。翌日以降の気分が楽しかろうはずはない。
しかし冷静に考えると、ひっくり返すのが難しいほどの得失点差があった状態と現在の勝点2差とでは、それほど大きな違いはない。最終節、「レッズ勝ち+広島分け」では年間順位を逆転できないから(12対0で勝てば別だが)、多少不利になったが、神戸に勝たなければいけないという状況は同じだ。押していた試合で引き分けたのは残念だが、よく言う「負けに等しい引き分け」ではなく、勝点1が大きな意味を持っている。2週間ずっとくよくよしているのはバカバカしい。切り替えて神戸戦へ気持ちを持って行こう。
そう考えて、以前から実行している「無理ニコ」顔をしてみた。そのときに、これってマニュアル車の押しがけと同じではないかと思った次第だ。
しかし11日(水)の天皇杯の勝利で、無理ニコをしなくてもよくなった。
あの試合のメンバーは、リーグ戦とはだいぶ違ったし、相手はJ3のチームだ。11番の選手はJ1レベルだと思うが。
何より、天皇杯の勝利は、年間順位争いに直接プラスとなるものではない。
それでも勝利というものは、応援するものを笑顔にしてくれる。特に、ふだん試合出場の機会が少ない選手たちが活躍して、大量点を見せてくれたことがうれしい。もちろん神戸戦に向けてもメンタル的にはプラスになるし、チームの底上げという点でもポジティブな結果だ。
とりあえずは川崎F戦後のブルー気分を変えてくれた、天皇杯初戦の勝利に感謝だ。
押しがけも無理ニコも疲れるから。
(2015年11月13日)