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Weps うち明け話 #1050

優勝を間近で見る青いジャージ(2020年11月9日)

 

 ピッチにいたかったな、というのが正直な感想だ。

 

 11月8日(日)、なでしこリーグ第16節、浦和レッズレディース対愛媛FCレディース。

 後半アディショナルタイムを回ってから、浦和駒場スタジアムはカウントダウンのような手拍子に包まれた。そして後半48分11秒(僕のスマホで)、試合終了のホイッスルが鳴った。5-1というレッズレディースの勝利を伝えた後、なでしこリーグ優勝決定を告げた場内アナウンス、夏川延子さんの声が少し裏返っていた(笑)。うんうん、よくわかる。

 

 写真を撮っていれば間違いなく優勝の瞬間、ピッチにいた。これまで、優勝が決定的なとき、試合が終わりに近付いてくると、その瞬間どこを撮ろうかと悩んだものだった。

 選手の誰かにするか、いやベンチから飛び出してくるところもいいな、いやいや俺はやっぱりサポーターを押さえるべきだろう…。そんな風に迷い、幸せな気分であたふたしている、あの時間帯が妙に好きだった。

 

 もちろん記者席で迎える優勝の時間も、ピッチ全体が見回せて悪くないのだが、もし昨日のあの瞬間、どこを撮っただろうかと考えてみた。

 普通に考えればキャプテンの柴田華絵か他の選手、あるいは森栄次監督…。

 でも、そういう絵はきっと誰かが押さえるはず。誰も撮らないから、自分が撮っておけば将来役に立つかもしれない、という「隙間産業」的な発想になりがちな僕は、もしかして、いやたぶん、ピッチの周りにいる青いジャージ姿の女の子たちを狙っていただろう(この表現、誤解を招くな)。

 

 青いジャージの彼女たちはレッズレディースユースの選手たち。

 なでしこリーグのホームゲームでは、ボールパーソンや担架要員をはじめ、備品の出し入れなど試合運営に関わるかなりの部分を、レディースの育成部門の選手たちが請け負っている。土曜、日曜だから、自分たちの試合と重ならない選手たちが当番となる。

 昨日はレディースジュニアユースチームが、全日本U-15女子サッカー選手権の関東予選で、ひたちなかへ行っていたので、駒場に「出動」したのはレディースユースチームとジュニアユースの中学1年生だった。ちなみにレディースジュニアユースもこの日勝って、全国行きを決めた。

 

 レディースユースチームは、関東予選を優勝で勝ち抜いて、来年1月に行われる全日本U-18女子選手権に出場を決めている。2009年度に優勝(池田咲紀子たち)して以降、ほぼ毎年、決勝あるいは準決勝にまでコマを進めているが、10年間王座には就いていない大会だ。今回が最後の挑戦となる高校3年生たちには昨年、一昨年も出場している選手が多く、負けた悔しさを十分味わっている。その雪辱も含め、11年ぶりの優勝を目指して欲しいと思っているのだが、昨日の優勝を間近で見たことで、新たなモチベーションにしてくれたのではないだろうか。

 

 今季、レッズレディースの登録26人(ユースの福田史織を除く)のうち、育成出身の選手は14人で、半数を超えている(早稲田大経由の柳澤紗希、ジェフ市原・千葉レディース経由の上野紗稀、オルカ鴨川からレンタルバックの小嶋星良を含む)。昨日のメンバー18人では9人がそうだ(福田を含む)。これは09年、14年のリーグ優勝時に比べて非常に多い。

 レディース部門の3カテゴリーは、同じレッズランドで練習し、ときには選手がカテゴリーを越えて練習参加することもあり、「ファミリー意識」は男子のそれよりも強い。トップチームがバスで遠征に行く際はレッズランドを出発するときに、育成の選手たちが手を振って見送ることもある。トップの選手たちは「いつもホームゲームの運営を手伝ってくれてありがたい」と感謝の意を表するが、育成出身の選手にとっては自分も通って来た道、なのだ。

 

 育成出身の一人、センターバックの南萌華は昨日、優勝後の記者会見でこう語った。

「ユースやジュニアユースの子たちは、いつも一番近くで見てくれているので、いろいろな刺激を与えたいし、運営を通じてそれぞれの成長にもつながってくれるようなプレーができたらといつも考えている。

 優勝できたことで、トップでリーグ優勝を目指したい、この場所に自分も立ちたい、と思ってくれるようなサッカーやプレーを見せられたのは良かった。自分も先輩方のいろいろな素晴らしい姿を見てきた中で、そういう姿を見せられたのは良かったと思う。」

 

 育成からトップへとつながるレッズレディースの流れは、年々太くなっている。

#1049」で、「『ホームで』『勝って』優勝、というこれまでにない舞台が整っている」と書いた僕だが、「育成の選手たちの目の前で優勝する」ことが絶大な効果を持つことには、うかつにも当日、青いジャージを見るまで気がつかなかった。

 2020シーズン、日本の女王の座に就いた浦和レッズレディースの育成チームであることに誇りを持ち、12月15日から始まる全日本U-15女子選手権でレディースジュニアユースが、1月3日から始まるU-18女子選手権でレディースユースが、優勝目指して突き進んでくれるだろう。

 もちろんレッズレディースに、皇后杯全日本女子選手権で初優勝とシーズン2冠目を勝ち取ってもらいたいことは言うまでもない。 

浦和レッズレディース優勝の瞬間を見届けたレディースユースの選手たち(手前)。

次はきみたちだ!=2020年11月8日、浦和駒場スタジアム

 

(文:清尾 淳)