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Weps うち明け話 #1086
個人の成長がチームに影響を(その1)田中達也(2021年6月4日)
リーグ戦第17節と言えば、通常のシーズンならちょうど前半戦が終わったところだ。
今季は19試合で半分となるが、リーグで未対戦の湘南と柏にはルヴァンカップで同グループだったので、今季のJ1チームとはひととおり対戦している。だからだろうか、2週間リーグ戦がないこともあって、何となくもう前半戦が終わった気分でもある。
浦和レッズは、初期の3分の1を過ぎて5月上旬から順位を少しずつ上げていく時期に入っている、と#1084で書いた。
ビルドアップ→チャンスメーク→得点という最後の仕上げの部分でキャスパー・ユンカーの加入が大きくプラスに働いたことは事実だが、それだけではない、とも。
ユンカー以外に、現在のチーム状況を作り出すのに貢献した選手はたくさんいるが、なかでも僕は田中達也、汰木康也、柴戸海の3人を挙げたい。
僕の主観だが、開幕当初に比べて4月以降、目に見えてプレーが変化してきたと感じているのが、この3人の選手だ。ちょうどレッズが勝ち始めたころと、ほぼ軌を一にしている。彼ら個人の成長がチームの成長にリンクしているのではないかと思った。
ということで、なぜ僕がそう感じたか。それに関して本人たちはどう言っているか。さらに、その言葉を聞いて僕がどう思っているか、などを書いていきたい。
あくまで「変化が見えた」選手であって、開幕当初から高いレベルで貢献し続けている選手ではないから、念のため。
まずは、背番号11。田中達也だ。
まず守備への貢献に変化を見た
初めて試合で達也の変化を感じたのは、4月28日(水)のルヴァンカップグループステージ第4節・湘南ベルマーレ戦だった。
スコアレスドローで終わったこの試合、湘南の厳しいプレスに遭って、レッズらしいビルドアップが阻まれる時間帯もあった。縦パスがカットされ湘南がカウンター攻撃を仕掛ける際、レッズの右サイドにボールが出たときは、右サイドバックの宇賀神を始め、ボランチの金子や敦樹、それに右サイドハーフに入っている達也らが対応することになる。
最初に訪れたその場面で、達也のプレスバックが速く感じた。そのため相手のボールホルダーに前後、あるいは中からも含めて三方向からプレスがかかり、この位置からレッズがピンチを招くことはあまりなかった。また囲んでボールを奪うこともあった。
これ以前に、僕が達也に抱いていたイメージは、将棋でいうと「香車」。右サイドでボールを持って前にスペースがあるとき、あるいは前のスペースにボールが出て前を向いているときは、めっぽう速くてクロスまで持って行くことが多い。最低でも相手DFに当ててCKを取る。そんな感じだ。
しかし、自分へのパスが相手にカットされたときや、相手のサイドチェンジが右サイドつまり自分の後ろへ通ったときは、ファーストディフェンスやプレスバックに行くのがワンテンポ遅くて、あまり効果的な守備ができていないように感じていた。もしかして前への意識が強すぎて、後ろへの動き出しが遅れるのかな、と思っていたのだった。
調子が戻り守備にも好影響?
