Weps うち明け話 文:清尾 淳

#966

WATARU

「正直、“それ”はありました」

 遠藤航が答えた「それ」とは、てっきりベルギー移籍のことだと思った。

 僕がした質問はこうだった。

「ロシアから帰ってからの天皇杯松本山雅戦とJリーグ名古屋グランパス戦、遠藤選手のプレーから鬼気迫るものを感じていた。それはワールドカップで出場できなかった悔しさの表われだと思っていたのだが、もしかしてそうではなく今回の移籍で浦和での試合が残り少ないからだったのか」


 7月11日(水)の天皇杯松本戦では、1失点したものの、その後も何度かあったピンチをしのいで逆転勝利に貢献。特に後半26分、中盤で青木が倒され、ファウルにならなかったためレッズに一瞬のスキが生まれ、松本の永井に抜け出され大ピンチになったが、併走する遠藤が徐々に身体を寄せてシュートさせず最終的にはゴール前で宇賀神がクリアした。このシーンは、上から見ていても遠藤の意地を感じた。

 その5分後。レッズの右CKの際、ニアに入り込んだヘディングシュートが逆サイドのゴールポストに弾かれた。後半40分のマウリシオの逆転ゴールの呼び水になったな、と思ったのを覚えているが、実はそうではなく自分のゴールの“予告”だったとは。

 18日(水)のリーグ16節名古屋戦は前半40分に先制のヘディングシュート。柏木の蹴った左CKに後ろから入ってきてドンピシャで決めた。そして2-1のリードを広げたい後半33分、松本戦と左右は逆だが、CKにニアで合わせてファーに流し込む会心のヘッド。勝利をグイと引き寄せた。この試合でも遠藤の気迫をヒシヒシと感じていた。


 21日(土)、遠藤のシント=トロイデンVV移籍の報は“寝耳に水”だった。同時に「なるほど。レッズでの残り試合に全てを捧げたいと思う気持ちが、この2試合のプレーに表われていたのか」と勝手に納得した。それを22日(日)のセレッソ大阪戦のあと、囲み取材で確認したかった。

「そうです」と言ってくれれば「遠藤、浦和に置き土産の2発」と、まとまったのだが違った。冒頭の「それ」とは、ワールドカップで試合に出られなかった悔しさの方だった。名古屋戦の後に決まった話だったのだから当然だ。それほど急な移籍決定だったということだ。


 現所属チームでうまくいかない状態のときの移籍は避けるべきだと言われる。遠藤の場合は、この2年半ほぼコンスタントに出場してきた中でも今が最高なのではないかと思われるくらいの状態で、レッズを離れることになる。今回の移籍で残念なことは、言うまでもなくそのプレーが次の広島戦から見られなくなることだ。だが、それもやむを得ない。


 プロになる前からの夢、いや目標だった海外移籍。それがレッズでの2年半で実現に近付いた。移籍1年目でレギュラー獲得、ACLベスト16、ルヴァンカップ優勝、そしてリーグ戦最多年間勝点。チームへの貢献度合は十分だった。さらに2年目のACL優勝で、世界と戦える選手であることを証明した。ワールドカップ・ロシア大会では出番がなかったが、実力は疑いようがない。移籍先のシント=トロイデンVVで、レッズ時代と同様の活躍を見せれば、さらにハイレベルのリーグへのステップアップも可能だろう。「前登録・浦和レッズ」が消えてしまってもいい。4年後のワールドカップ・カタール大会では、世界の強豪リーグで活躍する「元湘南ベルマーレ・元浦和レッズ」の遠藤航として、日本代表を引っ張っていく存在になっていて欲しい。


 年代別時代から日本代表での国際試合には十分慣れているし、ACLでも同様だ。自分のマイルが貯められるものなら相当の数字だろう。

 それでも居を移しての渡航は初めてだ。

 きょう、ベルギーへわたる遠藤に栄光あれ!

(2018年7月25日)

  • BACK
 
ページトップへ