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Weps うち明け話 #1047

泣くはずはないが(2020年10月19日)

 

 1分? そんなに短くはないだろう―。

 今季、勝っている試合でアディショナルタイムの表示を「そんなにあるか?」と思ったことが何度あっただろうか。そしてワンプレーが終わるたびにストップウォッチを見て、あと何分、あと何秒と気を揉んできた。

 しかし10月18日(日)の仙台戦は違った。「1分」表示ということは長くて1分59秒ということだが、飲水タイムはあるし、選手交代もあったのだから最低でも3分はないとおかしいんじゃないか、とふだんの勝ち試合と真反対のことを考えてしまった。

 

 前半を折り返したとき、ハーフタイムに大住良之さんが寄ってきた。

「泣いてる?」

「ンなわけないでしょ!(たしかに前半3-0なんて今季初めてだけどさ)」

「気を付けないと、後半3点取られるかもしれないよ」

「それは嫌ですね(それが一番心配なんだわ)」

 僕が感激して泣いてるんじゃないかと大住さんにからかわれるほど「前半3点」はうれしかった。

 しかし、これで緩んでしまうと、これ以上点が取れないばかりか、失点を食らうこともある。そうなったら、緩んだレッズが勢いのついた仙台を止めるのは難しくなる。後半の立ち上がりがカギだな。

 

 懸念は6分で払拭された。汰木のこの試合2つ目のアシストで興梠が2点目。4-0と突き放した。そして22分にレオナルドが決めて5点目。

(こりゃ、9点までいくこともあるんじゃないか)

 真面目にそう思った。

 9点。J1の最多得点試合記録? いや、それは関係ない。前節が終わった段階で負っている得失点差の借金「-9」を一気に返済してしまえるんじゃないか、と考えたのだ。そうすれば、残り10試合で目標の1つ「最終得失点差+10」を達成することも可能になる。

 

 6点目が入ったのが後半41分だったので、9点までは難しくなった。12分のレオ(右ポスト)、20分のエヴェルトン(左ポスト横)、21分のマルティノス(GKナイスセーブ)が決まっていたら…と取れなかった狸の皮を数えていたが、それでも借金はできるだけ減らしておきたい。

 それが、アディショナルタイムが1分でも長くなって欲しかった理由だった。

 

 終了の笛が鳴った瞬間、ピッチに崩れ落ちたのはレッズの選手の方が多かったかもしれない。

 攻め疲れ? というより攻守の切り替え疲れだろう。シュートの数は双方15本ずつだったし、CKは仙台の方が1本多かった。6-0というとレッズが攻め倒したかのようなスコアだが、そうではなかった。前線や中盤でのプレスが効果を発揮して仙台を敵陣に封じ込める時間帯も長かったが、攻め込まれるシーンもあり、守るべきところはしっかり戻って守っていた。総走行距離は仙台がわずかに長かったが、総スプリント回数はレッズがだいぶ多かったというデータもある。

 

 だが終了後の振る舞いは相手と似ていても、レッズの選手たちは達成感のある疲労を味わっていただろう。

 5試合ぶりホームでの得点、6試合ぶりホームでの勝利。8試合ぶりホームでの完封。どれも浦和のチームとしてホームでは毎試合目指さなくてはいけないものだが、今季はそれがあまりできていなかった。ようやく「浦和を背負って闘う責任」を果たせたのだからホッとするのも無理はない。

 

 ホッとするのは昨日と、オフの今日までにして、明日からはまた緊張感のある練習が始まる。

 大槻監督は、名古屋戦から鳥栖戦までの間、久しぶりにしっかりとトレーニングできた中で、攻守の切り替えの部分を強調してやった、と語っている。それは鳥栖戦、柏戦、仙台戦で十分意識されていたと思うが、仙台戦の結果に満足せず、残り10試合で内容を少しずつ、勝点を大幅に積み上げなくてはならない。そして次節の相手、C大阪に今季公式戦2敗の借りを返すために、十分な準備をして欲しい。

 

 ところで#1046で、汰木のことを長く書いたが、彼は鳥栖戦の初ゴールの後、柏戦でも同点ゴールに絡み、仙台戦では2ゴールをアシストした。特に1点目は、まず武藤のパスをスルーして興梠に渡し、その後ゴール前に進入して長澤のゴールをアシストと、2回も絡んでいる。まったくもって株価急上昇というところだが、仙台戦で目を引いたのは6点目、レオの2点目となるゴールのときだ。右サイドで橋岡がボールを追っているとき、中央のレオから3mくらい外側を汰木が併走し、自分まで通せ、とばかりに手を上げていた。結局、橋岡の右クロスをレオがワントラップしてゴールを決めたのだが、もし汰木が走っていなかったら、仙台の2人のDFはレオに集中できていたから、ゴールの難易度は上がっていただろう。

 クロスに対して1人でなく2人、2人でなく3人がゴール前に入っていくことが決定率を上げる要因の1つであり、汰木はサイドハーフが果たすべき役割を全うしたのだが、「目を引いた」というのは、あれが後半40分過ぎだったということ。

 実は仙台戦の前に、鳥栖戦のゴールに絡んで「もし先発で出ていたとしたら、あの時間にあのスプリントはできただろうか」という質問を汰木にしたばかりだったのだ。汰木は「どうでしょうね。もともと最後まで持たせようと思ってプレーしていませんし、今季まだ一度もフルで出ていないのでわかりませんが、難しかったかもしれません」と答えていたのだが、この仙台戦後半41分のプレーを見て、愚問だったと思った。汰木は、先発フル出場でも最後まで闘えることを証明した。

 

EXTRA

 書いたように、昨日の試合で後半のアディショナルタイム1分というのも疑問符が付くのだが、それは主審の判断なので疑問符にとどめるしかない。ちょうど良い機会なので疑問符ではなく、絶対におかしい、という話をここでしておこう。

 9月26日(土)の横浜FC戦は0-2でレッズがビハインドのまま試合終盤を迎え、アディショナルタイムは5分と表示された。その後、レッズのセットプレーの際に横浜FCの選手が倒れたままだったので、高山啓義主審が試合を止め、同時に両手を上げて「時計を止めているよ」というジェスチャーをした。試合が再開され、95分が近付いたので、さっきのインジュリータイムは何秒くらいかな、と時計を見ていたら、5分を1秒も過ぎないところで笛が鳴った。

 たとえ短くても、10秒ほど過ぎていたならともかく、よりによって5分ちょうどというのは、あのジェスチャーは何だったんだ、ということになる。判定については、微妙なものでも主審の判断なのだから仕方がないと割り切れるが、こういうことがあると、判定への信頼性も揺らいでしまうことになるのだが、どうなのだろう。

 かといってDAZNの「ジャッジ・リプレイ」でやってもらうほどのことではなし…。

 

(文:清尾 淳)