2月13日、埼スタの第2グラウンドで行われたSC相模原との練習試合で見せた、縦パスにスピードで追い付いて決めたゴール。
あの再現をずっと期待していたのだが、攻撃では達也が生きる展開にはならず、一方、守備でも大きな貢献はできないでいたから、試合の中で背番号11が光る場面は多くなかった。そのうち先発はルヴァンカップだけ、という状況になった。
得点に絡んだのは、4月になって初めての出場となった21日(水)のルヴァンカップ第3節の横浜FC戦だ。後半12分、福島の左クロスが流れてきたのをダイレクトで折り返し、杉本の勝ち越しヘッドをアシストした。
公式戦初アシストを決めると、4日後のJリーグ第11節大分トリニータ戦では初ゴールが飛び出す。後半24分に途中出場すると37分、明本の左アーリークロスにタイミング良く走り出し、ゴール前で小泉がつぶれてこぼれたボールを蹴り込んだ。2-2からの勝ち越しゴール。逆転されて再逆転という展開からも、時間帯からもスタンドからはマスク越しに大歓声が起こったが、本人は昨季まで在籍し、自身を成長させてくれたクラブからのゴールに笑顔はなかった。
勝利にはっきりと貢献した試合が続き、大分戦の3日後に冒頭の湘南戦が行われた。連続ゴールを期待したがそれとは違う、達也の思わぬ変化を目の当たりにした。この守備について本人はこう語っている。
「あのころは守備に対する意識が変わってきていて、あの試合はプレスバックなどが速くなっていたと思います。走るということに関してはカウンターのときに速く出て行くことは意識していましたが、ここまで守備のときにも速く行くとか、首を振って行った方が良いのかステイした方が良いのかを確認して、行くときはしっかり行く、戻るときはしっかり戻るというプレーになったのは今季からですね」
本調子が戻ってきて、得点に絡むプレーだけでなく守備でも本来の動きが戻って来たのだと思っていたが、「今季から」つまりリカルド監督のサッカーの中で高まったものらしい。
開幕当初は痛みを抱えていた
変化の背景を知ることができたのは5月16日(日)だった。
この日アウェイで行われたJリーグ第14節ガンバ大阪戦でユンカーの2得点をアシストし、自らも得点。3ゴールすべてに絡んだ活躍を見せ、試合後のオンライン記者会見に呼ばれた。その冒頭、開幕当初と当時の動きの違いについて質問された達也はこう答えている。
「開幕して最初のころは、トレーニングキャンプで捻挫してしまったところの痛みがなかなか消えていなかったこともありました。そういうところをレッズのトレーナーの方などに本当によくしてもらって、コンディションも先月くらいから上がってきました。あとはしっかり結果を残せるようにというところで、最近はゴールやアシストができているというのは良かったなと思います」
捻挫?
気が付かなかった。とすれば相模原との練習試合では、その痛みをこらえてゴールを挙げたのか。それが変化の背景ならうなずける。
だが本人は、後日こう言っている。
「ずっと痛みを抱えていたのは事実ですが、何か言い訳みたいになっているのは嫌なんです。本当にトレーナーの方やメディカルスタッフの協力で痛みも引いてきて、全力で走れるようになってきたので、これからは走るという部分でチームの勝利にもっと貢献していきたいと思っています」
本当は、メディカルスタッフへの感謝を表明したかったようだ。
8試合出場で7ゴールに絡む
本来の動きが戻っただけでなく、リカルドサッカーの要素が加わったことでパワーアップした達也は、リーグ戦へ出場がシフトされ、5月22日(土)のJリーグ第15節ヴィッセル神戸戦に先発。後半2分、汰木のクロスからヘディングで先制点をたたき込んだ。古巣の大分戦、G大阪戦でのゴールと違い、今度は喜びを爆発させた。
さらに翌16節サンフレッチェ広島戦では前半15分、小泉のパスに右サイドを抜け出した達也が良い角度でクロスを送ると、走り込んだユンカーには相手DFに阻まれ合わなかったが、汰木が左から再度折り返したところを背番号7がゴールへ流し込んだ。
初めて得点に絡んだ4月21日の横浜FC戦からここまで8試合に出場し、そのうち5試合で7つのゴールに絡んでいる。
快足ドリブラーと言えば、ドリブルシュートのイメージがあるが、
「それにこだわりはなくて、点を取れるなら何でもいいと思っています。ドリブルからはチャンスメークになるのかな、と思っていて、ゴールを取れればいいですけど、アシストかゴールになればいいです」と、あっさりしたものだ。それでは今季の得点への絡みで、手ごたえを感じているものは、と質問すると、
「走力を活かしたプレーが自分の持ち味なので、そういう意味ではG大阪戦の自分のゴールと、その後のアシストですかね。ゴールのときは、アキ(明本)がクロスを上げるときに、相手のセンターバックより先にゴール前に入ろうと思っていました。アシストのときは自陣から敵陣の深くまで推進力を持ってボールを運べましたのは自分の持ち味を出せたと思います」
攻撃面での貢献だけでなく、即時奪回や前線でのプレスなど守備面でのプレーも利いている田中達也。J2時代にリカルド監督のサッカーを相手チームの選手として経験し、理解と共感を持ってレッズにやってきただけに、期待値も高い。
彼を今季大きな変化を見せている3人の1人に挙げたい。
(文:清尾 淳)