Weps うち明け話 文:清尾 淳

#950

今季初

 シーズンインの後は、さまざまな「今季初」が続いて起こる。

 1月27日(土)は今季初のJ1チームとの対外試合、また今季初の90分の試合が行われた。
 昨年は、J1昇格直後とあって"格下"感も多少あった北海道コンサドーレ札幌。今年は、昨季のリーグ11位でレッズとは勝点6しか変わらない同格の相手。対戦成績も1勝1敗で五分、いや、7月29日に札幌ドームで敗れた翌日、レッズは監督交代の決断をしたのだから、特別な敗戦だった感覚がある。そして、ある意味で札幌に「引導を渡された」ミシャ監督が、今は札幌のベンチに座っている…。
 そう考えると、感無量になってしまうので、試合中はなるべくそれを考えないようにしていた。

 1試合目は、GK福島、DFは右から橋岡、岩波、阿部、宇賀神、アンカー青木、二列目は右から李、長澤、柴戸、荻原、ワントップに興梠。23日(火)の沖縄SV戦とは組み合わせを変えて臨んだ。
 2回の練習試合を通じて感じたのは、パスの選択に確実性を重視しているのかな、ということ。最終ラインやアンカーからワントップへ直接当てる縦パスがあまりない。あるいは前線でのフリックがあまり見られない。二つとも局面を一気に攻勢に転じることができるプレーだが、相手に読まれた場合はカットされる危険性が高く、そこからカウンターでピンチを招くことも少なくない。ハイリスクハイリターンなプレーを控えるのは、今季の方針なのか、一次キャンプの今だからなのか。ちなみに沖縄SV戦では、レッズが攻撃しているとき「フリック来るぞ!」というコーチングが相手から盛んに行われていた。たしかに相手の意表を突くプレーが読まれていては効果がない。

 前半のゴールは39分、中央を持ち上がる長澤の右前に李、左を荻原が追い越していき、フィニッシュの選択はいろいろあったが、長澤は荻原へのパスを選び、荻原は早いタイミングで、しかも速いシュート。ネットに突き刺した。左から李にクロスを送ると読んでいた僕は裏をかかれた。「ゴールしか見えていなかった」のが結果的には良かったが、これがさまざまな選択肢を瞬時に頭に浮かべた上でゴールを決められるようになると、凄い選手になりそうだ。

 前半の36分、青木が後ろからタックルを受け、右足首を負傷して交代。相手がボールを蹴ったからノーファウル、というレフェリーの判断だったようだが、後ろから足も思い切り蹴って、それがファウルにならないのでは、選手のケガが増えてしまうのではないかと思うが、どうなんだろう。もっとも、あれがファウルであろうが退場であろうが、青木のケガが軽くなるわけではない。毎年キャンプで何らかのトラブルを抱えて離脱しがちな青木が、今回の一次キャンプは最後まで健康で、かつ張り切っていたのが僕はうれしかったのだが、このケガは非常に残念だ。二次キャンプにはどれくらいのタイミングで合流できるだろうか。ちなみに青木と交代で練習生が右サイドハーフに入り、李がインサイドハーフに、柴戸がアンカーに回った。

 後半は興梠が抜け、李がワントップに。もう1人の練習生がインサイドハーフに入った。
 36分、長澤が今季対外試合初ゴールを見事に決めたが、このキャンプでの長澤からは、昨季の後半つかんだ先発の座を「絶対に渡さない」という気持ちが伝わってきた。そう言うと「それはみんな同じだと思います」と返してきたが、いやいや、その中でも長澤の気迫はAプラスに感じたぞ。

 2試合目は、GK西川、DF右から平川、マウリシオ、槙野、菊池、アンカーに遠藤、二列目右から武富、柏木、練習生、武藤、ワントップにズラタンという布陣。武富がワイドに入るのは、紅白戦や練習試合を通じて(僕は)初めて見たが、前半26分に出されたパスに追いつきそのスピードのまま上げた右クロスが良かった。ズラタンが身体のどこかに当ててシュートとなり、決まるコースだったが、札幌の195センチGKク・ソンユンにわずかに触られたので、バーに弾かれた。武富は30分にもスルーパスに抜け出してGKと1対1になった。左にGKをかわして放ったシュートはゴールをそれたが、ワイドの選手が中央まで入って来てチャンスを広げたことが良かった。武富は後半6分にも柏木のクロスに飛び込んだが、わずかに届かなかった。「札幌戦はシュートなりアシストなり、沖縄SV戦よりゴールに絡むことが課題」と試合前に語っており、狙いどおりのプレーをしていたが、ゴールには至っていなかった。しかし後半17分、中央を持ち上がると良いタイミングで右サイドの荻原にパス。荻原は状況を見て左足でシュートを放ち、ゴールを陥れた。これで武富もしっかりゴールに絡んだ。

 あれ、荻原は1試合目に出ていたのでは。しかも右サイド?
 そう。2試合目の後半16分に練習生と交代して右サイドハーフに入っていたのだ。結局約120分間プレーしたことになる。しかも後半40分にもやはり右から左足でシュートを決め、この日計3点目。ハットトリックとは言えないが、今季チーム初の複数得点と大活躍だった。荻原は他にもシュートを放っており、結局右サイドでプレーした30分間でクロスは一度も上げなかった。「その選択肢はあるのか」と聞くと「あるが、相手と味方の動きを見てシュートを選択した」ときっぱり。それが高確率で成功したことになる。「浦和の荻原は左シュートに要注意」という回状がJクラブに行き渡るのに時間はかからないだろうから、相手がそう認識したところで決めるのは簡単ではないだろう。そして、その壁をぶち破ることがプロとしてステップアップしていく過程となる。期待して見守りたい。
 後半27分には武藤から橋岡への交代もあり、さすがにこの時期の高校生(まだ)は動けるな、と感心した。

 前半、惜しいシュートがあったズラタンだが、後半26分には絶妙のループシュートを決めた。昨季終盤まで出突っ張りだった興梠がまだ本調子ではない中、ズラタンが好調なのはうれしい限り。

 沖縄SV戦を回避した柏木が90分プレーした。まだ完調には遠そうだが、90分動けたことに本人は「それが一番」と手ごたえを感じており、二次キャンプで上がっていく足がかりができた。

 J1クラブとの初練習試合は、2-0、3-0で勝利。「今季初」の失点はまだまだ後でいい。

EXTRA
 ミシャを見つけて近付き、右手を差し出したのだが、彼は右手を出さなかった。両手を広げてハグしてきたからだ。変わらない。チームとしては敵味方だが、彼とはずっと良き友人だ。

写真1

※写真1 1試合目後半36分、長澤がシュートを決める

写真2

※写真2 2試合目前半26分、武富の右クロスにズラタンが合わせる

写真3

※写真3 2試合目後半6分、柏木のパスに武富が飛び込むがわずかに届かず

写真4

※写真4 2試合目後半40分、荻原がこの試合2点目、"この日"3点目を決める

写真5

※写真5 柏木は札幌戦で90分プレーした

(2018年1月29日)

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