#961
初日に感じた漠たる不安(真っ赤な3週間・その1)
4月21日(土)札幌戦のMDP540号の巻末コラムは「真っ赤な3週間」と題して、大槻毅暫定監督のことを書いた。今年の初めに日程を見たときには、この号には十中八九、ミシャのことを書くんだろうな、と思っていたが、開幕して1か月余りの間に、予想だにしない、そして絶対に書かなければならない題材が生まれていた。
11字×100行という、限られた字数ですべてを語りきるのは難しかったので、別の場で詳しく書こうと準備していたのだが、オリヴェイラ監督の指揮による試合が続いているときに、前監督への感謝を長々と書き続けるのはいかがなものか、という考えもあり、取り置いていた。あまり影響がないと思われる今が発表にふさわしいだろう。
ということで、やや時期を外した文章が3回続く。
* * *
4月2日(月)。大原での練習風景は、見たところいつもの公式戦翌日のそれだった。
だが近くにいると、ふだんとのちょっとした、それでいて明らかな違いを感じた。
空気なのか温度なのか、いずれも目には見えないものだが、まずゲーム形式の練習に取り組む選手たちから伝わる熱気、あるいは声が、ふだんと違う気がした。
そして、それを見つめる、前日のJリーグ磐田戦で先発した選手たち。ふだんならリカバリーのメニューが終われば三々五々引き上げていくことが多いが、この日は、就任した新指揮官とトレーニングに励む選手たちを真剣な眼差しで見ていた。
当然だろう。
15連戦が始まったばかりのタイミングで監督が交代。その新監督下での初練習に力が入らない選手はいないし、その練習に加わらない選手も「新しい監督は何をやるのか」を見極めなければならない。
だが一方で、リカバリーを終えて練習を見つめる選手たちの視線に、どこか冷ややかなものを感じたのも事実だ。
すべては僕の心境が感じさせたものだったのかもしれないのだが。
2日の朝、流れてきた堀孝史監督との契約解除を告げるFAX。頭の中で、うなずける部分と「このタイミングで?」という不安が交錯していた。
一方、暫定監督に大槻毅、という告知には驚かなかった。この急な監督交代では、内部から新監督を登用するしかないだろうし、クラブ内にいるS級ライセンス保持者たちのトップチームとの関係を考えれば、大槻氏が候補の筆頭であることは容易に想像できた。
同時に一抹の不安を覚えた。
大槻氏はレッズに来て10年以上になるものの(途中1年ブランクがあるが)、Jクラブの監督は未経験だ。特に、柏木陽介のように比較的チーム歴の長い選手にとっては「俺は『スカウティングの大槻さん』というイメージだった」とトップチームとの関わりを覚えていただろうが、2013年以降の選手たちは「ユースの監督」としてしか知らないはずだ。一昨年にルヴァンカップ優勝とJリーグ年間勝点1位、昨年はACL優勝という成績を挙げた中心選手たちがどこまで求心力を感じるのか。
2011年に堀孝史氏が初めてトップチームの指揮を執ったときも、レッズユース監督からの昇格だった。しかし、あのときは残り5試合の切迫した時期での残留争いという状況が、強力な結着剤になり、求心力は自然に生まれた。堀氏がかつて直接指導したレッズユース出身選手を主力として起用できたことも大きなアドバンテージになった。
今回はまだリーグ戦5試合を終えたばかりという時期での交代。危機感はあっても、それが求心力になるのか。
さらに暫定監督という立場。何試合か後にまた違う監督が来るということがはっきりしているとき、結束力はどこまで強固になるのか。
杞憂に終わって欲しい曖昧な不安が、2日の練習の空気を過敏にとらえてしまったのだろうか。
監督が変わって出番のチャンスだとギアを上げる選手。
監督が変わってサッカーはどう変わるのか、自分の出番はどうなるのかと探る選手。
非常事態に、人間の本能がそう働くであろうという予測をした僕が、その場の空気をそういうふうに受け止めていたのかもしれない。
(続く)
(2018年6月19日)