#987
こっちも3年連続で
昔、というと大雑把すぎるな。
32年くらい前だったと思う。僕がまだ会社勤めをしていたころの話だ。
そのころ僕は、会社で毎晩のように残業をしていた。日曜祝日出勤も重なって「溜まった代休100日以上」などと自虐だか自慢だかわからないようなことを言っていたころだ。他にも残業する社員は少なくなかったが、ほとんど毎日8時、9時まで会社にいるのは僕だけだった時期が1か月くらいあった。昼間は別の仕事で動いていると、デスクワークが夜にならざるを得なかったのだ。
仕事自体は面白かったので、別にそれが苦ではなかったが、ある日こんなことがあった。
やはり夜の9時とか10時ごろだったと思うが、フロアの中で僕が1人だけ残業していたところ、会社の専務が戻ってきた。営業畑のその専務は5時か6時には退社するのだけれど、たいていいろいろな業界の人との会合があり、「俺は飲むのが仕事だ」と豪語している人だった。実際、それで仕事を取ってくるのだから、その能力はすごい人だったと言える。
会社での残業があるはずはないから、おそらく近くで飲んでいて忘れ物だかを取りに来ただけだろう。多少酒も入っていたようだが、「人が残業しているのに酔っ払って帰ってきやがって」とは全く思わなかった。本当にその人は、人とのコミュニケーションで会社に利益をもたらしていたのだから。
ただ、こう言われたのでカチンと来た。
「だめだぞー、清尾くん。一人しかいないのに、こんなに電気を煌々と点けてちゃ」
そう言われて、ふと周りを見ると、たしかに50人くらいが働くフロアの照明は全部点いていた。
「清尾くんが仕事をしていることは認めるけど、こんな無駄をしていちゃ、何にもならない」
それだけ言って、専務はまた出て行った。本格的に帰宅したのか、また飲みに行ったのかはわからない。
言われっぱなしだった僕は、一人でしばらく憮然としていた。
一人しかいないフロアの照明を全部点けておくのは電気の無駄遣い。それはもっともだ。何の異論もない。
でも、この状態は俺が悪いのか?
6時を過ぎるとフロアからだんだん人が減っていく。フロアは部ごとに机がいくつかの島になって固まっており、それぞれを照らす蛍光灯が天井にある。電灯のスイッチはフロアの出入り口にまとまっている。その部から最後に帰る人が、出るときに自分の部の上の照明を消していけばいいじゃないか。
何か? 一つの部が空っぽになるたびに、俺がわざわざ出入り口まで行ってスイッチを切りに行かないといけないのか? この状態を作り出したのは俺か? それとも照明を消さずに帰った社員か?
もちろん、自分が一人になったことに気づいたら自分のエリア以外の照明を消しに行けばいいのだから、僕も悪くないとは言えない。だが全責任が僕にあるかのような専務の言い方にムッと来たのだ。
上司に逆らうのが半ば習性のようなところもあった僕が、そのことに我慢したのは、専務に言われるまでそのことに気がつかなかった自分のうかつさにがっかりしたからだ。今ほど、節電意識などが高くなかったころだったが、それでもたしかにもったいないことをしていた、と反省した。
それ以降、僕は残業するとき人が居ないエリアの照明は消すようにした。夜、広いフロアの1箇所だけ照明が点いているのは外から入ってくるとちょっと不気味な光景なのだけれど。
だが、あのときのムッとした記憶はいまだに忘れない。
しかし最近、あの専務の発言も仕方がないかな、と思うようになった。
専務は6時から10時までフロアの様子をずっと見ていたわけではなく、夜暗くなって帰ってきたのだ。そしたらフロアの照明が全部点いており、見たら社員は一人しか居ない。その光景に出くわしたら、経営者とすれば一人だけ残っている社員に小言を言いたくなるのも無理はないか、と。別に怒鳴られたわけでもないし。
一人でフロアにずっといて徐々にそういう環境になっていった僕と、外から帰ってきていきなりその光景に出くわした専務。その違いはあるだろう。視点の違いということだ。
そう思ったのは、僕が円くなったからではない。
視点の違い、ということから思いついたのだ。
今回の監督交代は(あ、やっとレッズの話ね)、3年連続だし、しかも契約解除された監督はいずれも前年タイトルを獲得している。前の年にタイトルを獲った監督が翌年解任されるのが3年連続って、どうなのよと、この2週間ずっと思っていた。
だけど、こういう見方もある。
2017年と2018年は、監督が途中で交代したにもかかわらずレッズは最終的にタイトルを獲得した。その部分はポジティブに考えていいところではないか、と。
クラブがそれを言う立場にはないと思う。やはり3年連続監督交代の原因、遠因は何かということはきちんと総括しなければならない。
だが、「2年連続監督交代後のタイトル獲得」という事実は事実として見ないといけない。
なぜなら今年も、それを実現しないといけないからだ。
(2019年6月14日)