Weps うち明け話 文:清尾 淳

#985

準備

 そうだった、3連休だ。これがアップされるのは2月12日(火)になる。


 ふだんであれば、だったらアップ日に近付いてから書こう、その間に何か変わるかもしれないし、と考えただろう。でも今回は違う。沖縄キャンプのことは沖縄にいるうちに書いた方がいい。何となくそう思う。だから、これは2月9日(土)に書いている。


 新しい監督のキャンプというのは、ある種の期待を持たせる。

 どんなメニューが用意されているのか、監督は選手たちにどういう接し方をするのか、オフはどれくらいあるのか、練習試合はどういうチームと何試合ぐらい行うのか。


 オリヴェイラ監督の場合は昨年6月~7月に静岡で比較的長いキャンプをやっているから、厳密に言うと「新し」くはない。それでもシーズン中に行うキャンプと、開幕前のそれとは違うだろう。

 同監督の言葉を借りれば(正確にはブラジル流の言い方をすれば)「走っている車のタイヤを替える」仕事を託され、それを成功させるための準備が去年の静岡キャンプだった。そういうたとえで言うと、走っている車のタイヤを替えるのは危険だから止めて、タイヤが劣化してバーストしたり、摩耗してスリップしたりするのを防ぐための処置をした、というのが、昨季オリヴェイラ監督がやった仕事だと思う。

 周回遅れに近かったリーグ戦でトップグループに食い込むまでの追い上げはできなかったが、ゼロからのスタートで、最初はまだ速度が遅くても大丈夫な天皇杯ではトップでゴールインした。


 そんな監督がシーズンの最初からレッズを鍛えるのだから、どんなキャンプになるのか楽しみでないはずがない。車は走っている訳でも、ピットインの短い時間に整備しなければいけない訳でもないのだ。時間はあり、設備も整っており、必要な部品もそろっている。レストア、はチームに失礼だが、オーバーホールに近い処置を行えるのではないかと思っていた。


 そんな沖縄での、のべ16日間のキャンプ。

 終わってみると、PAJEROがGTOに改造されることはかった。昨季、貫き通した3バックを4バックに変えるのではないか、あるいは併用するのではないか、という予想は今のところ当たっていない。杉本健勇という長身FWを生かしたロングボール戦術を多用する様子もまだ見えない。

 最終日の8日(金)に行われた沖縄SVとの練習試合でも、1本目は昨年のレギュラーメンバーがベースであり、フォーメーションも、昨季の終盤と同じ3-1-4-2だった。2トップの1人を杉本、アンカーをエヴェルトンが務めたが、武藤と青木のケガが完治していれば、その2人が起用されていたのではないか(監督もそう言っていた)。そのメンバーで川崎との富士ゼロックススーパーカップに臨むのかどうかは不明だが、大量の入れ替えはなさそうだ。一番多くのファン・サポーターが気にする、システムと先発メンバーについて言えばそういうことだ。


 PAJEROをGTOに変えることはなかったが、PAJEROのチューンナップ、ランクアップを行った、とは言えるだろう(PAJEROに詳しくないのでこれぐらいしか言えないが)。

 6試合勝てば優勝できる天皇杯ではなく、34試合のうち最低でも20勝はし、残りの14試合の半分も負けられないリーグ戦で優勝することが目標なのだ。しかも並行して戦うACLでも優勝を狙いながらだ。実績のあるメンバーとシステムをベースにしながら、その精度と強度を上げる、というやり方が最も成功に近付くのではないか、と僕も思う。攻守の切り替え、コンビネーション、プレースピード、そしてフィジカル。メニューを変えながらそういうものを向上させるトレーニングが毎日行われた。同時に、浜辺でのボールを使わないトレーニングにより筋力も鍛えられたと思う。見てはいないが室内練習のときも、そうだったのだろう。


 沖縄SVとの練習試合の結果は6-3ということだが、1-2と5-1の2試合が行われたと言う方が正確だ。

 1本目のスコアはともかく、杉本と周りの連係はだいぶ良いと思う。これに結果が伴ってくれば、さらに拍車がかかりそうだ。

 面白かったのは2本目だった。直輝が短い時間ながら「らしい」動きで2点に絡む活躍。特にゴールシーンは、長い距離を走って山中の左クロスにダイレクトで合わせるというスカッとするものだった。そのゴールの起点となったのは森脇。右ストッパーの位置から正確なサイドチェンジを山中に送った。他にも良い縦パスを何度も供給するなど森脇は「完全復活」を印象づけた。また2年目の柴戸、荻原も、今季は開幕から試合に絡みそうなプレーを見せてくれた。柴戸は持ち前の危機察知能力を生かした守備力を見せる一方で、守から攻への速い切り替えでチャンスメークも試み、さらには約20mのミドルシュートも決めた。

 総じて言えば、昨季のベースの上に新しく加入した戦力が積み上がるだけでなく、昨季十分に力を発揮できなかった選手が「俺もいるぞ!」というアピールをしている状態だと言える。残念ながらケガで出遅れているファブリシオ、武藤、青木が完全復帰してきたら、文字どおり2チームできて、さらに余るのでどうしよう、というほどの選手層になりそうだ。

 開幕の準備が整ったか、と言えばわからない。紅白戦や練習試合があまりにも少ないからはっきりしたことは言えないのだ。

 しかし12月までのシーズンを戦う準備は整った、とは言えると思う。

 開幕ダッシュができるかどうかはわからないが、完走それも上位で走りきることはできそうだ。


 書き始めたのは沖縄の那覇空港だったが、書き終えたのは東京上空に近くなってからだ。「あと20分ほどで降下を始めます」というCAのアナウンスを聞いて、シーズンの開幕にも近付いているなという気持ちが一段と強くなった。

(2019年2月12日)

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