Weps うち明け話 文:清尾 淳

#974

将来の楽しみ

「クラブワールドカップ優勝」


 その答えは、僕の想像を超えていた。


 11月28日(水)、大原サッカー場で行われた平川忠亮の引退記者会見。他のメディアからの質問と、それにキリッとした表情で答える平川の言葉を聞きながら、発表されたリリースを見ていて聞きたいことが思い浮かんだ。

 リリースに書かれた本人のコメント「やりきった思いが強く、一つの後悔もありません」。この平川らしい潔い言葉に水を指すようで気が引ける部分もあったが、挙手して質問した。


「あえて、やり残したことを挙げるとしたら―」


 平川がほとんど考える様子もなく答えたのが冒頭の言葉だ。

「クラブワールドカップには2度出場したが、いずれも優勝していません。獲れるタイトルは全部獲りたいので、やり残したことがあるとすれば、クラブワールドカップ優勝です」

 記者会見後に簡単に交わした言葉も含めるとそういうことだった。


「2007年のACLとJリーグのダブル優勝」

「2014年、または2016年のJリーグ優勝」

「Jリーグ400試合出場」

 あるいは「小野伸二とのアベックゴール」


 そんな答えを想像していた僕は意表を突かれた。

 想像の「範囲」ではなく「次元」を超えた答えだったが、本人はまるで「あえて、と言われればこれ」と用意してあったかのような回答ぶりだった。


 浦和レッズは、総数はともかく種類としてはJクラブが獲れるタイトルを一度は獲っているクラブの一つだ。あまりありがたみを感じないが、2015~2016年の「1stステージ」と「2ndステージ」両方のトロフィーも持っている(2つを合わせると月桂冠が完成するようなデザインだ)。ディスプレーにないのは、2004年以前の1stステージ優勝と、J2リーグ優勝ぐらいだろう。

 その全てのタイトルを知る唯一の現役選手、平川忠亮が引退することで、レッズの時代が一つ変わる気がしているが、本人はクラブワールドカップのタイトルを獲れなかったことが心残りだと語る。

 出場した大会ではすべて頂点を目差すというプロの姿勢をあらためて見せられた。


 平川はセカンドキャリアについて、はっきり語っていないが、僕は漠然と「指導者も良いと思うが、クラブのスタッフに選手を経験した人が増えていって欲しい」という思いから、「背広組」になるという期待もしていた。

 だが、この日の会見を聞いて、少し考えが変わった。


 いつか平川忠亮監督の下で、クラブワールドカップ優勝を目指す浦和レッズ。

 それも見てみたいし、できることなら自分も一緒に仕事をしたい。


 お前、そのとき何歳だよ、という自問には自答しない。

将来の楽しみ

(2018年11月28日)

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